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においセンサのこれまでとこれから

こんにちは、ガクです。
先日、東京ビッグサイトで行われたSmart Sensing 2023にてパネルディスカッションに参加して参りました。
https://unifiedsearch.jcdbizmatch.jp/jpca2023/jp/sem/smartsensing/seminar_details/lkuBjerwDnY
ご来場いただいたみなさまありがとうございました!

パネルディスカッションは「においセンサを追求してわかったこと、これから起きること。」というタイトルで行われ、においセンサのこれまでとこれからを、モデレーターの吉川さん(NIMS)、パネリストの緒方様(I-PEX株式会社)、喜多様(株式会社におい科学研究所)、今村(株式会社Qception)で論じるというものでした。
今回ステージに上がったこの4人は、これまでにおいセンサについて第一線で研究・開発を行ってきており、なかなか社会実装されないにおいセンサの技術的・ビジネス的な難しさについて多くの経験をしてきている方々です。今回、パネリストの3名については、においセンサの課題について事前に資料を作成し提出していたのですが、3人で示し合わせたわけでもないのに、認識している課題がほぼ同じでした。
今村の作った資料が以下になります。

Qception今村のにおいセンサの課題に関してまとめたスライド

それぞれの項目について簡単に説明します。

【外乱の影響】
においセンサが社会実装されない最大の課題と言ってもいいのがこの外乱の影響です。センサの感度が対象とするにおいを検知するのに十分だとしても、湿度や温度、その他のにおい成分によりセンサの応答が乱されて、においを検知できないということがよく起きます。これによる測定結果の精度の低さは、においセンサが社会で普及しない大きな要因と言えます。

【感度】
技術的な観点で言えば、やはりセンサの感度は依然として大きな問題として立ちはだかっています。センサや対象ガスによって違いはあれど、おおざっぱに現状のガスセンサの感度は0.1 ppm程度と言われています。しかし、例えば排泄臭やカビ臭などは、それより3桁低いppt (parts per trillion)の濃度域であっても人間は検知できるため、こういった成分を検知するためにはまだまだ技術的なブレークスルーが必須となります。

【精密な測定 vs 簡易な測定】
上記の外乱の影響は、測定系を工夫することである程度おさえることができます。例えば、測定試料とセンサを恒温恒湿槽に入れて一定時間放置し、温湿度を安定させて測定すれば温湿度の影響はほとんど出ませんし、ニオイを測る際に用いるキャリアガスとして乾燥窒素を用いれば、空気中の湿度やその他の成分に影響されず安定した測定結果を得ることができます。しかし、そのように外乱の影響を排除しようと思うと、測定系のセットアップがどんどん大掛かりかつ複雑になっていき、測定の手間が増えたり高コストになったりします。そうなってくると、そのようなにおいセンサが使える場面は限られてきてしまいます。測定の正確性と簡便性はトレードオフの関係にあります。

【人間の鼻との比較】
「においセンサ」と聞けば、誰しも人間の鼻との比較で性能を評価すると思いますが、ニオイの検知の原理が異なる以上、においセンサの感じる「におい」というのは、人間の感じるものとは異なります。例えば水蒸気は人間にとっては無臭ですが、多くの化学センサは応答するため、においセンサ的には「有臭」と言えます。また、排泄臭・カビ臭のように、ガスセンサの検出感度をはるかに下回る極めて低い濃度域であっても人間はそのにおいを検知できるガス成分もあります。そのため、人間の鼻基準でにおいセンサの性能を期待されると、どうしても期待とのミスマッチが起きてしまいます。

以上の課題については、パネリストの3名+モデレーターは十分すぎるくらいに認識しており、こういった課題を克服してどのように有益なにおいセンサのアプリケーションを実現するかということで議論しました。
もちろん、答えは神のみぞ知るという具合に正解などないとは思うのですが、今村のとしては以下のように考えています。

  • 現状のにおいセンサの性能でも、実用化できるアプリケーションはあるはず。

  • においセンサというシーズと、産業的なニーズが、まだうまく出会えていないため、シーズ側の我々は幅広く産業的なニーズを探る必要がある。

  • 「においセンサ」という言葉にとらわれず、広く「ガスセンサ」としてにおいセンサをとらえると、多くの可能性が見えてくるのではないか。

においセンサの社会実装は、ある意味で人工知能の社会実装に似ているところがあるかなと思っています。
人工知能も、その言葉から、思考を行う知的なシステムが期待されがち(少なくとも2001年に映画「A.I.」が出た時代はそういった感覚だったように思います)ですが、DeepL翻訳やChatGPTのように、特定のタスクをそれなりの精度でこなせるツールは、世間から大きく注目され幅広く活用されるようになりました。
においセンサ(=人工嗅覚)も同様に、今は漠然と「人間の鼻の代わりになるセンサ」と期待されているかと思いますが、具体的に特定のタスクをこなせる実用的なものができれば、それを皮切りに様々なアプリケーションができ、社会に実装されていくのではないかと考えています。

今回のパネルディスカッション、およびイベント前後の裏方での議論は非常に有益で、「においセンサはどうあるべきか」「どうすればにおいセンサは社会に普及するのか」等について様々な意見を交わすことができました。
これからもいろんな観点からにおいセンサについて考え、においセンサという新しい技術の社会実装に向けて頑張っていこうと思います。


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