何かが失われた

会社の飲み会から帰ってきたとき、何かが失われたと感じた。


テレワークど真ん中に入社した自分は今まで上司との飲み会に行ったことがなかった。所属しているチームも淡泊なので飲み会も懇親会も、会社で集まって仕事することもなく、フルリモート家の中で過ごしてきた。社会人特有の様々な事象からは縁遠く、学生気分を保ってきた。だがコロナが落ち着き、先月頃から社会に出なければならない雰囲気が漂い始めた。出社制限や会食制限が取り払われ、そろそろ対面で、、という流れが来た。そんな中、社内軽音部の懇親会の招待が届いた。

軽音部の存在は入社してすぐに知った。社会人になって心細かったし、バンドをする機会も、人脈も得られると思って入部した。ただ現在まで活動はなく、時間は過ぎ、その間に仕事に慣れ、会社の人脈にすがりたいという気持ちは無くなっていた。一方でどうせ夜は暇だった。バンドする機会もあれば嬉しいし、タダ飯食えるし、何より音楽の話ができると思って行ってみることにした。


会議が長引いたため、飲み屋には遅れて入る形となった。ウェイターに通された個室に入って1秒、死のオーラを感じた。かなり年次の高いおっさん(偉い)2人と若手の男1人。盛り上がっていない。今後盛り上がる兆しもない。1秒でわかることだ。そして答えはすぐに出た。年次の高いおっさん2人が交互に何かしらの論をしゃべるだけだった。好きなバンドや機材の話は一切出てこず、相槌を打つマシンと化した。若手男は何もしゃべらない。いつもは仕事の後無為に時間を使ってしまっても、もったいないとはあまり感じないが、今日は強い焦燥感があった。何をしているんだ。時間がもったいない。ワープして帰りたい。

しばらくして、片方のおっさんがようやく音楽の話を始めた。「最近ハマってる音楽が2つあるんですよ。」何だろう。折坂悠太とかカネコアヤノとかかな?このとき自分は、世間のおっさんを甘く見ていた。

「カノンロックって知ってます?」

は?俺は10年前にタイムスリップしたのか?10年前ニコニコ動画で流行ってたあのカノンロック?

そのカノンロックだった。古すぎるし、ダサすぎる。部長の音楽センスへの絶望を受け止めきれない最中、もう一つのハマっている音楽が発表された。

「ワンオクロックって知ってます?ビギニングって曲がかっこよくて、神曲って言われてるんですよ」

目眩がした。おっさんの文化はここまで遅れているとは。そして、こんな会話から抜け出せない状況が辛すぎた。おっさんとの飲み会、上司との飲み会が苦行と言われる所以を味わった。


何かが失われたと感じた。それを言葉で表すのは難しい。若さ、少年時代、学生時代、大人への抵抗、社会への抵抗、忖度への抵抗、、、

戻れないラインを踏み越えてしまった。

(同様の飲み会に行っている先輩や友達に敬意を込めて)

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