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【布教】地下鉄vs既成概念

序説・ジョースター

あなたはサブウェイに行ったことがあるだろうか?

……あー、いや違う。地下鉄じゃない。
いや別に間違いじゃないんだが今回は別に地下鉄の話をしたいわけじゃないんだ。

………落ち着いたか?
待て、今はいらない。地下鉄ホームで電車が近づく時の声真似はいらない。
コォォォォォォォォ………じゃなくて。落ち着いてくれ。
いや、波紋の呼吸とか今は不要だ。
その立ち方をやめてくれ。

見かけるとテンションが上がるファーストフードショップはないだろうか。

マクドナルド、そうだな。ポテトが美味い
モスバーガー、わかるぞ。ポテトが美味いよ。
ケンタッキー、あーいいね。ポテトが美味いんだ。
吉野家、そうだね。ポテトサラダ美味い。
ドムドム?見たことないな……で、ポテト美味い?

私にとって、サブウェイはその最上位に位置する。
Sから始まるあの文字列を見かけるだけで心臓が高鳴り、背筋に冷や汗が伝い、手足が震えてまともに立っていられなくなる。

この身体的反応は、上司に「ちょっとあの件で確認したいことあるから、後で会議室で」と言い放たれた時のことを思い出させてくれる。

「そ、その案件については、現在交渉中です……」



これが、恋?
No. This is SUBWAY.
レッドブルが翼を授けるように、サブウェイは我々に叡智を授ける。

弟子の僧は、時々気の毒そうな顔をして、内供の禿はげ頭を見下しながら、こんな事を云った。
 ――痛うはござらぬかな。医師は責せめて踏めと申したで。じゃが、痛うはござらぬかな。

芥川龍之介『鼻』より

カンカンに怒った上司の赤ら顔とチンチンに茹だった禅智内供の長っ鼻はさておき、今回はサブウェイの素晴らしさについてお伝えしよう。
さぁ!アル禅智ン内供くん!
行こう!サブウェイの世界へ!
ビュオォーーーン……
(なんだかよくわからない空間に吸い込まれる音)

よんばんみは、アルゼンチンと芥川龍之介を応援しています。


葉ァッ!

サブウェイで重要な点は以下の3つだ。
・野菜がたくさん
・野菜がたっぷり
・やっさいもっさい

これらについて順にお伝えしていきたいと思う。

・野菜たくさん

野菜、食べてるか?おーっと皆まで言いなさんな。
野菜、食べてるか?いやいや、皆まで言うな。
あ!言うなよ、言うなって!!!

……あーあ。

サブウェイ上級者の皆様に恐れながら申し上げたいのは、「サブウェイはとにかく野菜が食べられる」という点である。
日常生活を送る上で、以下のような困り事はないだろうか?

「なんだか体が重い」
  →野菜を食え

「最近胃もたれするようになった」
  →野菜を食え

「糖質制限が辛い」
  →野菜を食え

「あの日見た海が忘れられない」
  →野菜を食え

「二枚目気取りの白菜やあのいやなししとう番長も」
  →野菜を食え

\ヘーイ ヘイヘイ ヘーイヘーーイ‼︎‼︎

ファーマー5が農園天国で歌っていたように、野菜の女神は我々を常に見守っている。
アキラのハイトーンに僕たちは、救われたんだ。
ありがとう、アキラ……(ハンケチでそっと涙を拭う)

あとは食うか食わないかだ。
……でも高いよね。野菜。びっくりしちゃう。
あと種類を食べられないよね。

買ってらんないよボーイ「カッテランナイヨー」

1987年、買ってらんないよボーイの発言より


でもな、サブウェイなら気軽手軽足軽尻軽に数種類野菜が摂れちまうんだ!ヒュー

サブウェイ公式サイトより

これだけの種類の野菜をスーパーで買って、切って、まとめて食べようなんて、まーーーものぐさのドンキホーテたるあっしには無理な話ですわ!ンナハハ!

じゃあサブウェイでいいじゃない!
ローンもおまとめできる時代だ、野菜もまとめて食っておこうよ!
いっけー!オレのカバライキンセイキューン!

もちろん苦手な野菜を抜いてもらうこともオッケー

「色々決めるのも面倒くさいよドラえもォォォォォォん!」
ってのび太くんにはこの魔法の言葉を授けよう。

「「「「「おまかせで」」」」」

本来カスタマイズ可能なメニュー、沿った野菜、ドレッシング、パン。
全て店員さん……ンンッ、失礼。
“サンドイッチャー”が作ってくれるのだ!
何かの責任を他人に委ねるという行為のなんと素晴らしきことか。
人生も「おまかせで」全部できるようになるといいんだけどな〜w
なーーんて………    

喝ッッッ!!!!!!!!!!!!

赤の他人に委ねる責任はサブウェイのオーダーくらいにしておこう。
他人に決められた道筋なんてまっぴらごめんだ。
僕たちは、僕たちの人生“STORY”を生きよう。

そうだろ?


・野菜たっぷり

そもそもとして、マーケティング上サブウェイは野菜をひとつのウリとしている。広告なんかを見ても野菜推しが強い。
八百屋かってくらい押してくる。

八百屋はこんなこと言わない。

サブウェイのサンドイッチにとって主役は野菜。
主役の野菜を目立たせるための魔法の言葉を授けよう。

「「「「「野菜多めで」」」」」

この言葉を思わず口走るだけでベジタブルの量が1.5倍
ホリエモンもこれにはにっこり。
圭はにしこり。
肩こりは 性懲りも無く 生き残り (心の俳句)

え?恥ずかしいって? Oh,shy girl……
別に大声で明るくハキハキいう必要はないのだ。
「支払いはPayPayで」とか
「あいつ、浮気してるよ」とか
「レシートいらないです」とか
「もう、あんな奴のことなんて忘れろよ」とか。

そんな感じで何の気なしに口にするだけでいい。
おかしなことじゃあ、ないんだ。
恐れるな、サンドイッチャーは全て理解してくれる。

……あ!レシートはやっぱりいります!いるいる!

え!?君は野菜が苦手なのかい!?
そっかー、じゃあ無理強いはできないな。ごめんね。
でもホットドッグとか……ピザサンドイッチとかもあるよ。一度、どう?
最悪サブウェイに行ってくれれば私はそれでいいんだ。
でもさ、一度食べてみるといいよ。
緊迫したシリアスな会議、言い辛い発言をオブラートで包んでおずおずと切り出すように、野菜をパンで包んでしまえばいい。


・やっさいもっさい

?………あ、ちょっとスタッフ!
台本のさ、この部分。
「やっさいもっさい」って……何?

やっさいもっさいとは、千葉県木更津市を代表する踊り。毎年8月14日には、木更津港まつりのイベントのひとつとして「やっさいもっさい踊り」が木更津駅西口の「富士見通り」で行われる。

Wikipedia『やっさいもっさい』より

へー、木更津の踊り!
え!?1974年からイベントをやっているの!?
君生まれてないでしょ!w

去年までは例の流行り病でイベント事も難しかったけど、今年は盛り上がるといいねぇ。

よんばんみは、千葉県木更津市とやっさいもっさい踊り大会を応援しています。


窮地

 別に、なんてことない一日になるはずだった。

 私はちょっとした買い物のために駅前に足を運んでいた。
 何を買ったのか覚えていないことを考えると、本当に取るに足らない買い物だったのだろう。
 たぶん、ハンガーとかそんなところだ。

 特筆すべきようなこともなく、用事を済ませた私は駅ビルを出た。

 久しぶりに訪れた街は、随分と賑わっているようだった。
 目の前を子供たちがからからと笑いながら駆け抜ける。
 風景も、どこか普段と様子が違う。

 ああ、この雰囲気は、そうか。
 今日は祭りの日。

 遠くから笛の音や間延びしたアナウンスの声が聞こえてくる。
 街を挙げての祭りは、普段賑わっている場所からは少し離れた場所で行われているようだ。
 大型連休の初日、快晴、数年続いた流行り病も落ち着きつつある。
 条件は揃っている。人が増えるのも当然のことだった。

 私は、まるで今日この日だけ街の中心部がほんの少しズレてしまったかのような錯覚に陥った。

 祭りを楽しむような気分でもない。
 喧騒に背を向けて、私はこの街のメインストリートに足を向けた。
 人はまばら。
 飲食店が並ぶ通りだが、今は10時45分。
 ランチタイムにはまだ早い時間だ。

 空腹を覚えた。
 そういえば昨日の夜にカップ焼きそばを食べたきり何も食べていなかった。せっかくここまで来たんだし、昔行ったあのラーメンはそこそこだけどチャーハンが美味いラーメン屋にでも行ってみようか。

 ちょっとした思い付きで件のラーメン屋に向かう。
 …………やっていない。11時開店か。

 別に無性に食べたかったわけではなかったけれど、途端に目的を失ってしまった。
 ここで待つのもなんだし、別に帰ってもいいのだが。

 「どうしようかな」
 誰に言うでもなくつぶやいて辺りを見回す。
 ふと、久しぶりに見る緑色に黄文字の看板が目についた。

―――――――――――――――――――――――

 店頭、軒先に置かれたメニューを眺める。
 自分の習慣として、チェーン店では毎度似たようなメニューしか頼まない。
 このサンドイッチチェーンでも、今までの自分なら定番で外れなしのBLTサンドしか頼まなかった。

 メニュー表の中でも、目立つように配置されている商品がある。きっとこれが人気商品なのだろう。
 私は、人気1位のあるメニューに目が吸い寄せられた。

 えびアボカドである。

 なんということだろうか。
 私は今まで「定番」「外れなし」という言葉にに執心していたが、それはあまりにも視野が狭かったと言わざるを得ないだろう。
海老とブロッコリーの組み合わせなんて美味いに決まっている。
 なんでこんな素敵なものがあるのに気づかなかったんだろう。

 無性に腹が減ってきた。
 私は早速入店した。

 店内はまばら。ご老人が窓際の席で新聞を読んでいる。
 私はカウンターに向かって先ほど決めた注文を告げた。
注文は
えびアボカド
 ※フットロング(パンを一本丸ごと使う。通常のハーフよりも少々お値段は張るが満足度が高い)
・ポテトドリンクセット(コロコロポテトトリプルチーズ、ペプシ)

 ドレッシングはサンドイッチャーのおすすめ通り、野菜クリーミードレッシングとした。
 もちろん野菜多め。アクセント野菜はオリーブとピクルス。
 薬味はあればあるだけよい。

 (体質により、生食はできないが)海老は好きだ。自分で調理することはないものの、やはり外食に行ってメニューに“海老”という文字を見るとどこか心躍る自分がいる。

 ブロッコリーも好きだ。毎日でも食べられる。
 たんぱく質が多いという成分も好ましいが、蒸した時のあの食感は何物にも代えがたい。マヨネーズとのコンビは最強だ。

 そんなエビブロッコリーが同時に味わえること以上の幸福があるだろうか。
 いや、ないだろう。

―――――――――――――――――――――――

 サンドイッチャーが手際よく仕上げたえびアボカドをトレーに乗せ、席に着く。
 椅子のクッションは薄いが、私の手にはこの分厚いサンドイッチがある。
 こ のサンドイッチを食べられればこれでいい。
 日常の中のささやかな喜びはここにある。

“よろこび”

 飲み慣れたペプシコーラで口を潤し、サイドメニューのコロコロポテトをつまんでからサンドイッチを手に取る。
 サブウェイに来るのは久しぶりだ。
 地方にとってレアなファーストフード店。
 生活圏内にないこの店は、そう何度も来られるような場所ではない。

 私は、念願のえびアボカドを口に入れた。

 微かな違和感を感じたが、そんなことは関係ない。

 Lサイズのペプシコーラは今の自分にはやや量が多い気がするが、そんなことは関係ない。
 飲みきれなかったら持ち帰ればいいだけのこと。

 野菜多めにした分、通常量のドレッシングは薄く感じるがそんなことは関係ない。
 塩気なら、一緒に頼んだコロコロポテトから摂取すれば良いだけのこと。

 そのコロコロポテトも、チーズ味でなくハーブ味にした方が自分の嗜好にあっていた気がするが、そんなことは関係ない。
 次来るときにハーブ味のコロコロポテトを頼めばいいだけのこと。

 えびアボカドなのに、ブロッコリーが入っていないがそんなことは関係ない。

 そんなことは関係ないのだ。

……………

…………………………

………………………………………

……………………………………………………………………………………

 私は衝撃に慄いた。
えびアボカドなのにブロッコリーが入っていない。
 あの、まるで小さな木のような緑色の房が、ほくほくしたあの食感がどこにも見当たらない。代わりにクリーミーなアボカドが入っている。
えびアボカド………。アボカド
ブロッコリーではないのか?なぜ?
 自分が頼んだのはえびアボカドのはず。なぜ、どうしてえびアボカドブロッコリーが入っていない?
 おかしい。どうにもおかしい。自分が食べたかったのはえびアボカドであったがえびアボカドではなかったということか?
 そもそもアボカドなのか?アボガドなのか?

 私はおもむろに紙コップを持ち、ペプシコーラを喉へと流し込んだ。

 どうやら混乱しているらしい。落ち着こう。

 えびアボカドなのだから海老アボカドが入っているのは当たり前である。
 無論、ブロッコリーが入っていないのも当たり前である。

 では、なぜ自分はえびアボカドに“ブロッコリー”が入っていると思い込んでいたのだ。
 ついに自分は文字も読めなくなってしまったのだろうか。

 えびアボカドにブロッコリーが入っていない衝撃が、理解不能の勘違いをしていた己への恐怖に変化し始めたその時、あるものを思い出した。

セブンイレブンのサンドイッチ、
タルタルサラダ仕立て 海老とブロッコリーである。

 姿を消した商品がおいしくなって新登場することで著名なコンビニエンスストアであるセブンイレブンであるが、このサンドイッチは傑作である。
 美味すぎて私は2日に一度はこれを買って貪っていたこともあるくらいである。
 ぷりぷりの海老、ブロッコリーの食感。絶妙なタルタルソース。
 何度でも言う。傑作である。

 そして、店頭で見なくなって久しい。
 復活を心待ちにしているが、いけずのセブンイレブンのあんちくしょうは出し惜しみをしているのだ。

 ともかく、こういうことだろう。

「タルタルサラダ仕立て海老とブロッコリー」の食べ過ぎで、海老のイメージにブロッコリーのイメージが接続される。
②サブウェイの店頭で、「えびアボカド」という単語を見、アボカドという言葉がブロッコリーにすり替わる。

 何ということだろうか、私は「タルタルサラダ仕立て海老とブロッコリー」の幻想を追い求めるあまり、全く関係のないサブウェイにて海老とブロッコリーの幻視をするまでに至ってしまったのだ。

 芥川龍之介の「鼻」の禅智内供は、切望していた願いを叶えた結果、他者からの評価や物理的な満足が必ずしも幸福に結びつく訳ではないことを教えてくれた。

 それなのに自分は今はもう失われた快楽を追い求め、あろうことか勘違いと思い込みにより絶望を味わっている。
 あまりある失望に全身が震える。

 あまりに惨め。
 これが負け犬でなくてなんであろうか。

 ―――――ああ。

 普通にめちゃくちゃ美味しいえびアボカドどペプシコーラ、コロコロポテトトリプルチーズを粛々と腹に収め、私は敗北感の中、帰路に着いた。
 祭りはまだ続いている。
 どこからか響く、「おっさ おっさ おっさ」という掛け声がまるで私を責めているようで。




追記

ファミマにありました。
みんなもファミマに行こう。

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