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口中香にも限界がある


まえがき

私は紅茶派である。物心ついた時からお茶は如何と聞かれると紅茶を頼んでいた紅茶好きである。

コーヒーは成人してから徐々に飲めるようになり、現在は飲む頻度に限れば一日三杯とコーヒーの方が優勢だが、かける金額は圧倒的に紅茶の方が高い。コーヒーは、恥ずかしながらこれといってこだわりがなく、インスタントで十分満足できる。
ところで、そこまで飲まない割に自称紅茶派を名乗る紅茶派として、紅茶について少々言及したいことができたので、ここに最近思うことをまとめておくことにする。

フレーバーティーはあくまでも「フレーバー」ティーとして捉えよ

ある時SNSで、ムレスナティーによる試飲イベントへ向かった人の体験レポートが投稿された。
コーヒー党の投稿者は、その多種多様な香りと単調な味わいのギャップに「こんなに色んな香りがするのに、味はちゃんとお茶ですごいな」と述べた。
私はこれに意を唱えたい。

何故なら、ムレスナ社のフレーバーティーが全て同じ味なのは、同じ茶葉を使っているからだ。いわば味に変化がなくて当然なわけだ。

ムレスナティーの特徴をおさらい

しかも、ムレスナティーのサイトを見ると、使用しているのはキャンディでもディンブラでもなくヌワラエリヤだという。
セイロンの中でも特に味がさっぱりして水色も薄いヌワラエリヤだけを使用している。となれば、味の方は薄くなって当然だ。

お茶の味とは

ここで改めてお茶のおいしさを紐解く。
お茶はお湯に浸されると、茶葉から香りが移り、同時にうまみと渋みが溶け出す。

お茶のうまみはテアニンとアミノ酸(テアニン、つまりカテキン)によってきまります

煎茶の浸出条件 と可溶成分 との関係

玉露が甘いのは(勿論製法の差もあるが)砂糖を加えているわけではなく、本来茶葉が持つうまみである。
そして、お茶は全てチャノキという木から摘まれている。緑茶でも甘い玉露とすっきりした煎茶で味に違いがあるように、紅茶も様々な味わいがある。

ムレスナはなぜ味が同じか

ところで、旨味が充分溶け出すのに必要な温度と時間、そして渋みが溶け出きってしまうのに必要な温度と時間は僅かな差しかない。この塩梅を見誤ることが、お茶を美味しく淹れられないという悩みに繋がる。


ここで残念なお知らせだ。
不運なことに、ムレスナは淹れ方を誤ると渋くなってしまうという紅茶ユーザーの悩みに応え、企業努力の末「渋くならないティーバッグ」を開発したらしい。その秘訣がこちらだ。

よって、ムレスナティーが推奨する淹れ方では、渋みを極限まで取り除くことは可能であるものの、代償にうまみも失ってしまう。一時期X(旧Twitter)でバズった「ADHDのパワー系ソリューション」もびっくりの脳筋解決法である。

軽やかな香りとさっぱりした味わいが売りのヌワラエリヤから、さらに本来紅茶が出せる筈のコクと滋味まで奪うのだ。これで香り以外を楽しめという方がおかしい。

まとめ

ムレスナや、カレルチャペックや、その他安価で渋みの少ない紅茶も勿論良いが、それら一つで紅茶は味が単調だと嘆かないでもらいたい。それは缶コーヒーを飲んでコーヒーを語るくらい勿体ない見切りのつけ方だ。
普段ブレンディのスティックカフェオレで満足している分際でこんなことを言うのはおこがましいと自覚している。だが、少なくともこれを代表的なコーヒーの味だと決めつけてはいない。
非紅茶派の面々は、一度ポットで淹れられたノンフレーバーティーの試飲に行ってほしい。

ついでに

と、ノンフレーバーティーを勧めたが、これが飲める場所は少ない。
巷には珈琲店はそこかしこにあるが、紅茶店はほとんどない。アフタヌーンティーを楽しめるような娯楽に特化した喫茶店はあるが、それらはややグレードの高い店として展開しているため、サラリーマンが仕事帰りに、大学生がレポートの追い込み中に、という楽しみ方が出来ない。
駅前のパン屋にさえサイフォンが設置されているのに、なぜティーポットは日の目を浴びないのか。お湯ぶっこむだけなんだからポットを常設してはくれないか。あとのことはこちらでするから。