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シン・ゴジラ立体商標と周知性−ビジネス・コートtwitter紹介裁判例③−

 ビジネス・コートのTwitterで紹介されている裁判例の検討の3回目は、話題になっているシン・ゴジラの案件、知的財産高等裁判所令和6年(行ケ)第10047号判決(093479_hanrei.pdf)を取り上げます。

 本件は、シン・ゴジラのフィギュアの形状が商標法3条2項に該当するか、要するに周知性があるかが論点となっています。
 「東北会で研修講師やってきた|弁護士 河部康弘」で触れたとおり、周知性については東北会以外でもお話ししたいなと思っており、内容をブラッシュアップするためにも、注目度の高い本件の分析は必要ですね。

1 周知性の承継?
 最初に議論されているのが、「プロポーションや色に違いのあるシン・ゴジラ以前のゴジラ」(以下「旧ゴジラ」といいます。)の存在を、シン・ゴジラの周知性を検討するにあたって考慮していいのか?」という点です。
 この点について、知財高裁は、「しかし、商標法3条2項の『使用』の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形状に限られるとしても、その結果『需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる』に至ったかどうかの判断に際して、『シン・ゴジラ』に連なる映画『ゴジラ』シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべきである。」としています(24頁18行目以降)。
 そして、具体的に旧ゴジラとの関係に言及したのは、以下の部分です。

25頁4行目以降
加えて、シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品 の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状として広く認識されていたことが優に認められる。

26頁20行目以降
加えて、本件においては、本願商標の使用以前から、原告を商品化の主体とするゴジラ・キャラクターの商品が需要者に広く深く浸透しており、本願商標の立体的形状はこれとの連続性が認められるという特殊な事情も存在している。

28頁1行目
ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度の前では些末な問題にすぎず

 この旧ゴジラとシン・ゴジラの関係性、①シン・ゴジラを見た際には旧ゴジラが想起されて印象に残りやすいから、シン・ゴジラ自体の露出がそこまででなくても記憶に残り、周知性を獲得できるというものか、②単純に旧ゴジラの周知性を、旧ゴジラのシリーズものであるシン・ゴジラは承継できるというものかはちょっとわかりませんね。

 「本願商標の立体的形状はこれとの連続性が認められるという特殊な事情」というのは、著名キャラクターにはよくある話で、有名キャラクターでは、今後著作権や意匠ではなく商標での保護が盛んになっていくのかもしれません。

2 分母の争い
周知性立証では、よく市場シェアが問題になります。しかし、代理人には、販売数量や売上をいじることはできません。そこで、分母である「市場」の大きさをコントロールすることで、自らに有利な方に市場シェアをコントロールしようとするわけです。
 本件の場合、知財高裁は「また、被告が、本件審決が判示したように、『玩具業界全体』における使用商品の占有率を問題にするのであれば、極めて多様なジャンルが存在する玩具業界の実情を無視して、大きすぎる分母に基づいた議論をするものであり、採用できない。」(27頁6行目以降)としており、「市場」を「玩具業界全体」として大きくとらえようとする被告側の主張が排斥されています。
 「映画『シン・ゴジラ』に登場するゴジラの第4形態だけに着目しても、その立体的計上が使用されている使用商品は、原告から許諾を受けた多くの企業によって、平成28年から現在に至るまでの約8年間もの長期間にわたり販売されており、これまでの売上数量は約102万個、売上は約26億5000万円に及ぶ」(11頁15行目以降)とされているので、「玩具業界全体」とする主張だけでなく、予備的に「フィギュア」市場などを主張してもよかったのかもしれません(もちろん、統計がなくてシェアが出せないなどの問題があったのかもしれません。)。

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