ががおのバカラ 韓国一泊二日で500万円の夢(後編)
前編からの続きです。
ボロボロに負け、ホテルロビーのソファでうなだれる私。
地獄のような気分で、自己否定が延々と続く。
自分なんて生きていても、周囲と社会に迷惑をかけるだけだ。。〇ぬしかない。。どうやって〇のう。。
どクズ。。
…..
しかし、人間の慣れとは怖いものである。
ギャンブルに負けに負け続け、あしたのジョーに登場するカーロス・リベラのようなパンチドランカーになってしまった私であるが、そのぶん負けに慣れてしまい、立ち直りの速度も異常なまでに早くなった。
グラフ化すると、下記のような感じだ。負けた瞬間は希死念慮で胸いっぱいだが、小一時間経てば復活しているし、一晩経てば忘れたどころか前日より調子がいいときもある。鉄は、打たれれば強度は増すのだ。
『…..まぁ、しょうがないわ。』
パラダイスシティのショッピングエリアをぶらぶらと歩いていたら、メンタルが回復してきた。時間が経てば、状況を徐々に受け入れられる。時の経過こそ、心にとっての最上の薬なのだ。
残50万₩(≒5.8万円)で、最後の勝負だ。
よし、戦略はどうするか。
いや、ここまで資金が減ってしまったら、戦略もクソもない。
オールインで連勝狙い。それしかないのだ。
まずはテーブル選びだ。
既に誰かが着席しているテーブルには着きたくない。負けてしまったら、その同席者を目の敵にしてしまいそうだ。お前のせいで負けたぞコルぁ、と。
客が誰もいないテーブルに着席する。罫線は無視、どうでもいい。完全独立事象のゲームで、過去の履歴を気にするなんて、バカじゃないの?
プレイヤーに、全財産の50万₩をフルベット。
カードが配られる。表情は冷静を装う。
先にバンカーをオープンしてもらう。出目は2と4で、バンカーは6。
うわぁ、まぁまぁ強い。。この時点で、プレイヤーは確率的には25%の負けか。。いやいやこの短期決戦で確率関係ないし、勝率もクソもないじゃん!ひとり脳内でツッコミを入れる。
緊張の面持ちで、プレイヤー1枚目をしぼる。
出目は5。…..5か。微妙だ。
2枚目で234を引けば勝ち、56789を引けば3枚目を引いて勝負続行、1/10/11/12/13を引けばタイ(引き分け)。勝てる確率は、1/3以下。
2枚目のカードを、ゆっくりとしぼる。234、こい。。
….2枚目のカードは、4。…..きた!
ナチュラル9(バカラにおいて最強の役)の完成だ!!
プレイヤーの勝利!50万₩ → 100万₩になったぞ!
….いやいや、1勝したくらいで浮かれてはならない。昨日今日でどれだけやられると思っているんだ。原資回復には程遠い。
次もオールインだ。プレイヤーにそのまま全財産の 100万₩(≒11.7万円)をオールイン。
配られたカードをしぼる。
プレイヤーの出目は、4と4。ナチュラル8の完成だ…!
まさかのナチュラル2連チャンで、オールイン2連勝….!!
100万₩が200万₩になった!
流れが来てる。数学、確率、そんな科学ではとうてい説明がつかない、シックスセンスが自分に味方している!
…狙うは3連勝だ。2連勝ごときでは、俺はホンモノにはなれない。ギャンブラーとして、胸を張れない。ここで思い切ったダイブをしてこそ、オールイン3連勝してこそ、ネクストステージに進む資格がある。
流れは完全にプレイヤーだ。引き続きプレイヤーに全財産の200万₩(≒23.4万)を、黙ってオールイン。
…カードが配られる。
まずはバンカーをオープンしてもらう。出目は3と3で、バンカーは6。強い数字だ。
プレイヤーのカードをしぼる。自分を信じるのみ。
1枚目、3。可もなく不可もなく。
2枚目をしぼろうとする前に、目を閉じて軽く黙想をする。
私の高校時代、朝のホームルームの時間で1分間の黙想をするという時間が設けられていた。当時は意味も分からなく従ってやっていたが、今になってその価値が理解る。心の平穏、祈り、結果を受け入れる覚悟。それらすべてを含んだ、神聖なる行為なのだ。
…2枚目をしぼる。出た数字は、4。
プレイヤー7、バンカー6。
……プレイヤーの勝ちだ!!
『うおおおおおおおおっしゃ!!!!』
両腕でガッツポーズをし、思わず歓喜の雄たけびを上げた。隣のテーブルの客がびっくりして、みんな私のほうを振り返る。目の前のディーラーも満面の笑みで「Nice!」と健闘を讃えてくれた。
まさかのオールイン3連勝で、50万₩(5.8万円)→400万₩(≒47万円)達成。時間にして、わずか2分少々の攻防。
喜びを隠し切れない。顔のニヤニヤが止まらない。アドレナリン全開の血流が、全身を駆け巡るのを感じる。好きなメンエスの女の子に、お土産買ってくね!みたいなLINEも突然送っちゃったりして、完全に調子こいてて気分は有頂天野郎。
とにかく、原資をほぼ取り戻した。凶悪なドラゴンの巣をつついたにも関わらず、無事に生還できたのだ。この安堵感こそが、ギャンブルの醍醐味であろう。
しかし、ここでいったんストップ。さすがに4連勝は厳しい。現実的ではない。仕切り直しだ。レストランで食事タイム。
さて、次はどう出ようか。
秒速で億を稼ぐでお馴染みの与沢翼氏が、Youtubeでこんなことを言っていたのを思い出す。
「バカラで勝ちたいなら、初手でオールインをすること。それが最も期待値が高い。ちまちま賭けるのは、勝ちたいのではなく、バカラをただ楽しみたいだけだ。」
…うむ、そのとおりである。昨日今日でちまちま賭けの無駄な攻防をしてしまい、結果的に資金を大きく減らしてしまった身にとしては、刺さる言葉だ。
私は今回、バカラを楽しみに来たのではない。勝ちに来たのだ。
次もオールインでいこう。
ただ、テーブルはしっかりと選ぶ。
流れが偏っているテーブルはないか。
豚骨ラーメンを堪能して平場をうろつき始めると、オーディエンスがつきはじめているテーブルに早速出くわした。
覗いてみると、バンカーが8連勝中だった。着席している客も、みなツラ追いしている。
ここだ!ここにフルベッドしよう。
ちょうど一席だけ空いていたので、座る。
周りのメンバーは、なかなか濃そうな面子だ。
一人は、20代前半っぽい日本人男性。センター分け、顔はかなりイケメンで、両腕にタトゥーがびっしり入っている。おそらく職業はホストであろう。
次に、こちらも日本人だが50代男性と20代女子のカップル。男性はドン小西みたいに小太りで、あやしい眼鏡をかけて、髪を後ろで束ねている。女性のほうは、今風の韓国メイクで整形顔の美女だ。どうみても、ザ・パパ活である。
そして、綺麗な身なりをした細身の中国人のおじさん。2500万₩(≒292万円)のチップを積んでおり、相当な富裕層だろう。狩場を求めてVIPエリアから降りてきたのだろうか。アリババ創業者のジャック・マーに似ている。
癖のありそうな4人と、私ががお。皆で仲良く勝とうではないか。
着席するやいなや、全財産である400万₩(≒47万円)を、8連勝中であるバンカーにどかんとオールインした。
カードをしぼる権利は、最もベット額が高い人間に与えられる。権利を獲得したのは、私だ。
「えっ、全部賭けちゃうんだ。。」パパ活女子が、ポロっと口に出す。
プレイヤーに賭けているものは、ひとりもいない。みな、バンカーベットだ。
カードが配られる。
プレイヤーオープン。出目は2と2で、4。まずまずだ。
皆が私の手元に注目する。
バンカーのカードをしぼる。
1枚目は、1。そして、2枚目は3だった。
プレイヤーも4、バンカーも4。この場合、それぞれに3枚目のカードを配る。シンプルに、3枚目の数字が強いほうが勝利だ。勝負はまだ続く。
3枚目のカードが配られる。
プレイヤーオープン。数字は….1。
ここでバンカーが2345なら、バンカーの勝ちだ。
「ガンバッテクダサイ!」私の横のジャック・マーが、カタコトの日本語で応援の言葉を投げかけてくれる。
バンカー2枚目のカードを、ゆっくりとしぼる。
….出た数字は、2。
プレイヤー5、バンカー6。
….バンカーの、勝ちだ!!
400万₩(≒47万円)が800万₩(≒94万円)になった!!
ぎえぴいぃいぃいいぃぃいい!!!
ギャンブルさいこうおおおおぉぉ!
ホストの兄ちゃんも、真っ白な歯のイケメンスマイルを魅せてくれた。
「ヤリマシタヨォ!」ジャック・マーも、嬉しそうである。
皆を勝たせてあげられて、本当に誇らしい。私の運命の手が、場に勝利をもたらしたのだ。
小一時間前は残金5万円ちょいで銃殺刑を望んでいた私であるが、資金が一気に94万円に膨れた。地獄から天国へ、一気に駆け上がったのだ。
バカラの爆発力は、すごい。あらためて実感した。
その後3時間程度ゲームをたしなみ、最終的に資金はいくらになったのかというと…
125万円になりました。
原資50万円(借金)が、125万円。75万円の勝ちで、大勝利。
5.8万円まで落ち込んだときからのカウントだと、21.5倍。
皆さん、人生を今日明日で変えたいですか?それなら、ありったけ全財産をかき集めて、カジノに来てください。バカラをやりましょう。すぐに結果が出ます。ただし、自己責任でね。
勝った。俺は勝ったんだ。
空港行きの帰りのシャトルバスの中で、生暖かい生の実感を、おそらく車内にいる他の誰よりも、じっくり噛み締めていた。
….しかし、である。このまま帰っていいのだろうか。
75万勝った程度で、何になる?人生変わるか?
あと1回張って勝てば、いや、2回勝てば….
125万をオールイン1勝で250万、2勝で500万だ。
私の中のリトルががおが、悪魔の囁きをはじめる。
今日後半の俺は、めちゃめちゃツイていた。流れを引き寄せていた。
…500万円を持って帰りたい。
空港に到着するやいなや、すぐにパラダイスシティ行きのタクシーを拾い、賭場に舞い戻っていた。
今日という日は、まだ終わらない。
俺は、小銭を稼ぎたいんじゃない。人生を変えたいんだ。
今日は、そのチャンス。第一歩を踏み出す、チャンスなんだ。
125万円を、迷うことなく再度ウォンに全額両替した。
一目散にバカラのテーブルに着く。
全額をプレイヤーにオールイン。
現実感はない。自分でも何をしているか、いまいち理解が追い付いていない。目の前の125万円がどれくらいの価値なのかも、その場では忘れてしまっていた。
配られたカードをしぼる。
……プレイヤー0、バンカー7。
あ ….
…本当に一瞬の出来事だった。
もう、声は出なかった。
まるで、射精した瞬間の、賢者タイム。
生気がすべて抜けた。
ケツの毛まで、全部引きちぎられた。
地獄、天国、そして、本当のどん底。。
それから飛行機に乗って日本に帰るまでの、しばらくの記憶はない。
ただ、日本に到着してタクシーに乗って帰路についている際、こんな思いを抱いたのは覚えている。
『あそこで125万を張らなければ、大きな頂は目指せなかった。あれは、攻めの敗北だ。どんな手を使ってでも、必ず戻ってくる。そして、次こそ絶対に勝つ….!』
完
※ギャンブルはほどほどに。
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