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酸素は猛毒、そもそも正義と悪の概念同様に毒の定義も難しく簡単にひっくり返ってしまうことを38億年の歴史で実感

人類の祖先は、毒を食べてエネルギーを得るモンスターだった!?
という見出しのサイトを発見
https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/6278
人類の祖先は、毒を食べてエネルギーを得るモンスターだった!? | THE21オンライン

あまりにも興味深い内容だったので以下引用します。

稲垣栄洋(生物学者)氏による生命の誕生と価値観の大逆転が何度も起きている生命史を語ってくれた。

『敗者の生命史38億年』(PHP研究所)より一部抜粋

私たちの生命の維持に欠かせない酸素だが、本来は、猛毒のガスである。

酸素はあらゆるものを酸化させて錆びつかせてしまう。鉄や銅などの丈夫な金属さえも、酸素にふれると錆びついてボロボロになってしまうのだ。

もちろん、生命を構成する物質も、酸化して錆びついてしまう。酸素を必要としている私たち人間の体でさえも、酸素が多すぎると、活性酸素が発生して老化が進むと言われている。

このように酸素は、生命をおびやかす毒性のある物質なのである。

古代の地球には「酸素」という物質は存在しなかった。ところが、27億年前に、突如として「酸素」という猛毒が地球上に現れる。

この事件は「大酸化イベント」と呼ばれている。

どうして、酸素がまったく存在しなかった地球に、酸素が出現したのか。これは大いなる謎である。しかし、その理由として「シアノバクテリア」という怪物の出現が考えられている。

シアノバクテリアとは、いったいどのような生物なのだろうか。

地球に生命が生まれた38億年前。

当時の地球には酸素は存在しておらず、おそらくは金星や火星などの惑星と同じように、大気の主成分は二酸化炭素だったと考えられている。

酸素のない地球に最初に誕生した小さな微生物たちは、硫化水素を分解してわずかなエネルギーを作って暮らしていた。微生物たちにとって、つつましくも平和な時代が続いたのである。

ところが、である。その平和な日々を乱す事件が起こった。光を利用してエネルギーを生み出すこれまでにないニュータイプの微生物が現れたのだ。彼らこそが、光合成を行うシアノバクテリアという細菌である。

シアノバクテリアが持つ光合成は、脅威的なシステムである。

光合成は光のエネルギーを利用して、二酸化炭素と水からエネルギー源の糖を生み出す。

この光合成によって作り出されるエネルギーは莫大である。まさに革新的な技術革命が起こったのだ。

ただし、光合成には欠点があった。どうしても廃棄物が出るのである。光合成の化学反応で糖を作り出すとき、余ったものが酸素となる。酸素は廃棄物なのだ。こうしていらなくなった酸素は、シアノバクテリアの体外に排出されていったのである。

もちろん、公害規制もない時代だから、酸素は垂れ流し状態だ。当時ほとんど酸素がなかった地球だったが、目に余るシアノバクテリアの活動によってはしだいに大気中の酸素濃度は高まっていったのである。



酸素による大量虐殺が始まった
生命にとって酸素は、本来は猛毒である。

地球で繁栄していた微生物の多くは、酸素のために死滅してしまった。酸素濃度の上昇によって地球上の生物が絶滅した事件は酸素ホロコーストと呼ばれている。

ホロコーストというのは、第二次世界大戦中のドイツ人によるユダヤ人の大量虐殺を言う。毒ガスで人を殺す強制収容所もあった。

何とも物騒な言い方ではあるが、当時の地球に暮らす微生物にとって、酸素濃度が高まることは、それほど恐ろしい危機だったのだ。

そして、わずかに生き残った微生物たちは、地中や深海など酸素のない環境に身を潜めて、ひっそりと生きるほかなかったのである。

ところが、である。酸素の毒で死滅しないばかりか、酸素を体内に取り込んで生命活動を行う怪物が登場した。まさに毒を食らわば皿まで、である。

酸素は毒性がある代わりに、爆発的なエネルギーを生み出す力がある。酸素は諸刃の剣なのだ。危険を承知で、この禁断の酸素に手を出した微生物は、これまでにない豊富なエネルギーを生み出すことに成功した。それが、ミトコンドリアの祖先である。

そして、ある単細胞生物は、この怪物のような生物を取り込むことによって、自らもまた酸素の中で生き抜くモンスターとなる道を選択した。

これが私たちの祖先となる単細胞生物である。後に、このモンスターは豊富な酸素を利用して丈夫なコラーゲンを作り上げ、体を巨大化することに成功する。そして、猛毒の酸素が生み出す強大な力を利用して、活発に動き回ることができるようになるのである。



世界中に毒素をまき散らす植物
SF映画で描かれる核戦争後の地球。莫大なエネルギーを持つ放射能で生物は巨大化し、凶暴な怪獣となる。酸素によって巨大化し、猛毒の酸素をおいしそうに深呼吸する人間は、滅びた微生物から見れば、SF映画の未来の怪物さながらの存在と言えるだろう。

それだけではない。このモンスターのうちのあるものは、酸素を作りだすシアノバクテリアをも取り込んで、光合成によってエネルギーを生み出す進化を遂げた。そして、シアノバクテリアは細胞の中で葉緑体となり、葉緑体を獲得したこの単細胞生物は、後に植物となっていくのである。

それにしても、何という恐ろしい世界だろう。

平和に暮らしていた微生物たちの多くは、酸素に満ちた地球環境に適応できずに滅んでしまった。そして、酸素にあふれた地球では、酸素という猛毒を吐き出す植物の祖先となるモンスターと、その酸素を利用する動物の祖先となるモンスターとに二分して支配されるようになるのである。

光合成を行う生物たちは、酸素を放出し、それまでの地球環境を変貌させていく。

シアノバクテリアによって産出された酸素は、海中に溶けていた鉄イオンと反応して酸化鉄を作る。そして酸化鉄は海中に沈んでいったのである。

その後の地殻変動によって、酸化鉄の堆積によって作られた鉄鉱床は、後に地上に現れる。そして、はるか遠い未来に、地球の歴史に人類が出現すると、人類はこの鉄鉱床から鉄を得る技術を発達させるのである。人類は鉄を使って、農具を作り、農業生産力を高めた。やがて、鉄を使って武器を作り、争うようになった。すべてはシアノバクテリアのせいである。

さらに、大気中に放出された酸素は地球環境を大きく変貌させる結果を招いた。

酸素は地球に降り注ぐ紫外線に当たるとオゾンという物質に変化する。シアノバクテリアによって排出された酸素は、やがてオゾンとなり、行き場のないオゾンは上空に吹き溜まりとなって充満した。こうして作られたのがオゾン層である。まさに地球環境を大改変してしまったのだ。



「オゾン層」が植物の楽園を作った
ただし、このオゾン層は生命の進化にとって思いがけず重要な役割を果たした。

かつて地球には大量の紫外線が降り注いでいた。この紫外線は、お肌の大敵と言われるが、DNAを破壊し、生命を脅かすほど有害なものである。殺菌に紫外線ランプが使われるのもそのためだ。

じつは、オゾンには紫外線を吸収する作用がある。そのため、上空に作られたオゾン層は、地上に降り注いでいた有害な紫外線を遮ってくれるようになったのである。これまで紫外線が降り注ぎ、生命が存在できなかった地上の環境は一変した。

やがて海の中にいたシアノバクテリアは、植物の祖先と共生して植物となり、地上へと進出を果たすようになる。自ら吐き出した酸素によって、新たな住み場所を作った。そして、ますます酸素を放出し、植物たちの楽園を作ったのである。

古代の微生物たちの復讐が始まった?
植物は、酸素を排出し地球環境を激変させた環境の破壊者である。

しかし現在、その地球環境が今、再び変貌を遂げようとしている。今度は、人間が放出する大量の二酸化炭素がその原因だという。

人類はものすごい勢いで石炭や石油などの化石燃料を燃やして大気中の二酸化炭素の濃度を上昇させている。そして私たちの放出したフロンガスは、かつて酸素から作られたオゾン層を破壊している。遮られていた紫外線は再び、地表に降り注ぎつつある。そして、人類は地上に広がった森林を伐採し、酸素を供給する植物を減少させている。

生命38億年の歴史の末に進化の頂点に立った人類が、二酸化炭素に満ち溢れ、紫外線が降り注いだシアノバクテリア誕生以前の古代の地球の環境を作りつつあるのである。

酸素のために迫害を受けた古代の微生物たちは、地中の奥深くで再び時代が巡ってきたことをほくそ笑んでいるだろう。



数億年の変化が100年単位で進んでいる
38億年の地球の歴史の中で、地球環境は大きく変化してきた。それに比べれば、人間のやっている環境破壊など、ほんの小さなことかも知れない。

シアノバクテリアが出現する以前、地球の歴史で、最初に光合成を行う微生物が生まれたのは、35億年前と言われている。やがて、古代の海に生まれたシアノバクテリアが、酸素を撒き散らし、オゾン層を作り上げるまでに生命の最初の光合成から30億年の歳月を費やした。さらに地上に進出した植物が酸素濃度をあげるまでに6億年の歳月が必要だったのである。

人類による環境破壊は、たかだか100年単位で引き起こされている。これは、光合成による地球環境の変化の100万倍以上のスピードだ。この変化のスピードでは、生物たちの進化が環境の変化に追いつけることはないだろう。そして多くの生命が滅ぶことだろう。

たとえ、いくらかの生物が地球に生き残るとしても、人類はこの地球環境の激変に耐えられるのだろうか。

もし、遠くの星から、宇宙人たちが地球を観測しているとしたら、人類のことをどう思うだろうか。自分たちを犠牲にしてまで、本来の古代の地球環境を取り戻そうとする健気な存在だと思うのではないだろうか。

『敗者の生命史38億年』(PHP研究所)より一部抜粋

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