ストーリーを広げるデザインとビジネス

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第11回 芦沢啓治 (芦沢啓治建築設計事務所代表)

「講義日:7月27日」

芦沢啓治さんは、建築の仕事をメインにしながら、家具を含めたプロダクトを制作とオフィスの2階にゲストハウスを運営している。せっかくクリエイティブな仕事をしているから皆んなに公開しようと思って、今の形になった。また、自分のデザインが街に広がることを考え、自分たちの仕事を楽しくする一環として、オフィス近くにあるお店のデザイン仕事を半額にするなど、色んな活動を行っている。

今回のテーマは3・11東日本大震災がきっかけになって設立した石巻工房だ。津波の被害を受けた地域が芦沢のクライアントが住んだ地域だった。津波によって街全てが止まった状態だった。電気も、ガスも何もできない環境で「どう復活するか」を街を眺めながら考えた。

その中で、やればできるんじゃないと思われる所が多いことを気づいた彼は、共同工房を作って街の人たちが自分の店を直したり、ボランティアもそれを使ってお手伝いできることを考えた。支援金100万をもらって、実際に作った。

工房だけ作ることだけではなく、夜間映画館のためのベンチを近所の高校生たちと作ったり、家具を作る方法を教えて被害者の生活に役に立つワークショップを家具会社と共同で開いた。しかし、ボランティアで持続できるのか。工房の家賃も改造費用や維持費用など…金銭的な壁を超える方法として、彼は自分たちが持っている物を売ろうと決めた。

石巻工房で販売したのは、ホームセンターで簡単に買える材料で作れるスツールキットだった。メイド・イン・ローカル。ローカルから生まれたプロジェクトだから。今は会社として6人が働いていて、ロンドンのSCP社が購入することがきっかけになって、世界各地で展開している。石巻工房のストーリーに魅力を感じて参加したいと声かける所が増えたからだ。同じデザインを作って販売しても、クッションを加えたりそれぞれの個性が反映されてデザインも段々良くなってきた。

また、日本の家具会社カリモクがメイド・イン・ローカルのパートナーになった。石巻工房と同じ文脈で、カリモクも彼らのメイト・イン・ローカルの概念があったからだ。デザインは工房の方が提供し、制作はカリモクがすることになってデザインの質も良くなった。カリモクは家具を専門にする会社であって、より薄くて軽いスツールの制作ができた。その影響で、デザインしたスツールがお店やオフィスなど様々な所で使われるようになった。

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石巻工房で感じたのは、
⒈ 魅力的なブランドを立ち上げ、多くの人が共感出来るようにするデザインの力。

⒉ デザインをより多くの人に届けるためのビジネス。デザイナーはストーリー、ビジネス両方考えなければならない。

⒊ やってみる勇気・行動力。

最近、デザインを学んだ私が出来ることについて考えてみた。頭で考えて熱意を持って話しても、それを具現化して伝えるデザインがないと共感してくれる人が集まらないと思った。石巻工房も震災という大きなストーリーを工房のロゴや製品などで具現化したから多くの人が共感できたと思った。ストーリーを形にするデザイナーの能力、それを持続的にするビジネスのバランスの大切さを改めて感じた。