文脈と解釈から社会を変えるデザイン

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第7回 井登友一 (インフォバーン取締役 京都支社長/IDL部門 部門長)


「講義日:6月29日」


井登さんは日本でUXリサーチの先駆者である。日本版ワイアードをはじめ、デジタルエイジェンシーを運営しているインフォバンの京都支店を担当している。デザインリサーチ分野に20年前から様々な実践を行い、現在はデザインコンサルティングにも参加している。最近はミラの工科大学のロベルト・ベルガンディ教授が提唱する「意味のイノベーション」を研究する研究会を主催している。彼がデザインの現場で感じたこと、取り組んだことが中心に講義を進めた。

井登さんは学生の頃、メディア・社会学に興味を持って新聞を専門にする大学に進学した。特に大学でメディアについて、社会調査的なリサーチ手法を活かした様々な仕組みについて学ぶことができた。その後、入社してからマーケティング領域に入って様々な手法を使ったリサーチをした。過去の知識や経験から、現在はデザインが社会に貢献できる領域を拡張しようと思い、模索しながらデザイン実務・教育・研究を行っている。

特に彼が長い間、仕事をする中で顧客からの依頼テーマが大きく変わった。沈滞的なニーズを探して解釈する仕事から感じたことだが、「まだ手がかりがない状態で、どう手がかりを作るのか?」を考えるきっかけになった。

井登さんは「Distructive」という言葉に最近注目している。日本では破壊的っていう意味であるが、実際には新しい混乱を起こすことである。みんなが新しいことについて概念や理解がないからだ。まだ、何もない価値観であっても、最初みんなぼやっとしても慣れると少しづつ付いてくる。それがイノベーションではないかと井登さんは語った。

「経験経験」っていう21年前の本には、世界は贅沢になったから、機能や品質より意味の製品・サービス・ブランドを選ぶ社会になる内容が書かれている。経験の上にあるもう一つの概念がある。「変身、Transformation」である。自分を変えるもの、自分自身の意味を変えることに価値がある概念である。それが、良質の経験をデザインすることにつながる。そのためには、2つを考える必要がある。

⒈状態と立場。文脈を変われば?
⒉価値と文脈がデザインされている。

すべてが使いやすいし効率的になれば、それが良いデザインなのか?不便益からもらえる便益もきっとあるし、それが求められている。良いサービス、体験は客を脅かすことである。Service as Struggle、苦労もデザインされている。つまり、不便な体験から逆に価値をもらえる意味である。また、井登さんは問題を解決するよりも問題解決から新しい問いを提案することをいつも意識している。自分自身を進化することで価値があると感じている。

価値と文脈を通して新しい意味を作ることができる。これがこれからデザインがフォーカスすべき物であると井登さんは強調した。新しいデザインは意味を見いだし、解釈して形にすること。今が存在しない未来の当たり前のことを作ることである。意味のデザインは、結局、人々のふつう、生活習慣を変えることである。

新型コロナによって2020年の世界のあり方や当たり前のこと、モラルに大きな変化が起きる中で、デザインナーが社会に及ぶ影響力は今よりもさらに強くなると思った。形にする能力の上に、文脈を解釈する能力・社会を観察する能力こそ、今のデザイナーに求める能力ではないかと思った。