アートのようなサイエンス

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第5回 江渡浩一郎(産業技術総合研究所、メディア・アーティスト)


「講義日:6月15日」


工学・サイエンスはアートや美術には全く関係ないと思う。ところが、科学というものも自分の頭でロジックを作ってそれに従う全体的なプロセスを考え、新しい発見や発明がそのアウトプットではないか。まさに、アートとデザインと同じ感覚で行われる。今回の特論を担当した江渡浩一郎は工学博士、産業技術総合研究所、そしてメディア・アーティストとして様々な活動を行っている。

彼は慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に在学した時、メディア・アーティストとしてアート作品も発表した。それは、1996年Sensoriumプロジェクトに制作した「WebHopper」という作品だ。1997年アルス・エレクトロニカ賞グランプリを受賞し、2001年には日本未来館「インターネット物理モデル」の制作に参加した。その後、他の作品を制作しながらネットワークを用いた共同での創作活動を研究テーマとして研究を行っている。


インターネット物理モデル (2001)

江渡さんは創造的な場を支える仕組みを研究する中で、ウェブ上の場と実世界の場に分けて様々なコミュニティを作り、本も出した。コードの共創から表現の共創、物の共創、共創イベントとしてだんだんリアルな場にその場が移動し、つながる仕組みを考えて実践している。その仕組みを考えるようになったきっかけは、Wikipediaだ。多くの人の力をまとめて1つになるのは容易ではないからである。オンライン上に色んな人が自分の知識を書き込んで膨大な知識が集まったプラットフォームになったからだ。Wikipediaが成功した理由としてはそこに共創の原理があった。Wikipediaは2001年に開始した時初めてしたことは、立ち上げに参加した「ユーザー」と共にメタルールの構策を開始したことである。そのメタルールは以下になる。


⒈すべてのリールを無視する。
⒉常に未完成なb部分を残す。
⒊専門用号を説明する。
⒋偏向を避ける。
⒌変更は統合する。
⒍明らかな無意味は削除する。
⒎執筆者に機会を与える。


4番の項目を元に「中立的観点」というルールが考えられ、これが現在も続くWikipediaの中心的なルールとなる。つまり、ユーザーと共にルールを構築することで、それぞれの知識を築く場がウェブで生まれた。

それを元に、彼はユーザー参加型研究のば「ニコニコ学会beta」を立ち上げ、2011年から2016年までユーザーと共創する場を実践した。

「ニコニコ学会beta」は野生の研究者を数多く発掘し、人々が科学に出会う場所としてその機能をする。そこで、9回の大規模シンポジウムを開催し、多くの人を集め、自分のプロジェクトや研究を披露する大きな場になった。現在はニコニコ学会beta交流協会として交流の場を持続している。シンポジウム、オフライン、メディアを軸として、デジタルとリアルの場を作って多くの人に向けた活動を行った。

江渡は、共創型のイノベーションとがは、ユーザーと共創を意図するイノベーション創出手法だと定義した。その考えの実践が、ニコニコ学会だった。ユーザーは世界を変えるような発明・発見をする可能性があって、それを活かして社会に発信する環境を作るのが共創型のイノベーションであると言えるだろう。つまり、ユーザーをイノベーション創出に巻き込む共創の場を提供することである。

この記事の最初に書いたが、サイエンスとアートはすごく似ているところが多い。最近、アートに注目し、アート活動を行う人々を支える団体や企業が増えた。一方、科学やサイエンスは人々の関心が低いのが現状である。サイエンスもアートのように、色んな動きがあればもっと面白い社会になれると思う。