見出し画像

群馬イノベーションアワード2021・トップ座談会(4)危機ポジティブに転換

 座談会の4回目は、座長の大竹良明・冬木工業社長ら11人が、「Withコロナ・Afterコロナにおける、わが社のイノベーション」をテーマに、コロナ禍による危機を乗り越える中で見えてきた、これからの企業や新規事業のあり方などについて意見を交わした。

画像1

2021年11月19日 上毛新聞掲載

●人との交流大切に 大竹氏

画像2

大竹 良明・冬木工業社長
 おおたけ・よしあき 1960年、安中市生まれ。大学卒業後、約19年間の銀行勤務を経て、2003年に総合建設の冬木工業に入社。08年から現職。県鐵構業協同組合理事長、全国鐵構工業協会理事。

大竹 冬木工業は、高崎市で総合建設業と建築鉄骨の製造・組み立てを2本柱としている。建築業界では、木材の「ウッドショック」だけでなく、鋼材による「アイアンショック」が起こっている。世界の動向は足元ばかり見ていたら分からない。今回の座談会のように、業界の垣根を超えた交流と情報交換が重要だと感じている。
 コロナを経験し、デジタル化が進んでも、人との触れ合いが大事と実感した。会社経営においても、「仕事を頼んで良かった」「仕事を受けて良かった」「勤めて良かった」「地元にあって良かった」と思ってもらえる、人を大切にした魅力ある会社を目指していきたい。

●高機能綿で新商品 ビューエル氏

画像3

芳子 ビューエル
    アルトスターCEO
 よしこ・びゅーえる 高崎市出身。高校卒業後にカナダ留学。昨年10月、自ら起業した輸入商社アペックス社長を退任し、現職。著書に「私を幸せにする起業」など。北欧のライフスタイルを提案。

ビューエル アルトスターでは、ドイツ発の高機能繊維を取り扱っている。温度調整したり、ビタミンEを継続的に排出したりする綿を使い、大手のインテリア小売やアパレルメーカーと寝具や衣類を開発している。
 コロナ下で、アパレルからの引き合いが増えた。業界低迷に拍車がかかる中、業績を伸ばしているのは、強みを生かしながら、今までと違うものを作っているところだ。違う発想をしていかないと生き残れない。コロナ下で、免疫など健康面が注目されている。アパレル業界も体型や見た目を飾るばかりではなく、内面や健康面のサポートも課題の一つなのではないかと考えている。

●デジタル化を推進 石井氏

画像4

石井 繁紀
  石井設計グループ代表
 いしい・しげのり 1964年、前橋市生まれ。大学卒業後、石井設計入社。2004年から石井設計、石井アーキテクトパートナーズの社長を務め、15年に石井アーバンデザインリサーチを設立。1級建築士。

石井 石井設計グループは、総合建築設計事務所の石井設計と、石井アーキテクトパートナーズがメイン。石井アーバンデザインリサーチでは、建築だけでなく、まちづくりを通じて地域の価値を上げる研究や支援を行っている。
 昨年、コロナ禍の中、デジタル化を推進した業務体制の改革を実行した。クラウド上のデータベース構築のほか、設計業務プロセス改革をデジタルで構築し定着化を進めている。設計は技術サービス業。対面でのコミュニケーションが減る中で、いかにクライアントの要求を満たし、それを超える提案をしていくか。その強化と人材育成を課題として取り組んでいる。

●警備業に多様性を 小淵氏

画像5

小淵 豊太郎
    小淵警備保障常務
 おぶち・とよたろう 1987年、伊勢崎市生まれ。製薬会社の営業職を経て、2014年に小淵警備保障に入社。16年から現職。インソールメーカーBMZと座談会で知り合い、共同で商品開発に取り組む。

小淵 小淵警備保障は、伊勢崎市で警備業や電気工事、介護事業をグループで展開している。
 コロナ下で、対面の重要性や警備員の人間力が問われていることが分かった。メインの交通誘導警備は、深刻な人手不足と、仕事量が季節により変動するので安定しないという課題を抱えている。解決するために、多様性のある警備会社を目指している。雇用比率を見ると、高齢者61%、女性は通常の3倍となる18%を達成している。その上で個々の「わがまま」に傾聴し、それぞれが得意な分野に配置できるシステムを構築している。小さな会社だが、多様性を取り入れながら活躍できる人材を育てていきたい。

●「最悪」想定し前進 山﨑氏

画像6

山﨑 健・国際警備社長
 やまざき・けん 1969年、東京都生まれ。大学院で危機管理を学び、修了後に米国留学して3年間、危機管理を研究。97年、27歳の時に国際警備に入社し、2012年から現職。「危機管理のプロ」を自認。

山﨑 国際警備は今年50周年。県内で機械警備や常駐警備のほか、現金輸送業務を行っている。警備の仕事は24時間365日、休めない。コロナ感染者やクラスター発生を想定し、雇用を増やすなどしてバックアップ体制を構築した。ストレスチェックも多めに実施している。コロナは沈静化しているが、冬にはインフルエンザの流行も予想される。気を緩めず、第6波に備えていきたい。
 東日本大震災や今回のコロナ禍など危機的状況に遭遇するたび、多くを学んできた。事業を伸ばし、継続するには、さまざまな事態を想定し、失敗から教訓を得ながら、新しいことを考え続けることが重要と感じている。

●IT化の先駆けに 広山氏

画像7

広山 悟
  システム・アルファ社長
 こうやま・さとる 1960年、渋川市生まれ。84年、地元にUターンし、システム・アルファに入社。創業40周年を迎え、人とのつながりを大事にして「存在感」のある会社を目指す。

広山 システム・アルファは前橋市でIT事業とドコモショップ事業を手掛け、創業40周年になる。コロナ下では、児童生徒に一人1台の情報端末を配備する「GIGAスクール構想」にも携わった。リモートワークの拠点として、県庁32階の官民共創スペース「ネツゲン」を借りている。社員からは雰囲気や環境が変わって仕事がしやすい、と評判がいい。
 足で稼ぐアナログな営業が強みだったが、デジタルマーケティングに着手した。名刺管理システムを使ったDMやメールでウェブ講習に誘導する展開を始めている。地域密着のIT企業として、県内の先駆けとなれるよう発展させていきたい。

●オリーブの産地に 三田氏

画像8

三田 英彦
 ジャングルデリバリー社長
 みた・ひでひこ 1964年、藤岡市生まれ。NECを経て妻の実家の三田三昭堂に入社し、95年に代表就任。GIA2017のイノベーション部門賞の受賞を機にジャングルデリバリーを起業、オリーブ栽培に取り組む。

三田 館林市の老舗文具店の3代目と、ベンチャー企業・ジャングルデリバリー創業者の二足のわらじをはいており、群馬をオリーブの産地にする活動をしている。
 全国で増える余剰水田や耕作放棄地の問題解決のため、オリーブ栽培で土地1ヘクタール当たりの売り上げを100万から400万に上げる仕組みを構築している。苗木をつくり、土壌コンサルをした上で植えてもらい、収穫できたら買い取ってオイルや化粧品として商品化する。高齢者や障害者が在宅で農業をすることも可能だ。前橋の企業と搾油機の開発もしている。オリーブを群馬名産として世界に流通させ、外貨獲得を目指していきたい。


●経理の合理化支援 田子氏

画像9

田子 宏美
   田子会計事務所代表
 たご・ひろみ 1980年、前橋市生まれ。税理士、中小企業診断士。名古屋で勤務後に帰郷し、2019年から現職。女性経営者、創業者の支援、事業承継、コンサルティングに力を入れている。

田子 田子会計事務所の2代目となり、2年が過ぎた。中小企業の経営者と共に成長し、課題解決を図っていく会計事務所を目指している。
 今年、「人」の専門家である社会保険労務士が入った。税理士は税金やお金の専門家。私自身、中小企業診断士も持っているので、経営の知識もある。多くの中小企業が抱えている、「人、お金・税金、経営」の課題をワンストップで解決できる体制を整えていきたい。 
 中小企業の経理は、昭和のまま聖域化し、改善が難しいところが多い。最新ツールを使えば劇的な合理化が図れる。そこで余った人員や労力を本業に注力し、業績を伸ばすお手伝いを進めたい。

●会社の価値を共有 宮﨑氏

画像10

宮﨑 雄一・HAWORD社長 みやざき・ゆういち 1972年、熊本市生まれ。2001年に群馬県に移り住み、イタリア料理を学ぶ。13年にイタリアンレストラン「ピッツェリア・ぺスカ」を開店。前橋市で2店舗を展開する。

宮﨑 HAWORDは飲食店2店舗を展開。現在はドレッシングの製造販売に力を入れている。
 コロナ下で社員やスタッフに危機感が芽生え、組織力が高まった。今後、ただ空腹を満たすためではなく、店を選んで行く時代になる。対応するには、「全ての人を幸せに」という願いを込めた経営理念「ハピネス」への理解を深め、会社の価値をスタッフが共有して磨いていくことが大切だ。
 ドレッシングは全国展開を目指す。無添加無調整のため常温保存できず、流通が難しいが、レストランと同じ味を届けたいとの思いで作っている。全国に届けられたら本当にハピネスだと信じて、日々まい進している。

●社員の自信が向上 竹内氏

画像11

竹内 一普・プリエッセ社長 たけうち・かずゆき 1969年、高崎市生まれ。大学卒業後、京都公益社を経て97年に帰郷し、武内葬儀社(現プリエッセ)へ入社。創業120年の2014年から現職。一級葬祭ディレクター。高崎観光協会副理事長。

竹内 プリエッセは1894年創業の高崎市の葬儀社。今年5月、カスタマイズできる家族葬「ERABEL(イラベル)」が始まった。発案したのは若手社員。単価が落ちて苦戦する中、強みを生かしたものを考えてもらった。課題に応えようという気持ちが表れたプランとなり、社員も誇りを持って進めている。
 コロナ禍は厳しいものだったが、感染対策や、感染者のご遺体を扱うためのマニュアル作りなどを通じて、社員が「地域に必要とされている」という自信を持てたのは収穫だった。葬儀に対する価値観は時代により変化していくが、今後もご遺族に寄り添ったサービスを心掛けていきたい。

●攻守回し利益確保 宮沢氏

画像12

宮沢 文彦
 ボルテックス社長兼CEO
 みやざわ・ふみひこ 1965年、前橋市生まれ。89年に大学卒業。証券会社経験後、不動産会社で営業部長として不動産コンサルティングなどを手掛ける。99年にボルテックス設立。

宮沢 ボルテックスは、都心の商業地のオフィスビルをフロアごとに分譲販売する「区分所有オフィス」を手掛ける。また不動産小口化商品「Vシェア」も伸びている。
 当社は最悪のケースを考え、“攻めの分譲販売”と“守りの賃貸業”の両輪を回しており、今回のコロナ禍では前年比約50%の減収となったが、守りの賃貸業で利益をしっかり確保できた。事業継続のために重要な「本業と連動しない事業」での売上確保の重要性を自ら体現した。今期は社員からの公募やトップダウンで新たな事業を立ち上げ、失った以上に多くのものを得ることができ、第二創業ともいうべき1年になったと自負している。