トップ座談会「コロナ禍の戦略」VOL.3
<上毛新聞 2020年11月7日掲載>
座談会の3回目は、相模屋食料の鳥越淳司社長ら10人が「コロナ禍の戦略」をテーマに、新事業の展開やSDGs(持続可能な開発目標)の推進などについて意見を交わした。(敬称略)
食をつなぐ使命実感
鳥越 コロナは消費行動に大きな影響を与えた。3~5月ごろ、食品を求めるお客さまがスーパーに殺到した。それを受け、一時、豆腐の受注が通常の3倍程度に跳ね上がった。通常なら欠品せざるを得ない量だが、コロナ禍の状況を考慮し、欠品すると日本の食が途絶えてしまうという危機感を持って乗り切った。食をつなぐ使命感と言ってもいい。
ずっと顧客志向で取り組んできたが、コロナ禍ほど思い知らされたことはなかった。受注が増え、プラスの部分はあったが、豆腐業界は年間約1千軒が廃業する。8年前から同業者の救済と再建に取り組み、債務超過を解消できる会社も出てきた。世の中が暗くなりがちなので、明るい話題をつくっていきたい。
体力増の大切さ痛感
松本 鳥越社長と同じ食品業界で、国産豚を原料にもつ煮やホルモン焼きを製造している。豆腐と同様に家での自粛生活の影響からか、スーパーからの受注が増え、増産で対応した。課題になったのは、生産体制の維持。コロナでテレワークが一般的になったが、製造業なので生産ラインの従業員を出社させないと会社が回らなかった。困っていたら、臨時休校中の子どもを連れて出社してくれる社員がいた。社員食堂を開放して子どもの居場所にしてもらい、面倒を見てくれる女子社員もいた。おかげで生産体制を維持できた。
コロナ後を考えると、新規事業開発や販売方法の工夫、生産性向上、経費改善などバランス良く体力を増強しなければいけないと痛感している。
新商品の開発に全力
高井 赤城南面などでソバを栽培する農業生産法人を営み、夏と秋の二期作に取り組んでいる。コロナでスーパーからホットケーキ用の粉がなくなったことを覚えている人もいるだろう。当社はそば粉を使ったパンケーキミックス粉を開発し、来年1月に発売する。自宅で過ごす時間が増えると、このような商品が人気になるので、今後も開発を進めたい。
コロナ対策はサンプル配布が効果的だった。そば店が軒並み休業になり、3、4月の売り上げは例年の6、7割。夏ソバを販売する7月にそば粉5キロを取引先の約200軒に無料配布すると7、8月は前年並み程度に持ち直し、9月はプラスになった。当社のそば粉を手にしたそば店が品質を認めてくれた結果だと思う。
放棄地活用新モデル
三田 1928年創業の文房具店の3代目。人生100年時代と言われる中、53歳で群馬イノベーションスクールに入り、GIA2017で部門賞を取ったことを契機に「ジャングルデリバリー」を立ち上げ、オリーブ栽培を始めた。耕作放棄地を活用して地域発展につなげることが大きな狙い。苗木の購入者に栽培法を教え、買い取った実を搾油してオリーブ油を販売するスタイルを確立していく。ブランディングを進め、世界から注目される秩父市のベンチャーウイスキー「イチローズモルト」のように、事業を発展させたい。
農業は密環境がないのでコロナ禍でも作業ができている。就職したいという若者も現れ、より良いビジネスモデルをつくり、さらにイノベーションを進めたい。
環境配慮の事業加速
赤尾 ガソリンスタンド、LPガス、産業用燃料、工場用潤滑油など多岐にわたるエネルギーを取り扱う。緊急事態宣言が出た4、5月はスタンドのガソリン数量が7割に落ち込むなどの影響が出た。社会はデジタル化が急速に進み、当社もテレワーク推進、スタンドのウェブ予約システム構築、動画投稿サイトでの情報発信、研修やセミナーのオンライン化に取り組み始めた。
環境負荷が高い化石燃料を扱う会社だからこそ、持続可能な開発目標のSDGsは大きなテーマ。省エネのエンジンオイルやガス給湯器を顧客に薦めるなど、環境に優しい取り組みを重視していく。業界は男性社会なので、私が女性ということもあり、ジェンダー平等も目標にしたい。
受け継がれる着物を
中川原 前橋の中央通りアーケードで、創業115年の呉服専門店を家族経営している。コロナで3~6月は卒業式や展示会、茶会などの各種イベントが中止になり、厳しかった。7、8月は家にいる快適さを求めたのか、甚平、作務衣(さむえ)の需要が増え、持ち直した。コロナでマスクの裏地に使うガーゼの需要も伸びた。商品を購入したお客さまに配布していた風呂敷をエコバッグに使うなど日本の伝統的な物が見直される部分もあった。
SDGsが注目されており、物を長く大切に使いたい。私が今、着ている着物は、母の古い着物を男性用に変えて仕立て直した。リサイクルというかアップサイクルという形で提案し、2代3代と受け継がれる着物を提供したい。
デジタルの波確実に
廣山 IT事業とドコモショップ運営を手掛ける。コロナ禍では職種を問わず在宅勤務を推奨し、現在も働き方の一つとして3割程度の社員が交代で継続している。体温や体調を入力して社員の健康状態を簡単に把握できるシステム「健康パトロール」を開発し、他社にも提供している。
IT関連はコロナでテレワークやオンライン会議をする会社が増え、その環境整備の手伝いや相談依頼が舞い込んだ。こうした積み重ねで築いた関係を、大きなビジネスにつなげられるかが今後の課題。政府のデジタル庁創設で、デジタル化の流れは加速するだろう。以前から取り組んでいるデザイン思考を活用し、この波を捉えられるようアイデアを絞り出したい。これからが勝負だ。
本質までデジタル化
中島 県内で専門学校9校などを運営する。コロナで4月は休業とし、ゴールデンウイーク以降は遠隔授業に切り替えた。緊急事態宣言解除後は対面の授業と遠隔を併用。コロナで日本の教育のデジタル化の遅れが浮き彫りになった。オンラインのアンケートで学生の満足度は高かったが、学生同士の交流を求める声もあった。学校での体験も重要で、デジタル化と組み合わせて次世代教育にシフトさせたい。
DX(デジタルトランスフォーメーション)にも取り組みたい。グループの情報系専門学校とコンサル会社で「DXデザイン研究所」を設立した。企業のDX推進と人材育成を進め、デジタルをベースに物事の本質を変革する取り組みをやっていきたい。
アイデア実現に全力
宮沢 都心の商業地のオフィスビルをフロアごと分譲販売する「区分所有オフィス」をメインに手掛けている。不確実な時代に、本業一本やりの事業展開では厳しい。これまで売り上げの9割を占めていた分譲事業がコロナの影響で4~6月、前年に比べて大きく落ち込んだが、対照的にビル賃貸事業の収入は前年とほぼ変わらず、利益を確保することができた。コロナで経営方針の正しさが証明された。
会社に行けなかった2カ月間、経営者としての質を高めようと、多くの書籍を読み、あらためてコミュニケーションの大切さを感じた。幹部との会話はこれまでの10倍にもなった。社内の新規事業コンテストで100件近いアイデアが集まり、実現可能に向けて取り組んでいる。
新しいスタイル提案 吉田
吉田 冠婚葬祭を軸にホテル、レストランを運営する。結婚式は書き入れ時の3~6月の売り上げが大幅に減少した。ホテルは宴会が戻らないが、宿泊は稼働率90%超。葬儀はコロナ前からの小規模化がさらに進み、通夜と告別式を告別式だけで済ます流れが出てきている。
ウィズコロナ時代に、新しいスタイルを提案している。葬儀は感染防止対策として、オンラインでの参列を可能にする弔問サービスを導入した。香典はクレジット決済できる。結婚式もライブ配信を導入したところ、9月から前年の半分くらいに戻ってきた。結婚式を挙げないカップルが増える中、韓国の画像補正技術を使ったフォトウエディングが好評で、こうした新たな感覚を大事にしていきたい。
■ファイナルステージ/12月5日(土) ヤマダグリーンドーム前橋 入場無料 事前申し込みが必要です 申し込みはこちらから