見出し画像

トップ座談会(1)わが社の成長戦略

上毛新聞 10月25日掲載

起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード(GIA)2019」の実行委員と特別協賛社、パートナー企業のトップらが「わが社の成長戦略」をテーマに、開発力や社員教育、地域貢献などについて座談会形式で意見を交わした。その様子を6回シリーズ(原則金曜日掲載)で紹介する。

《変革に対応》
◎生き残り懸け挑戦

ジンズホールディングス 田中仁CEO

田中 
将来的に今の眼鏡のビジネスはなくなるのではないかと危機感がある。小型スピーカー内蔵のサングラスや音声認識AI(人工知能)を搭載した眼鏡などが開発され、カメラがスマートフォンに取って代わられたような状況に眼鏡もなるのではないかと感じている。出店を増やしてビジネスを拡大していくモデルでは厳しい。変革していかないと生き残れない。そういった意味でも、世界初となる近視の進行を抑制する眼鏡型医療機器の製品化を数年後に実現させたい

群馬トヨタ自動車 横田衛社長

横田 
危機感ということでは自動車を取り巻く環境も同じ。少子高齢化や人口減少などを背景に、トヨタ自動車の豊田章男社長が「勝つか負けるかではない。生きるか死ぬかだ」と瀬戸際の戦いを強調している。今年からトヨタ自動車販売店協会の理事長となり、メーカーと販売店の生き残りをかけたせめぎ合いの中で、「100年に一度」ともいわれる大変革期に対応していきたい。

富士スバル 斎藤郁雄会長兼CEO

斎藤 
横田さんと同じ自動車販売業界だが、車の使い方や所有の考え方がだんだん変わってきている。そんな中で、一人一人のお客さまと長く、深いお付き合いをさせていただくことがあらためて重要になる。ただ販売するだけでなく、整備や保険を含めたクロスセリングを通してお客さまとつながっていくこと。そのためには、社員の質が大切になってくる。

横田
車の将来は自動運転やそれに伴う新たなサービス提供など大きな変革が起こるだろうが、斎藤さんと同様、地元密着の販売会社の強みは何と言ってもお客さまの情報。親子、孫と3代、4代のデータがある。このデータを生かし、群馬での暮らしがもっと豊かで楽しくなるような次のアクションを起こしていきたい。

ジャオス 赤星大二郎社長

赤星 
SUV(スポーツタイプ多目的車)を中心に、アルミホイールやサスペンションといった自動車部品を製造している。国内はもちろん、海外にも輸出している。夏にタイで開催されたアジアクロスカントリーラリーに5年連続で出場し、今年は初のクラス優勝を果たした。群馬トヨタさんにもメカニックとして協力いただいた。過酷な自然環境の中で行われるラリーは部品の耐久性や性能を確認でき、人材育成にもつながっている。

斎藤 
人材という点では、どうしたら優秀な社員を採用し、モチベーション高く働いてもらえるか。それには職場環境の改善も重要になってくる。具体的には、かつてメカニックの仕事は半ば屋外のような環境で暑くて、寒くて大変だったが、今は冷暖房完備の屋内で清潔に作業ができるように力を入れている。

赤尾商事 赤尾佳子社長

赤尾
「油の町医者たれ」を経営理念に創業68年を迎えた。ガソリンスタンドやLPガス、産業用燃料、工業用潤滑油販売などの事業を手掛けているが、環境変化の大きさに危機感を抱いている。そこで、2030年に向けた成長ビジョンを描いた。一例を挙げれば、世の中の困り事を解決する会社にしていきたい。その中から新事業を生み、30以上の子会社を立ち上げたい。チャレンジする社員を応援し、企業内起業を推進していく。

タカラコーポレーション 榎本太平常務

榎本 
家電や携帯電話の販売のほか、外国人の求人、職業訓練の4本柱で多角化経営を推進していく。赤尾さんの話にあったように、困り事の解消をしていくのが会社の方向性。その一つが外国人の求人。ここ数年、人材採用が難しくなっているという相談が寄せられていた。一方で地元の太田市や隣の大泉町は外国人が多く、働きたいのに求人票の日本語や仕事内容が理解できないといった問題があり、マッチングを事業化した。

ひかり税理士法人 高橋正光代表社員

高橋 
この春、社屋に社員専用のカフェを設けた。都内の世界的なIT企業のカフェなどを参考にした。なぜかというと、優秀な人材を採用するための一環。かつて資格ブームで税理士は人気の職種だったが、今は厳しい。法人数は減り、将来はAI(人工知能)に取って代わられるとも言われている。市場が狭まっていく中で、お客さまに選ばれるためには優秀な人材確保があらためて重要になってくる。

こもれび 小井土匡彦社長

小井土 
県内と埼玉県北部で介護事業を中心に展開している。団塊の世代が2025年に75歳になるが、75歳はまだまだ元気。本当に介護需要が高まるのは30年以降で、需要に対しての介護力が確保されるかが鍵。施設が増えても運営力や採用・教育が伴わないと継続も困難になるので、今後は運営サポートや教育に力を入れていきたい。

永井酒造 永井則吉社長

永井 
1886年創業の造り酒屋で6代目。日本酒は国内市場が縮小しているが、日本の文化である日本酒の価値創造に取り組んでいる。シャンパンと肩を並べたいと、2008年に完成させた日本酒のスパークリングがその一つ。開発に5年をかけ、700回も失敗して商品化させた。有志とawa酒協会をつくり、今では8社から21社に増え、合わせて年間12万本を製造。日本は世界有数のシャンパン輸入国なので、スパークリング日本酒の市場拡大の余地は十分にある。

田中 
開発という点では、冒頭で触れた近視の進行を抑制する眼鏡型医療機器は、慶応大医学部発のベンチャーと共同で進める。太陽光に含まれる紫色の光を活用し、世界で画期的なものになるだろう。近視率が高いとされる小学生向けを予定し、製品化されれば子どもの頃からジンズに親しんでもらえる。

永井 
酒造りでこれからもチャレンジを続けていく。世界ではワインと日本酒の市場規模は100対1くらい。日本酒の輸出は伸びているが、まだまだ。でも成長の可能性は無限大に広がっている。来年にも世界にインパクトを与えられるような発表をしたいと思っている。

赤星 
車の部品を海外にも輸出しているので、ラリーは格好のアピールの場となる。そこで得られたデータやアイデアを部品の開発や改良に生かしている。将来的に車を通したライフスタイルを彩れるような企業として成長していきたい。

赤尾 
私たちの業界は男社会。これからは多様な働き方を進め、女性の管理職や社員を増やしていきたい。というのも、女性に寄り添うサービスやデザインは女性の感性が必要。100年企業を目指し、群馬イノベーションスクール(GIS)で若い人たちと一緒に学んでいる。

小井土 
高齢者とは別に、3年前からコミュニケーションや集団生活、あるいは基本的な運動が苦手な子どもたちに、運動と学習を組み合わせた療育プログラムを提供している。通っている子どもたちの大きな変化に手応えとやりがいを感じており、今後はこの療育プログラムをさらに広げ、子どもたちが自立していける環境づくりをしていきたい。

高橋 
最近は相続の相談が多く、社員約40人のうち専属で8人を充てている。相続は手続きが煩雑で時間もかかる。争い事となり、お通夜でけんかが始まってしまうこともある。近年は家庭裁判所での調停も時間がかかっている。しっかりした事前手続きが大切。紹介での依頼が多く、成長の鍵はやはり人材である。

榎本 
多角化経営で社員教育はますます重要になってくる。これまで以上に時間をかけてやっていきたい。それとともに地域密着の会社として、地元でどんな貢献ができるのかを考えて事業展開を進めていきたい。

《人材の育成》
◎社員と一緒に成長

石井設計 石井繁紀社長

石井 
前橋、高崎両市でそれぞれ総合建築設計事務所を展開している。人口減少が進む中、自らのノウハウを生かし、地域発展に貢献することが成長戦略と考え、4年前に「石井アーバンデザインリサーチ」という三つ目の会社を立ち上げた。都市デザインの研究所で、例えば市の委託で新しいまちづくりのビジョンをまとめたり、県庁周辺の前橋城にあった車橋門を独自に3D画像で再現した。歴史の復元と新しいまちづくりをムービー化し、提言している。

高崎商科大学 築雅之副学長

築 
大学も地域貢献は重要。企業と違って規制があり、急速な成長は難しい。だからこそ選ばれるには地道に教育の質を高め、大学から巣立った学生たちが地元の役に立てることが大切になる。 2021年の大学開校20周年に向け、教員や職員、若手、ベテランの混成チームを立ち上げ、さらに地域から愛される学校を目指すプロジェクトに取り組む。1年半かけて形にしたい。

じぶんカンパニー 池田道成社長

池田 
大学時代、群馬イノベーションスクール(GIS)の受講をきっかけに4年前に起業した。現在は前橋の弁天通りなどでジム5店舗を運営している。ジムは筋肉のイメージを持たれがちだが、体の課題解決、病気やけが予防の場所と位置付けている。理学療法士、管理栄養士といった医療の専門家を雇用し、運動療法や食事療法を指導。医師の助言や遺伝子検査、血液検査に基づき、これから起こりうる病気を防ぐ「予防医療」に取り組んでいる。目指すのは日本一のヘルスケアサービス。

前橋園芸 中村敬太郎社長

中村 
外構造園業と観葉植物レンタル、冠婚葬祭の生花という3事業のうち、成長戦略としてインドアグリーンに力を入れている。都内で緑を取り入れた快適なオフィス空間づくりが重要視されている。従来のように観葉植物を入れた鉢を単体で置くレベルではなく、オフィスの多くの部分をグリーンが占める抜本的な形だ。背景には人材確保の厳しさがある。いいオフィスじゃないと、せっかく入社した社員が他社に行ってしまうからだ。都内のムーブメントは将来的に地方に広がる。戦略的に取り組んでいきたい。

オオラ美装 岡田勇一社長

岡田 
ビルメンテナンス業や業務請負、委託事業を軸に、異業種の訪問看護ステーションなどを手掛けている。5年後の業績の数値目標だけでなく、成長戦略として人材育成に力を入れている。社員の成長は会社の成長とイコール。全社員がきめ細かな研修を受けられるようにした。研修を受けて終わりではなく、学んだことを社員間で共有し、業務に反映させる機会を設けている。その中でさらに課題を見つけ、振り返り、研修で解決を目指す。計画、実行、評価、改善を繰り返す「PDCAサイクル」のイメージだ。

クシダ工業 串田洋介社長

串田 
成長戦略のテーマは共感。当社がなぜ存在し、どんな価値を提供できるのか、事業運営や仕事を進めるチームへの共感を深めることに取り組んでいる。群馬を中心に東日本全域で浄水場や下水処理場などライフラインに関わる分野の設備工事や製品製造などを手掛けている。最高の技術で水や電気が寸断されることなく当たり前のように使える安全安心を提供し、地域の社会基盤を守り続けたい。

国際警備 山﨑健社長

山﨑 
警備業は機械を取り付け、センサーが反応すると警備員が向かう機械警備、市役所や工場などに常駐する常駐警備があるが、24時間365日動ける人材を持つ自社の強みを生かし、人を出す仕事に力を入れている。
 異業種にも事業分野を広げている。社員の介護離職を受けて2年ほど前に始めた小規模多機能型居宅介護施設に加え、発達障害などがある子どもを保護者の外出時や働いている間に預かる放課後デイサービスを始めた。拠点が1年で5カ所に増えるなど順調に推移している。

ダイコー 齋藤胡依社長

齋藤 
2006年、太田市内にそば処「竹林」を開業し、十割そばにこだわってきた。十割というとボソボソ、パサパサのイメージがあったが、そうではなく、香りや風味があり、食べやすい十割そばを提供したかった。そば粉は群馬県や北海道だけでなく、中国、モンゴルで作っている。特にモンゴルの大地は栽培に適している。現在の収穫量は5千ヘクタールの土地で年3千トンほどだが、将来は現在の日本全体の年間輸入量の半分に当たる5万トンを目指したい。

中村 
人材育成だと会社負担で資格を取得できるようにしている。以前は折半だったが、誰も取得せず、技術力低下の懸念があったからだ。最近は日本で庭に凝る人が減っているので、技術維持も兼ねて中国など海外に目を向けている。

齋藤
そば業界も店や職人が減っている。そこで来年、太田市内にそば作りを学べる「日本蕎麦文化学院」、通称「そば大学」を開き、職人育成や開業前後のサポートに取り組む。宿泊設備も備え、海外からも勉強に来られるようにする。太田から世界にそば文化を広げたい。

串田 
人材不足という言葉がよく出る時代だけに今、会社にいる社員にどれだけ投資できるかを考えている。一方的に「こうありたい」と伝えるだけでなく、社員がどう受け止め、納得できているのかしっかり検証しなければならない。

岡田 
きめ細かな研修を通じ、社員もやりたいことが明確になって「こういう勉強がしたい」と志願してくるなど、いい効果が出ている。自分の中のつくりたい会社のイメージもよく理解してくれるようになった。

山﨑 
人という意味では地元密着型の仕事なので、社長の自分がどんな人間か知ってもらうことも信頼と仕事を得る上で重要だ。市や県、青年会議所のイベントなど多くの場所に顔を出し、いい意味で有名人になれれば。

石井 
成長戦略としてZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)などを取り入れた設計改革に力を入れている。ZEBは省エネや太陽光発電などを駆使した設計で、消費電力と同等のエネルギーを生み出し、実質的に建物の消費電力をゼロにする。会社の生産性や不動産価値、企業イメージ向上にもつながる。

 
経営学科では電通、アドビシステム、すかいらーくレストランツなどと連携した教育プログラムも取り入れ、企業連携に力を入れている。一線の企業人から全身で学び、フィールドで経験を積むことを重視して いる。こうした経験を通じ、学生に地域社会の役に立つ力をつけてほしい。

池田 
大学医学部や医療施設と連携している。会員から食事の写真や心拍数や睡眠の状況、体組成情報などを収集している。蓄積したビッグデータを大学との共同研究で分析し、遺伝子検査などとリンクさせて数年間観察し、さらに根拠ある予防医療を提供したい。