クレイジークレイマー 2年契約ってなんだろね
スタジオと別に、日払いのバイトをしている。
そこの店長は読書家で、少年漫画から小説、誰も知らなさそうな占いの本まで幅広くを読む。
そんな店長が「青木ちゃん、これ面白いから読みなよ」と貸してくれた本が、水野敬也『スパルタ婚活塾』だった。
私はSFとエッセイが好きだ。いわゆる新書サイズの、「○○する方法」「○○になりたいなら○○しろ」みたいな自己啓発本は読んだことがないし、この本もタイトルの時点で悪い予感がした。
ブラック企業の朝礼みたいなことがたくさん書いてあるイメージがある。性格が悪いので、そういうのを読むと、ほんのさわりだけでも「うるせえ〜(笑)」と思う。
スパルタ婚活塾は、日本において求められてきたステレオタイプの女性像を「モテる」とし、婚活中の女性の人格を既成のジェンダー規範に押し込める最悪の読み物だったが、笑える部分もあり、なかでもお気に入りの章にはギクリとすらした。
いま手元にないが、意訳すると下記のような感じだ。
・ニートを見習え
・ニートは実家に居座るために親が喜ぶことをする
(宅配便を受け取る、力仕事を手伝うなど)
・そして母の日、父の日には感涙ものの手紙を贈る
・これで実家に居座れる期間が2年は延びる
ギャー!!!!!!!!!!!
すみません、あまりに心当たりがあったので悲鳴をあげてしまいました。
この章、相手が喜ぶことを知ればモテる、当たり前だ。という最悪のバクマンみたいな結論なのだが、私が図星を突かれたのはそこではなかった。
私は小中引きこもりで親に心配をかけ、そうかと思えば大学に入って喜ばせ、浮かれている隙に大学を辞め、家を出て結婚に対する期待を高めるも、あっさり出戻った。
親が私に対して抱いた実態のない信頼だけを生かしたまま、バンドマンこと楽器を弾けるフリーターをやっている。そんなやつがブラック企業と自己啓発本の悪口を言うな。毎日、実家のご飯をモリモリ食べている。負い目だけの人生である。
そしてまさに、両親の誕生日にはプレゼントを送り、インターネットを介する色々な手続きのやり方を教え、欲しいものがあれば楽天市場で代理購入する。それだけではない。
パラサイトシングルが実家に世話になり続けるために何をするかと言えば、一番は、親をauショップに連れて行くのである。
親をauショップに連れて行く
親というものは、携帯のことをよく知らない。いろんなパスワードも覚えていないし、メモを書いてもそれがなんのパスワードなのかを忘れる。
そこで頼りになるのが、インターネットネイティブ世代のお子様である。
今朝、母親がソフトバンクのサポートアプリのパスワードを忘れてログインできないと言うので、颯爽と駆けつけ、「この前お母さんのiPhoneのメモにパスワードを書いといたはずだから見せてごらん」と言ったら、iPhoneのメモに「ソフトバンク:(^。^)」とだけ入っていた。マジで何?(間違えて上書きしたらしい)
そもそも家族全員auだったはずなのに、いつの間にか母親だけが白い犬と黒人とモンゴロイドのandymoriの歌詞みたいな一家に取り込まれている。なにかのプロパガンダ?
「電気屋さんで騙されてauからソフトバンクに変わってしまった(そんなことある?)から解約しようと思った」と主張する母親を、auショップに連れて行った。
お店のお兄さんは戦場カメラマンのような柔和な笑顔で迎えてくれた。話すのもゆっくりだった。
母親が渡部陽一の3倍の速度で「騙されてソフトバンクになったのです(そんなわけねえって)」と捲し立てるのをやめてくれよと思いながら、プランの見直しをした。
父親がガラケー時代にテトリスをしすぎて超高額の通信料を請求されたことがあるため、両親は「パケット通信量(懐かしっ)を使いすぎること」を過度に恐れている。
なのでこだわりがあり、もともと二人とも20ギガのプランに加入していたようだった。
実際に使っているギガ数を照会すると、1.35ギガだった。ジジィ!!!!
渡辺陽一は「上手に、Wi-Fiを、使われているんですね」と目尻をくしゃっとして笑っていた。
渡辺陽一は親切だった。
使ったギガ数に応じて値段が上がっていくプランを勧められ、「LINEを使うにもギガ数を使うから、超えたらお金が発生しますよね?」という母親の問いに、「そうですね、新しいご契約の、ギガ数を、LINEのみで、超えるとなると、8億通ほどの、やりとり」とTwitterかブルゾンちえみでしか見ない数字で答えていた。
数年ぶりに母親が第三者のちゃんとした大人と会話している様子を見たが、話す前に「あっ」と言うところが自分に似ていて、キショくもあり愛おしくもあった。
その後とりあえず契約はできたので、"手伝った"実績として家にいられる期間が2年は延びただろう。いかがでしたか?みなさんも試してみては?(カスのキュレーションサイト)
夜に吉祥寺warpのバーに行ったら、久しぶりに会う先輩がいたので軽くお酒を飲んだ。
「あっ」「あっ」と随一言い、モジモジ手遊びしながら話していたらあまりの多動っぷりにウケられてしまい、肩パンされた。ブラック企業か。スパルタ婚活塾にはコミュ障の治し方までは書いていなかった。
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