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アイサツはハイセツよりタイセツ

 こんにちは。青木9歳です。

 信じられないかもしれないが、最近、大きな声で挨拶ができる。ライブハウスの人に、仕事で出会った人に、挨拶ができる。対バンにもできる。(たまにし損ねる)
「Carpenter'sBlueです。今日はよろしくお願いします。」
 知らない人に話しかけるのは怖いけど、できる。なんならサンプルとしてCDとかも渡しちゃうから。乾杯とかもしちゃう。
 
 しかし、挨拶は諸刃の剣だ。
 私は自分の名前を名乗りましたよ、あなたの名前も聞きましたよ。もう忘れませんよ。そういう契約を結んでる気分になる。

 や、名前は忘れない。
 ただ顔を忘れてしまう。

 ひとの顔を覚えるのが苦手で、最低3回以上飲むか、よほど個性的な外見をしていないと、知り合いなのか初対面なのかすらわからなくなる。初対面だとその日のうちに忘れる。
 「この人なんて名前だっけ、、あー出てこない、、」とかじゃない。知り合った記憶がない。本当にすみません。
 知り合った記憶がある人でも、状況が変わると判別できなくなる。ライブハウスで挨拶をした人に、駅で偶然会って声をかけられる、というようなシチュエーションだと、かなり難しい。てかあっちはなんで覚えてるんだ。すごすぎるだろ。
 自慢じゃないが、何度も会ってご飯も食べているはずの友達のバンドのメンバーが、前髪を切ってスタジオに来た時に、普通にお客さんだと思い「おはようございます!トイレ?そちらですどうぞ!」と元気に声をかけてしまったことがある。前髪切るのは卑怯じゃん。

 ひとの目を見て話せないことが原因で覚えられないのだと思い(オタク)、改善を試みたが、そもそもテレビで見ている俳優の顔も判別できなくてドラマのストーリーが全然わからなくなるのでそれ以前の問題だった。
 好きな映画はアベンジャーズ(登場人物がトンチキな服装をしているので覚えやすいから)(ただコスチュームを脱がれるとマジでわからなくなる)(ずっとコスチュームでいいのに)(ずとこす)

 このままでは失礼すぎる。
 考えて、考えて、私は必殺技を思いついた。
 服装を覚えるのだ。

 私はひたすら覚えた。バンTを着てるバンドマン、ニットを着ている店長さん、ワンピースを着ているお客さん。
 そのおかげで、箱のスタッフに二回挨拶をするみたいな事態は起こさなくなった。

 しかしこの方法には穴があった。
 バンドマン、めちゃくちゃ着替える。ライブでかなり汗をかくからだ。
 顔合わせでパーカーを覚えても、ステージではパーカーを脱いでTシャツになり、そのTシャツすら打ち上げのときは別の服に着替えている。
 おしゃれカットソーに着替えられてしまったら、もうそれは別の人だ。Carpenter'sBlueです。今日はよろしくお願いします。エンドレス。着替えるな。頼む。

 大昔にバーで働いていた頃、大好きなお客さんがいた。緑のパーカー、緑のシャツ、緑のアクセサリー、全身緑色で揃えた「みどりちゃん」と呼ばれるお客さんだ。
 自分と話しに来てくれたおじさんの顔すら忘れて、微妙な空気で接客をしていた私の地獄に現れた、全身緑でウイスキーのロックしか飲まない常連さん。
 年齢不詳の渋顔イケメンで、歯があんまりなくて、黒髪ロングと緑色のスカートを揺らしながら好きな女の子の話をするみどりちゃんが、男性なのか女性なのかはどうでも良いことだった。おもちゃみたいなジャンクな緑色をした時計がきらきらしていた。私にとってはただ、天使だった。
 
 ある日の閉店後、明け方の駅前で、みどりちゃんの後ろ姿を見つけた。私は走って追いかけて、「おはようございます!」と声をかけた。
 みどりちゃんは、緑色のイヤホンをとって、「あっ……お、おう」と言い、去った。
 明らかにどこのどいつかピンときていない顔だったが、私のこと覚えてる?と確認する勇気もなかった。想像だが、みどりちゃんもまた、バーの制服姿の私しか覚えていないのかなあと思った。
 みどりちゃんが話していたのは私ではなく、ただの店員だった。私が話していたのはみどりちゃんではなく、ただ覚えやすい服装のお客さんだった。

 みどりちゃんは悪くない。ただの怠惰を「好き〜」で覆っていた私はどうだろう。
 他人に対して、厚い厚い壁がある。私は他人を肩書きや所属でしか見ていなくて、その人自身の個性を見ていないから覚えられないんだなあ、と感じて、俯いて帰った。そのあと似たような接客の仕事を転々としたが、めちゃくちゃいじめられて辞めた。
 
 きっと治るまでこれからも、既知かどうか不安な相手には初対面のような元気さで話す。本当に初対面だったら儲けもんだし。そんで、覚えやすい外見の人にはやたらとなつく。まだそういう姑息なところがある。
 会ったことがあるのに私に運動部みたいな大声で挨拶をされたら、肩パンしてください。肩パンされたら、多分忘れないので。暗い話でした。

 これはもう何度か出てるのでちゃんと顔を覚えており安心できるライブハウスでのライブ告知↓

 3バンド目です。
 ライブホリックは陰キャに対しても優しく接してくれる人たちがやっているので最高。

 4/2にライブ2ステした経験で何か掴んだ気がします。なんとなく、これからもっとかっこ良いライブができそう。顔を覚えるのは苦手ですが、ライブバンドとしては成長どきです。ぜひ。

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