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ガソリンレインボウ

10/31

 SACOYANSのワンマンライブを観た。

 客層はまさに老若男女様々、といった様子で、子連れの人もいた。
 ソールド状態の秋葉原グッドマンを見回して、詰め込まれた人々が全員SACOYANSを愛しているのだと思うと、なんだか途方もない気持ちになった。
 高校生の頃にSACOYANを教えてくれて、一緒にWindows7で宅録音源を聴いていた友達にも伝えたかった。

 SACOYANのライブは、数年前に上野水上音楽堂で弾き語りを見たきりだ。その時はロングヘアで、ギターを一本持って立ち、「私は世界でいちばん最高で、世界でいちばん場慣れしていないアーティストだ」とMCする声はすこし、いや、かなり震えていた。
 それなのに歌い始めると揺らがない、でも体温はガンガン伝わってくる、それが面白かった。

 今回も早めに会場に着いたので、比較的ステージの近くで見ることができた。
 メンバーが出てきて、曲がはじまる。不条理ドデカ爆音というわけじゃないのに、演奏がタイトすぎて音の粒が大きく感じるというか、エネルギーの壁にぶつかっている気分だった。

 ライブは2部制で、1部の後半に差し掛かった時だった。
 演奏が終わる。歪んだギターの余韻が鳴り止み、拍手が起こる、そのわずかな隙間に、「おわり?」と高い声が響いて、会場は途端に脱力した。
 飽きてぐずってしまったお子がいたのだ。

 SACOYANは嫌な顔一つせずに「うるさいよねえ、ごめんねえ」と声をかけた。「一緒に何か歌う? 恥ずかしいか」「もうすぐ終わるからね、ちょっと大きい音出るから気をつけてね」
 妊娠8ヶ月の大きなお腹に赤いSGを乗せて、さっきまでガナり倒していた口元に困ったような笑みを浮かべる姿が印象的だった。私にとって一番ヤバいオルタナOL改め、オルタナ母ちゃんだった。

 帰りにレコードを買って、サインをもらった。
「SACOYANを教えてくれた友達とけんかをしたので、仲直りしたいのです」と話すと、「絶対にうまくいくよ」「デニーズとかに行くと良いと思うよ」と言ってくれた。

 グッドマンを出て、私は熱いままの頬に雨粒を感じながら帰路についた。道すがら、コンクリートに滲むオイルの虹色を見つけては、リフを口ずさんでいた。

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