弱虫の行方

ある町のはずれに、小さな湖があった。町の人々は、よくその湖で釣りを楽しんでいた。湖には自由に使える小舟がたくさんつながれてあり、ほとんどの人は小舟を漕ぎだして湖のあちこちで釣り糸を垂らしていた。

この町の人々は平和に暮らしていて、それぞれ自分の時間を自由に楽しんでいた。

さて、この町には、一人だけ弱虫と呼ばれる男がいた。あからさまには呼ばれないが、町の人はたまに彼のことを話すときは弱虫と陰では言っている。

町の人は、楽しむために湖に行くが、この男は町がきらいで湖もきらい。町の人から特別いじめられているようなことはないのだが、勝手に町の人に嫌われていると思い込んでいる。それで町がいやで、町よりは湖の方がまだましだと思って湖に行く。

湖には町の人が楽しそうに釣りをしている。この男は釣りもできないから湖に来ても何もすることはない。一人寂しくしているだけだ。つまらない。生きる楽しみは何もないし、いつも一人で不平をぶつぶつとつぶやいている。

ある日、この男は生きるのもいやになって、湖に来た。いつものように数人の人たちが湖のそれぞれの場所で釣り糸を垂らしていた。

男は思った。「釣りなんか、まったくやる気にならないが、みんなが釣りを楽しんでいるから、ためしに僕もやってみるか。」

そう思って、釣りをしようとして、ふと気づいた。「あ、僕は釣り道具をいっさいもっていないのだった。」

男は、自分が釣り道具を一切もっていないことに気づいて、ますます不機嫌になった。その時、男はまたつぶやいた。

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