本屋に聞こえてきた食器の音

 モール反対派ということになっている僕が先日、近所のデパートに入っている本屋で本を物色していた.しばらく目ぼしい本がなくて帰ろうかなあと思った矢先、陶器かガラスだかの食器の音が聞こえてきた.配膳か下膳か、その時に鳴るあの硬く高い音だ.本屋の隣にあるオープンカフェからの音だった.初めて聞いた音ではもちろんなかったが、なぜかその時、豊かな気持ちになった.本を選んだ次はあのカフェで一服しようかしら、という選択肢を与えるから豊かに感じただけではないと思う.僕が本を選んでいて、あそこでは別の人が一服している、という感覚が豊かなんだろうか.(フィンランドで訪れたアアルトのアカデミア書店とアアルトカフェの関係も良かった.藤本先生が空港のフ―ドコートを好むのも共通するところがあるんではないでしょうか)毎週、大学の中庭に行くと思うが、看護学科棟の前のゆるいスロープと1Fレベルの講義室から漏れる講義と学生たちの勉強の風景の関係にも、近いものを感じて豊かになる.あれがスロープではなかったら、もっと別の印象になっていたはずだ.
 話は飛ぶが二股のV字路が好きだ.交差点に立つと、同時に二筋の街並みとその生活の様子が見えるあの地点.ありそうでなかなか出会えない光景だが、直接無関係の二筋の生活が、同時に一つのまちを構成しているあの感覚が好きだ.
 また話は飛ぶが、高校時代、自宅の自室よりも図書館で勉強する方が遥かに集中できた.読書する人や新聞を開く人、居眠りをする人が自分とは無関係にだが同時存在しているその状況が好きだった.

 複合する、「モールする?」ことの可能性は、ちゃんと考えなくちゃいけないと思い始めている.W

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