生八つ橋の養殖について

この記事は、怪文書アドベントカレンダー!!参加記事です。

 なんとフユキ3記事目……
 3記事で済んでるんですか!?マジで!??
 ……突発的に始めたというのにバランス良く大勢の方が楽しい記事をいっぱい書いてくださっていて、全方位に足を向けて寝られませんね!逆立ちして寝るか!
 既に過去に遡って記事を書く人、過去に遡りつつ6部の話と言いつつ5部だか3部だかの話をする人、タイトル詐欺(?)をする人などが散見されており、最高ですね。これだよこういうカオスが見たかったんだ。

 そういうわけで予定外に数少ない、希少で貴重なフユキ作記事になってしまいましたが、今回はその希少さにかけて、絶滅寸前の、生八つ橋のことについて語ろうと思います。よろしくお願いします。

生八つ橋とは?

 京都の特産品として有名な、二等辺三角形の形をした、甘いアイツです。 皆さんは、食品としてパッケージされた姿しか見たことないのではないでしょうか。 実はあれ、生き物なんですよ。

 結構誤解されがちなんですが、ああいう生き物がいるんです。水棲生物の一種ですね。ウミウシの仲間、つまり貝の仲間と考えられており、あの餡と思われがちな黒い部分はモツだか脳だかだったりします。
 水揚げした八つ橋に適切な防腐処置をしてパッケージングしたのが生八つ橋、腐りにくい皮だけを細く切って焼いたのが、硬八つ橋と言われてるやつです。
 野生の八つ橋は絶滅危惧種としてレッドリスト入りしていますが、養殖八つ橋のみ、食用が認められているわけですね。
 ややこしいので、今回は、生物としての八つ橋を「ヤツハシ」とカタカナ表記していこうと思います。

ヤツハシ養殖業

 思い起こせばウン年前、大学のタンバリン学部卒業前、実家に戻ってきたフユキはヤツハシ養殖場でバイトをしていたのです。
 ちょうど時間が空き、とはいえ就職を控えた1ヶ月2ヶ月で短期バイトを新たにやるのもなあと悩んでいた頃、昔からお世話になってる方に誘っていただいたんですね。 もともと生物や養殖業は専門外だったので、フユキのヤツハシについての知識はここで知ったものがメインとなります。
 大層なタイトルつけちゃったけど、要は若き時代のフユキの思い出話なので、そのつもりでライトにご覧いただければ幸いです。

 そういうわけでヤツハシ養殖です。
 ヤツハシにはさまざまな種類がありますが、私がお世話になっていた所では、キイロサンカクヤツハシとミドリヤツハシのみ扱っていました。商品としては、ニッキ味や抹茶味となるあいつらですね。
 ヤツハシは種類ごとに餌や性質などが全然違うため、一つの養殖場で何種類も扱う事はあまりないのだそうです。次々に新しい種類に手を出す養殖場などもあるそうですが、そういうところが上手くいくわけないと、お世話になった所のご主人はよく仰っていました。真偽はわかりません。

ヤツハシ養殖密着八時間

 養殖場の朝は早い。
 ……のですが、私の出勤はだいたい朝の八時~九時程度でした。遅めです。
 ヤツハシの養殖には綺麗な水が欠かせず、定期的に水替えを行います。水替えのある日は早めに出勤していた感じですね。ない日は、餌やりの始まる九時の出勤で良かったのです。
 ヤツハシは通常、川に住んでおり、藻を食べます。飼育下のヤツハシについては、配合飼料を使用することが多いらしく、私も配合飼料しか扱ったことがありません。
 朝一番、水替えのない日は餌やりから仕事が始まります。養殖場は、いくつかの水槽がマスのように四角く区切られており、そこに一定数ずつのヤツハシが飼われていました。そこに、月齢・年齢によって決まった量の配合飼料を入れます。これは魚の餌やりと似たような感じですね。粒状の餌をばさーっと。

 生まれて間もないヤツハシは、もちろん餌だって違います。こちらは更に細かい、粉末状の餌でした。実は中身は同じで、乾燥させた藻を混ぜたものらしいのですが、体の大きさに合わせたサイズでないと食べられないらしいんですよね。
 この粉末状の餌は、ちょっとしたことで飛んでしまうので、扱いが大変でした。一応、容器もふりかけの容器みたいになっていて、水面近くでふりかければ飛びにくいのですが、水面近くでやってると、たまーに容器ごと落とすことがあるんですよね。私も一度だけやって、ちょっと怒られました。
 状態に応じて栄養剤……氷砂糖などを与える事もあります。これは私が決める事はなく、社員さんに指示を貰ってその通りに与えていました。このマスは週一回だとか、このマスは多めに与えておいてだとか、指示も色々です。
 どうもヤツハシの体調や、生育状況によって細かく与えるものを分けてたらしいんですが、配合飼料と、普通の栄養剤以上のものは触らなかったので、よくわかりませんでした。この辺もっと詳しく聞いておけば良かったなあ。
 そうそう、一番楽しいのがこの栄養剤を与える作業でした。
 氷砂糖、食いつきが違うんですよね。入れた直後から、普段緩慢なヤツハシが一気に集まってくるので、これがとても面白いんですよね。取り合いに発展したりもするんですが、ヤツハシは同族同士で喧嘩することはない(取られたらそのままです。相手を襲ったりはしませんでした)ので、安心して見ていられました。

 ちなみに、ヤツハシ養殖は昔からある業種であるからか、養殖場によっていろいろなこだわりがあるそうです。餌についても例外ではなく、藻しか与えないとか、リンゴを与えているだとか、嘘か真か、ワインを与えている養殖場もあると聞きました。そういうところのヤツハシは本当に美味しいのか……。私には、ちょっと区別がつかないんですよね。違いの解る人がいたら教えてください。

 餌やりが済むと、掃除を兼ねたヤツハシの体調チェックです。藻はヤツハシの餌になるので取る必要はありません。(といっても、大抵の水槽では、ヤツハシ自体が食べてしまっているのですが……) 私の仕事は、風に乗って流れてくるホコリや葉っぱ、それからヤツハシの糞を、網で取り除く事でした。万一水の濁りがあれば、急いで水替えをする事もあります。
 ヤツハシについては、餌の食いつきや動きが悪いもの、色のおかしいものなどがいたら社員さんに報告します。変わった糞があったときも同じです。ヤツハシの糞は通常、黒~褐色の色をしたものが、水槽の内壁にへばりついています。この色が薄いものがあるとか、量が多すぎるとか少なすぎるとか、些細な事でも報告するよう言われていました。
 伝えた内容次第で、更にチェック項目が増えたり、他の水槽へのヤツハシの移動を指示される事もありました。これが本当に多かったです。掃除と言いつつも、ヤツハシ入りの魚籠を持ってウロウロしている時間の方が多い日もたくさんありました。

 掃除とヤツハシの体調チェックが終わる頃にはお昼になっているので、終わり次第、一時間の休憩です。休憩が明けると、今度は出荷作業が始まります。
 前日のうちに出荷する水槽が決められ、札がかけられているので、そこの中にいるヤツハシを専用のケースに入れて定位置まで運びます。私の仕事はこれだけでした。業者さんへ渡したり、出荷の処理など事務的なことは社員さんか所長さんか、その奥さん(この方がお世話になっていた人です)がします。
 そして、防腐処置だとか箱詰めなんかは、引き渡し先の業者さんがやってくれるので、養殖場の仕事もここまでだったみたいです。たまに、梱包して問屋に卸すまですべてやっているところもあるらしいですが、私がお世話になっていたのは小さな養殖場だったので、生きた状態のヤツハシを出荷しておしまいでした。
 キイロサンカクヤツハシとミドリヤツハシの寿命は約7~8年。ですが、食用として出荷されるのは、生後一年未満の、柔らかく甘いもののみです。生後一年を過ぎてしまうと、身が硬くなって甘みも少なくなり、美味しくないらしいんですね。 あと、何より食べにくい。
 ヤツハシは育てれば育てるほど大きくなるので、十年も育てれば、両掌を合わせたくらいの大きさになります。食べ応えだけはあるのですが、甘みより苦みが勝ってきて、美味しくない上に硬いです。苦いゴムみたいな味がします。 記録上は二十年ほど生きたヤツハシがいたそうですが、すごくまずかっただろうなと思います。
 全て運び終わって出荷作業が終われば、空になった水槽を綺麗にします。それからはちょっとした雑用。届いた飼料や栄養剤を運んだり、備品の数を確認したり、午後の清掃をしたり……。
 だいたい五時頃まで雑用をこなすと、私の勤務は終わりでした。
 この後も社員さんは、夜の餌やりとヤツハシの健康チェック等々、仕事がたくさんあったらしいです。これもやっぱり、もっと詳しく聞いておけばよかったなあ。

いかがでしたか?

 ヤツハシ養殖バイト、こんな感じでした。休憩がだいたい1時間(作業の進みによって増減がありました)、実働7時間。ちなみに時給は、当時で860円でしたね。ちょっと安めだったんですが、のんびりした働きぶりでも良かったので、知り合い価格という感じだったんだと思います。
 お昼ご飯奢ってもらえることもあったので、待遇としてはすごく良かったんじゃないかと思っています。(ちなみにデザートとして、市場に出せないヤツハシ……八つ橋がよく出ました) 

 この昨今の不景気で、ヤツハシ業界も大変と聞いています。もしこの話でヤツハシ養殖に興味を持つ方がいれば、そしてその人たちが、八つ橋を買ってくれたら……そう思ってなりません。
 今は通販でも買えますからね。おいしい八つ橋、ぜひ召し上がってくださいね。

ありがとうございました

 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
 明日は空定さんの記事!「付喪神から見る異形頭」という、ファンタジー味たっぷりのお話です。このような現実味の強い記事の後にファンタジー、ちょっと恥ずかしくなってしまいますが、すごくわくわくしますね!
 明日のアドベントカレンダーもお楽しみに!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?