人生初の経験

ある日のことである。ピンポンピンポンというチャイムで熟睡していた私は目が覚めた。宅配を頼んだ覚えもなく、また寝ようとすると、しつこくチャイムはなり続ける。

仕方なく私は起き上がり、部屋の受話器を取った。

「西中奏多をさがしてます。ここにいますか?」

若い男性の声だった。西中て誰やねん。もちろん西中奏多は仮名なのだが、たまたま我々の苗字は西岡(こちらも仮名)だったのだ。そういう人はいませんと答えたが相手は引き下がらない。時計を見たら4時台である。早朝にもほどがある。だんだん目が覚めてくると、これは異常事態ではないかと恐ろしくなってきた。

ルフィ事件が騒がれたころの話だった。こいつはなんとかしてドアを開けさせて我が家のなけなしの金品を奪うつもりなのではないか、なんて考えてしまった。運が悪いことに、夫は仕事でその日は不在。一人で何とかしなければ。手が震えてきた。スマホで録音しようとしたがなかなかうまくいかない。ドアまで行って録画しようと思ったが怖すぎて断念した。

「いや、中西奏多です」

苗字変わってるやん。私は震え上がった。こいつら強盗団や。

「あなたの名前は?どちら様ですか?」

恐怖でビビりながらも強めの口調で誰何した。向こうがひるんだような気配がした。

「いいです」

唐突に彼らがインターフォンを切った。どうしよう、警察に電話すべきか。110番でいいのだろうか。迷ったが、思い切って通報することにした。

おろおろしながらも先ほど起こったことを説明した。こちらの住所と氏名を伝えると、警官を向かわせるのでお待ちください、とのことだった。私は脱力した。しかし、警官はなかなか来ない。スマホが鳴った。近くの警察署だった。近所でそれらしき若者がいたので職務質問しているとのことだった。

その後警官が来て話を聞かれた。知り合いにものを貸したら連絡が取れなくなり、聞いていた住所に早朝にやってきたとのことだった。警官によれば、早朝に間違えたことを反省しているとのことだった。

通報先も、対応してくれた警察官も、とても丁寧に迅速に対応してくれたと思う。感謝している。まあまあの年月を生きてきたが、通報したのは初めてである。

それにしても奏多君(仮名)お前はマジで呪う。許さん。

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