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Nさんの定期便

僕が社会人となってすぐに配属された部署に、年をとったじいちゃんがいた。まあ、年を取っているからこそじいちゃんで、若かったらじいちゃんじゃないのだから、年取ったじいちゃんてのは無駄な表現なんだけれど、そこはなかったことにして話を進めよう。

じいちゃんは仮にNさんとする。
Nさんじいちゃんは地元の結構有名な企業のおエライさんだったらしく、数年前、民民の天下り的に僕のいる会社に入ってきたらしい。
色んなコネをもつ実力者だったので、社長が是非ともと招き入れたのだ。
社長室長みたいな役職だったろうか。顧問とか相談役とかがイメージされるような名誉職系の人だった。

社長室が有るフロアの、社長秘書の女性が二人いるデスクの島にいて、Nさんじいちゃんは人柄も良かったので、秘書の女性二人とも結構折り合いは良かった。決して嫌われているというようなこともなく、時に女性二人と談笑などしながら、のんびりと第二の会社人生を過ごしていた。
そんな日々を過ごすNさんじいちゃんは、毎日10時頃になると、ふっと席を立って執務室から出ていった。
席を立ち、ふらっとドアの方に向かい、ドアを開け、そしてドアの向こうに消えていく。
なんてことはない。Nさんじいちゃんの行先はトイレだ。毎朝出勤し、10時頃になるとふっと、行方をくらまし、トイレに行くのだ。
そして、それを見た秘書の女性二人は「ああ、Nさんの定期便(ていきべん)だわ」「10時だわ」と10時に気づくのだった。

僕は当初、全く何も気づいてなかった。
Nさんじいちゃんが席を立つのも、秘書さんたちが定期便(ていきべん)って言っているのも気づかなかったのだ。
けれどそれが何回も繰り返されるうち、果たして僕は、Nさんじいちゃんが10時あたりにトイレに向かい、そして秘書さんたちが定期便定期便(ていきべんていきべん)うふふ、とか囁いていることについに気づいてしまった。
そして、気づくまでは何も気づかなかった僕ではあるが、気づいて以来は、必ずそれに気づくようになってしまった。

僕はNさんじいちゃんが10時頃になるたび、日々トイレに向かう姿と、それを見ながら「定期便(ていきべん)」と笑っている秘書の女性たちの様子を見つつこう思ったものだった。
「ああ、毎日同じ時間に会社でうんこしていると、女子職員に、定期便(ていきべん)なんて言われちゃうんだなあ。気を付けよう」と。

と言うようなことがあり、僕は今、会社で午前中にうんこすることがちょくちょくあるけれど、なるべく9時とか10時とか11時とか、時間をチラして定期便(ていきべん)にならないように気を付けているのだ。
しかし、統計的には、うんこが10時頃になる確率は結構高いようにも感じている。
だからもしかしたら、執務室内の女子職員は10時頃に僕がトイレに向かうその姿を見ながら「あ、ファジーさんの定期便(ていきべん)だわ」なんて思っているかも知れない。

会社でうんこすること。あ、この表現語弊あり過ぎか?会社のトイレで、だ。
会社のトイレでうんこすること。そしてそれが決まった時間になること。
それは、定期便(ていきべん)の人というそしりをうけかねないことであることを僕たちは知っておかなければならない。

でも、それでも僕はこう言いたい。
会社でうんこして何が悪い!

この主張に、大勢の方からご賛同いただけたら嬉しく思う僕なのでした。

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