調査主体①業界団体 ~分析する際に注意すべき事項~

 多くの業界団体は会員社向けにアンケート調査等を実施し、業界の動向や市場規模に関するデータを提供している。上記データを利用する際は以下に注意している。

<注意するポイント>
・業界の定義(定義=範囲は一定ではない。同じ団体でも時勢を反映して定義を見直すこともある)※1
・会員社構成の偏り(大企業~中企業中心※2。影響力の大きい大企業が入会していないこともある)
・会員社の変動(新規加入/退会した企業によっては社数で見える以上の影響が発生する)※3
※1 定義は会員社構成の偏りにも影響を与える
※2 必ずしも悪いことではない。業界全体に占める小企業のボリューム次第
※3 ゆえに調査基準が変更されていないからといって安易に過去比較できない

<対処法>
⇒冊子などを購入すれば、大抵定義が記載されているので確認する
⇒回答社が公表されている場合はこれをチェックする。そうでなくても会員社名簿は大抵公表されているので、これをチェックする。ただし、全会員社が回答しているとは限らないので参考程度←ヒアリングするのがベスト
⇒官公庁のデータ※4を参考に、会員社のカバー率(=業界全体に占める割合)を推定する
※4 総務省・経済産業省「経済構造実態調査」に資本金規模別・売上高規模別・従業者規模別・事業従事者規模別の企業数が載っている

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 最後に、「調査の目的」も頭に入れておく必要があるだろう。例えば、次のような指摘がある。

「業界団体が統計を作成する主たる目的は,実情を調査することにより得られた結果を監督官庁に報告して,業界として有利な施策を提言する際の材料にすることである」(浅田 昭司,2012年,p.425)

 以下は私見になるが、市場規模が大きい、あるいは今後大きな成長を見込める業界は政府から支援を受けやすい。業界の重要性を嘘なく示すことが、業界(会員社)の利益になる。もちろん監督官庁も業界団体からの報告を鵜呑みにする訳ではないし、業界に身をおく人間なら大きすぎる/小さすぎる数字は分かるので乱暴な数字は発表できない。業界の業界の課題をあぶり出すことも会員社の利益になるから、業界団体としても、実情をできるだけ正確に反映したいと考えているはずだ。
 ただ、市場規模が「推計」されている場合は、方法論的な危うさも意識しなくてはならない。上場企業以外の詳細な決算資料を得ることは難しく、推計部分が大きくなる。調査者の知見に委ねられる部分が大きくなる。
 未熟な調査者としてはこうした推計にできる限り関わりたくないし、データの利用者としては、そこに「意図」が入らぬよう、第三者のチェックを強化してほしいと思う。

<引用文献>
・浅田 昭司(2012年9月)「統計情報活用への招待 第15回 業界団体の統計」『情報管理』55巻,6号,p.p.425-433