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土佐の旅 驚きと喜びの再会と決意

 関西の酒好き男女5人が酒呑みの本場・土佐で酒蔵と酒場を巡る旅。初日は山あいの「桂月」の蔵、土佐酒造を訪れ、夜は高知の街でこっこ亭珍々亭と桂月の銀杯(昔の二級酒)を出す店を巡り、〆は屋台安兵衛。ここの餃子が旨いのだ。「たっすいがはいかん!」のキリンビールとよく合う。いつも人気でこの日も行列ができている。私たちは「しゃーないやんな」と言いながら列の一番後ろについた。

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 すると前に並んでいたご夫婦がこちらを振り返った。その男性の顔を見て私は思わず「あっ」と声を漏らした。私がNHKで最後に所属した大阪放送局考査部の部長だった人。私が記者を外され、NHKを辞めた時の直属の上司だ。
「こんなところでお会いするとは奇遇ですねえ。私は仲間と高知の酒蔵と酒場を巡りに来たんですが、なぜここに?」
「いや~実は私、高知の出なんですよ。地元です」
「ああ、なるほど。だからここで副局長を…」
 彼は考査部長になる前、高知放送局の副局長を務めていた。考査部長を経て今はNHKを退職したという。
 私は転身先が固まるギリギリまで職場で退職の意思を表さなかった。私が「辞めます」と伝えた時、彼は「いずれそうするんじゃないかと思っていたよ。でもこんなに急に…」と苦笑していた。それから退職までの短期間に、局内の関係各方面への説明と事務手続きに追われたはずだ。
「あの時はご迷惑をおかけしました」
「いや、いいですよ。わかります。ご著書も買いましたよ。私のことがちょっぴり出ていましたね

『安倍官邸vs.NHK』書影(帯アリ)


 著書とは2年前に出した「安倍官邸vs.NHK」のこと。この本の冒頭に、私が退職時に大阪放送局の角局長と記念撮影をしたら、しばらく後に「あれはSNSにあげないように」という局長の意向が上司を通して伝えられた、という描写がある。その「上司」というのが彼のことだ。
Kのことも書かれていましたね
 Kというのは私の同期の記者。「安倍官邸vs.NHK」の中で、私とKともう一人が大阪上本町のほてい寿司本店の奥座敷で呑んでいた時、大阪府私学審議会の梶田会長から私の携帯に電話がかかってきて重大な事実を明かし、私がメモを取るのをKが助けてくれる場面がある。電話が終わるとKが「俺はお前がうらやましい」と涙する場面だ。Kの方がはるかに出世しているのに、そんなこと関係ないのだ。その後、Kは高知放送局長になる。その時に副局長だったのが目の前にいる彼だ。こうして人の縁はつながっている。
 それから順番が回ってきて、彼らと私たちは別々の席についた。彼は帰り際、私に「頑張って」と一声かけて去っていった。私はその言葉に温かな気持ちを感じた。
 こんな偶然ってあるだろうか? 記者はヒキの強さも大事だという。とすれば、これ以上に強いヒキがあるだろうか? 私はツイている。

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 ツキと言えば、こんなこともあった。この前日、私は仲間たちより一足先に高知に入り、地元・高知新聞社を訪れた。その夜は高知新聞の山岡正史編集局長をはじめ編集部の皆さんや記者たちと懇親会だ。その時、私の向かいに座ったO記者が、私がNHKで森友事件を取材していたころ極めて重視していた大阪の検事と親しいことがわかった。その検事は高知地検で勤務したことがあり、O記者はその時検察取材を担当していたそうだ。
 私は、その検事の高知時代の極めてプライベートな、ちょっとヤバいエピソードを披露した。するとO記者、「そうでした、そうでした。そんなことありました。思い出しました。懐かしいなあ。でも、そんな昔の高知で起きたこと、よく知ってますねえ」
ゴシップは取材の基本だから」とドヤ顔で語る私。でも、ほんとにそうだ。ゴシップは大事。ゴシップをつかめない記者は特ダネもつかめない。週刊文春は不倫ネタに強いから黒川マージャンのような記事も出せるのだろう…知らんけど。
 私はO記者からいろいろと追加情報も聞き出すことができた。これもツキだ。そして高知新聞にアツい記者たちが大勢いることも知った。彼らと知り合うことができたのもツキだろう。

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 奇しくもきょう11月15日は、土佐人が愛してやまない坂本龍馬が生まれた日。高知市内のアーケードには誕生を祝う垂れ幕がずらりと掲げられている。その画像を赤木雅子さんに送ったら「誕生日に亡くなってるんですね」と返事が来た。調べると本当に、旧暦で天保6年(1836年)11月15日に生まれ、慶応3年(1867年)11月15日に暗殺されている。私は知らなかった。赤木さんは財務省近畿財務局の公文書改ざんで命を絶った赤木俊夫さんの妻。多趣味だった俊夫さんと一緒に全国を旅していたから、いろいろなことを知っているのだろう。

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 赤木さんが今、求めているのは、夫・俊夫さんが亡くなった公文書改ざんの真相解明。再調査してほしいと国に求めているが、財務省も近畿財務局も安倍前首相麻生財務大臣も、今の菅首相も、みんな言うことは一緒。「調査は尽くした」「新事実はない」「再調査する考えはない
 政府が自ら明らかにすべきことだが、その気がないというならそれを調べるのが記者の仕事だ。私はヒキが強い。いけるかもしれない。真相解明できると信じてこれからもやってみよう。日の丸が翻る晴天の高知城にそんなことを誓った土佐の旅だった。

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