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あしおと

義実家の片付けをしていた夕方だった。公園で遊ぶ子等は帰り、通りをゆく人も居らず、走る車もいない時間があった。風も無かった。

一心に溝にハマった木片をかき出していたとき、ハラ…と聞こえた。ポトリ…とも、ハラ…とも言葉にするのが難しいとても優しい音だった。鳥が遊びにきたのかな?庭木を見たが何も来ていなかった。音の元を探した。

ハラ…

また聞こえた。今度は上の方から。上から音がするものといえば近くにあるイチョウの木しかない。葉は見事な黄金色に染まり、澄んだ空にとてもよく映えていた。7割ほどはもうすでに落ち、葉はまばらだったがとてもキレイだ。

と、見上げていたイチョウの木の、上の方からまた音がした。ハラリ…葉が一枚落ちるのが見えた。その葉が、下の枝の葉にぶつかってもう一枚落ちた。下の葉にぶつかった瞬間、ハラリ…聞こえた。これだ。葉同士がぶつかっていた音だった。二枚はクルクルとまわりながらアスファルトの道路に落ちた。ポトリ。ポトリ。落ちる前に更に上からハラリ…そしてポトリ。

ものすごく静かな音で、とても優しい音だった。感動した。


実家の東側の庭には土砂を積み上げて低いけれど山になっている。その斜面に、真冬には霜柱ができる。長さ10センチはあろうかというくらいの霜柱で、これが朝日で暖められ、そしてほんの少し風が吹いた時、すごく優しい音がして、運良くコレを聞いた事がある。ふぁさ…ふぁさ…。

自然の優しい静かな音は耳心地が良い。今はもうこの小山はなくなり芝生が拡がっているので霜柱の倒れる音を聞ける場所は無い。また聞きたいなあ思っていたが、まさかイチョウの葉が落ちる音が聞けるとは。落葉は寂しいイメージだが、何だかとてつもない多幸感に包まれた時間だった。

大げさだが、イチョウの葉の落ちる音が冬の足音なら、霜柱の倒れる音は春の足音なんだろうな。

冬来たりなば春遠からじ。

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