あの先生にブルースを
小学生の頃、乱暴者の昭和な先生が、いた。
何かにつけ手をあげるのだ。
ただ、みんなから嫌われていたかといえば、そうでもない。
勉強ができなかったり、多少、問題行動があるような子供達からはむしろ好かれていたのではないだろうか。
因みにオレはといえば、よく叩かれた事もあってか、まったくもって好きではなかった。
そんなある日、友人の家の前で仲間数人と遊んでいた時のことである。
その先生が物陰からひょっこりと顔を出した。
オレたち仲間は、「げっ!」といったふうに顔を見合わせた。
意外なことに、先生の方も、慌てたような顔で、バツが悪そうにしている。
小学生も高学年になっていたオレたちは理解した。
金を借りに来たのだと。
そう、友人の親父は、町で小さな金貸し業を営んでいたのだ。
先生は、一言も発することなく、来た道を戻っていった。
その時の先生の顔をやけにハッキリと憶えている。
大人の世界の理不尽さに触れたような気がした。
それ以来、オレはその先生を嫌いにはなれなくなった。もちろん好きではない。ただ、嫌いとは言えなくなってしまった。
その背後姿が悲しそうに見えて。
日陰からも、やっとすっかり雪が消えた、まだ肌寒い春の日のことだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?