デル旅 一日目 (デ)

ぼちぼち外出のリハビリをしようと、プチ旅行に出発いたしました。
ほんの近場ですが、今回は訳あって場所を書くのは控えようと思います。

繁華街の脇道をうろうろと徘徊しておりますと、妙に気になる看板を見つけました。「喫茶○○」…夜中でも本格的なコーヒーがいただける喫茶店のようです。
店名と最低限の情報を書いただけの非常にシンプルなデザインながら、フォントのデザイン、サイズ、間隔…すべてが妙に優美なのです。そこにはただならぬ世界観があり、気になって看板から離れられません。
物語の始まりを感じます。
この看板の世界観が体現されているお店ならば、とてつもなく素晴らしいに違いない。
突入です。

真っ黒な扉を恐る恐る開けてみると、そこはカウンターだけの小さなお店でした。コーヒーの香りと静かなジャズ、控えめなシャンデリア…カウンターの向こうには髪を撫でつけきちんとネクタイを締めたマスター。
店内はシンプル、シックでありながら、置いてあるものすべてに並々ならないこだわりと美意識を感じました。


大当たりです。あまりにも完璧です。
すっかり嬉しくなり、カフェオレを注文してみました。

見たこともないアナログな量りに豆を載せるところからスタートし、サイフォンを火にかけ、以降はもうなにをやっておられるのかよくわかりませんがとにかく「軽い気持ちでそんなに面倒なことをお願いしてごめんなさい」と言いたくなってしまうぐらい丁寧にコーヒーが淹れられます。
やっと完成したと思ったコーヒーは、ミルクとともにシェーカーに注がれ、
マスターの筋力を心配したくなってしまうぐらい激しく振り回されます。

完成したカフェオレには、もったりと優雅な泡の層ができておりました。
泡の弾力を楽しみながら、いただいてみます。
けっこうミルクの味が強めなのだなと思った次の瞬間、コーヒーのすっきりとした酸味が「おい、俺だ!」と叫びながら走り抜けてゆくのです。
驚きました。
間違いなく今回の旅のクライマックスはこの瞬間だと確信した次第でございます。

ゆっくりと丁寧に淹れられた美味しいコーヒーをゆっくりと丁寧にいただく、ただそれだけの贅沢な時間です。
気づけば現実を100%忘れてくつろいでおりました。
居合わせたほかのお客さんたちも静かにコーヒーを楽しむ人ばかりで、それがまた素晴らしい。
いつもうるさい人がいない場所を探すのに苦労しているのです。


わたしはこのお店を「わたしの心の秘密基地リスト」に追加し、辛いことがあったら必ずここに来ようと強く決意いたしました。
マスターにも「このお店には本当に好きだと思う人だけを連れてきます」と宣言して帰りました。


というわけで、そのお店を教えたいけど教えたくないのです。
とんでもなく素敵なお店を発見したことを自慢したい気持ちはあるのですが、誰でも彼でも行ってほしくないので、お店探しのヒントになりそうなことも意図的に書いておりません。
秘密基地ですから。

心の狭いわたしをどうかお許しください。

なお、マスターから「怖い体験談」も聞かせていただきましたので、それはまたどこかで。



デルタ雷鳥

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