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公演レポート:音楽劇『不思議な国のエロス』~アリストパネス「女の平和」より~

公演レポート

音楽劇『不思議な国のエロス』~アリストパネス「女の平和」より~が2月16日に東京・新国立劇場 小劇場にて開幕しました。

 本作はアリストパネスの代表作であるギリシャ喜劇「女の平和」をベースに、1965年に寺山修司が執筆した音楽劇で、執筆当時には上演されなかった幻の異色作です。演出は気鋭の若手演出家として活躍目覚ましい稲葉賀恵、音楽は世界で活躍するシンガー・演奏家の古川麦による全曲書き下ろしです。

 舞台上にはバリケードを彷彿とさせる積み上げられたパイプ椅子。
出演者たちは下着や肌着に近いようなシンプルな恰好で登場し、舞台上に点在して置かれていた衣装をそれぞれ身にまといます。衣装を着ることで「役」になる、それはつまり誰でも舞台上に登場する人物になりうるということ、決してこの物語は遠い昔の遠い国の物語ではない、あなたの物語でもある、というメッセージにも感じられます。

 俳優陣は若手からベテランまで、とにかくユニークで魅力的。
強さ、弱さ、可愛らしさ、醜さ、気高さ、愚かさ、と多層的な人間の本質を浮かび上がらせます。
 女たちのリーダー・ヘレネーを演じるのは松岡依都美。凛とした力強い佇まいと人々を包み込むような笑顔には、まさに女たちの先頭に立つ者の風格があります。
 愛しのアイアスと結ばれたいと願うクローエ役の花瀬琴音は恋する乙女の純真さを全身で表現して、浮き立つ心の鼓動がこちらにも伝わってきそうです。クローエに愛を捧げるアイアス役の渡邉蒼は若者らしい危ういほどのまっすぐさと美しい歌声が印象的です。

左:ヘレネ―(松岡依都美)
左より:アイアス(渡邉蒼)、クローエ(花瀬琴音)

 物語の案内人・ナルシス役の朝海ひかるはその柔軟な演技力であちこちの場面に神出鬼没、様々な表情を見せます。戯曲では「せむし男」となっているナルシスですが、稲葉賀恵の丁寧な解釈によって現代性も伴った意外な表現方法に注目です。
 ナルシスと共に物語を旅する質問好きな少女役の横溝菜帆はアリストパネスの「女の平和」と寺山の戯曲の世界観を現代に繋ぐハブの役割を担っています。無邪気に、そして時に大胆に行動する彼女の視点やセリフには思わずドキリとさせられます。

左より:ギター演奏・古川麦、ナルシス(朝海ひかる)
エコー(横溝菜帆)

 古川麦による楽曲は登場人物に繊細に寄り添って、その心情をよりビビッドに響かせます。コミカルなポップスあり、しっとりと聞かせるバラードあり、ハーモニーの美しい合唱あり、男女の対立を盛り上げるラップバトルあり、なんと演歌調の曲もあり、と様々なテイストの音楽が物語を彩ります。それらを見事に歌いこなす俳優陣、特にミュージカル俳優として活躍する面々の歌声は聞きごたえ十分です。

左より:ピタゴラス(富岡晃一郎)、デビトリブス(伊達暁)
中央:ペリクレース(原田優一)

 寺山が1965年に書いた本作は、今を生きる私たちにグサリと突き刺さるセリフが次々に飛び出してきます。まるで寺山が「60年程前にこういう戯曲を書いたけど、この舞台を見て現代を生きる君たちは何を思う?何を行動する?」と挑発しているようにも感じられます。

 演出の稲葉賀恵は、その寺山の挑発に真っ向から乗って、そのメッセージを稲葉らしい丁寧さとひたむきさで観客に届けています。「私はこの戯曲をこう解釈しましたけど、皆さんはどう受け取ってくれますか?」と問いかけてくるような演出の数々により、舞台が進めば進むほど物語の世界に引き込まれていきます。
終演後、観客の胸の中にはどのような思いが残るのか、ぜひ劇場まで足を運んで確かめてみてください。

中央:カミラス(内海啓貴)
左より:アイアス(渡邉蒼)、カミラス(内海啓貴)

(文章:久田絢子 撮影:友澤綾乃)

音楽劇『不思議な国のエロス』~アリストパネス「女の平和」より~ 
公演レポート、いかがでしたか?
現在、新国立劇場 小劇場にて絶賛上演中です。ぜひ劇場でご覧ください!

音楽劇『不思議な国のエロス』~アリストパネス「女の平和」より~
【東京】~2024年2月25日(日)
※上演時間 約2時間10分

https://ae-on.co.jp/fushiginaeros/

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