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3日目 歌舞伎町のホストクラブ 3時間8000円皿洗いバイトの実態 後編

法律上問題ないとわかったのに僕はもうそのホストクラブで働く気分になれませんでした。いや、いいいい...なんか、いいわ...もう。と思いました。この気持ちに関して、上手く説明できません。

自分でも意味がわからない現象だと思います。問題は法律上の一点だけだったはずですから、そこがクリアされたのであれば、じゃあ続けようとなるはずです。しかし僕はもう一切そこで働く気分に戻れませんでした。

なんというか、僕はもう辞める気持ちを固めてしまったので、今さらそれを戻せと言われても...という感じといいますか、食べ物に関する会話で「もうカレーの口になってる」といった、「◯◯の口」という表現がありますが、その表現を借りるならば、僕はもう「辞める口」になってしまった訳です。さらに言えば「倉庫の口」にもなっていました。

やはり、3時間8000円なんて浮世離れしたバイトにはグレーという裏があった。そう思ったら倉庫での日雇いが対照的にとてもクリーンに感じられました。やはり人間、汗水流して働かなくちゃあ。倉庫、倉庫。ホストクラブなんて柄じゃない。俺には倉庫で冷凍チキンがお似合いだよ、といった不器用だけど一本筋の通った真面目な男みたいなモードになってしまいました。

支配人からの説明を受ける前に自分の中で出来上がってしまったホストクラブはグレー、倉庫はクリーンという図式が説明を受けた後でも強く残ってしまったのかもしれません。

とにかく、もうホストクラブは辞めたい。僕は丁寧に違法ではないと説明してくれた支配人に、それでも辞めたいと伝えました。以下の画像が、実際に僕が支配人に送ったラインになります。

僕が倉庫でもう一度頑張るというのは支配人には一切関係のない話なのですが、この日もシフトに入っていたのに突然辞めるというモラルを欠いた行いを許してもらうには誠実な姿勢で臨まなくてはと思い、倉庫への熱い気持ちを織り混ぜたのですが、結果意味のわからないラインになってしまいました。

支配人からは、意味もわからないし呆れてしまったのだと思うのですが、まあ、無理には引き止めないけど、もったいないですよねなんか。というような返信がありました。

さらに続けて、誰に何を言われたかわからないけど、うちは実績もあるし会社としてきちんと法律を遵守してやってるから変な風に誤解されたくありません。といったような、憤りを感じさせる返信もありました。

上に立つ人間としてきちんとやっているし結果も出している自負があるからこそ抱く、正当な怒りの感情だと思いました。やはりこのホストクラブはちゃんとしているんだと思いました。

とにかく僕には謝る事しか出来ませんでした。最終的には、気が変わったらまた来て下さいと言ってくれました。

他にラインを交換していたIさんYさんNさんにも、辞めるという旨を伝えて謝罪するラインを送りました。返信を読みたくなかったので送ってすぐ申し訳無いのですがブロックしてしまいました。念のため支配人のラインだけブロックせずに残しておきました。

モラルはかなり欠いてしまいましたが、何とか、飛ぶという最低の辞め方をせずに辞める事が出来ました。グレーの問題は全て解決しました。クリーンだとわかった時点で既に解決していたのですが、それでも辞めるという完全に無駄な根こそぎで条件の良すぎるバイト先を失い、僕はクリーンである事以外何も解決していない状態になりました。

僕が体験した事は以上になります。3時間8000円の皿洗い(正確にはグラスと灰皿洗いですね)というとてつもない条件のバイトの実態は、少々の違いはあれどほとんど最初に聞いた通りの条件で実在しました。さらに、しっかりした会社なので法律上も何の問題もないバイトでした。

このnoteに書いた経緯を相方を始めとした芸人仲間などには既に話したのですが、もったいない、何故やめたのか、という意見が多かったです。このnoteを読んでいる方の中にももしかしたら途中から僕の感情や行動の意味がわからなくなってしまった方も多くいるかもしれません。

正直なところ、僕にもよくわかりません。このホストクラブの件に限らず、僕は自分の感情や行動の流れが自分でも理解出来ないという事が多くある気がします。

自分の感情や行動の流れの全てを他者に論理的に完璧に説明できるような、100%自分の事を理解している人がいるとは思いませんし、誰しも今回の僕のような自分でも理解出来ない部分が存在すると思いますが、僕のその部分や発生頻度は平均よりも多いような気がします。

少なくともこのホストクラブの件に関して言えば、クリーンだとわかってから辞めるのは意味がわからないと自分でも思います。

なので、少し深くこの件について自分と向き合って考えてみました。すると、クリーンだとわかったのに辞めたくなったのには僕の潜在的な意識の中に理由が隠されているかもしれないということが見えてきました。

ホストクラブに入った時にホストクラブの空気に呑まれて泣きそうになったと書きましたが、実はそこからもう僕が辞めるのは決まっていた事なのかもしれないと思いました。

入った瞬間から僕は、あ、違う違う違う...これは駄目だ...と思いました。それが泣きそうになるという感情に繋がっていくのですが、要は本能的に自分に「合わない」と思ってしまったのです。

支配人もIさんも、YさんもNさんも、ホストの方達も皆良い人達だったという事に変わりありませんが、この合う合わないと良い人かどうかはあまり関係ありません。仕事の目まぐるしさや目新しさで紛れてはいましたし、キッチンでは落ち着いて来たといったような事を書いたと思うのですが、正直なところホストクラブという場所は程度の差はあれど終始僕に「合わない」状態であり続けました。

しかし、この合わないという点を除けばこのホストクラブで働かない理由はほとんどありませんでした。条件がとてつもなく良いですし、ホストクラブで働けば面白い体験が得られるかもしれません。

ホストクラブで働く事のメリットが絶対的に揃っているのに対し、合わないという理由はあまりに貧弱でした。合わないとしても、週に何度か3時間半我慢すればいいだけなのです。

なので僕はこの合わないという感情を意識の底深くに圧倒的メリットの重みで沈みこませたのです。僕は自分に心の底からこのホストクラブで働きたいと思っていると思わせる事に成功したのです。

しかし翌日、グレーという問題が立ち上がった事で、沈めたはずの「合わない」が再び浮かび上がって来たのです。グレーと「合わない」が結びついて、辞める理由として強い力を持ち始めました。

グレーだから辞めた方がいいと思った事で「合わない」自体も強く大きくなりました。やっぱり全然合わなかったもんな。いい人達だったけどノリはかなりキツかったもんな。思い返すことで「合わない」はどんどん膨れ上がって行きました。

支配人の説明を受けてグレーは消えましたが「合わない」は消えませんでした。もう沈み込ませられないほど僕の中で「合わない」は肥大化していました。グレーじゃなかったとしても戻りたくないほどになっていたのです。そういう訳で僕はいや、いいわ...となって辞めることを決めたのだと思います。

この自己分析がどこまで正しいのかわかりませんが、合わないという気持ちは確実に僕の心に存在していました。バイトを続けていけば合わないという気持ちが合うに変わったのかもしれませんし、合わないけれど意外と続けられるとなったかもしれませんがそれは今となってはわかりません。

要は僕は合わないという理由で1日で尻尾を巻いて逃げ出してしまったのです。とてつもない条件の良いバイト先で生活を立て直しながら面白い体験も沢山得られたかもしれなかった未来を捨てて。

このnoteを読んで、僕がこの先ホストクラブでどんな体験をしていくのか楽しみにしてくださっていた方がもしいたとしたら申し訳ないのですが、ホストクラブの話はここで終わりとなります。

ひとまず僕は倉庫に戻ります。ホストクラブでの体験は歌舞伎町で見た一晩の夢として、倉庫での日雇いを続けます。子どもプールの監視員のバイトが終わったので、倉庫に入れる頻度は増えるかもしれません。今回の教訓はこちらです。

「とてつもなく良い条件の日雇いは実在するが、合わなくて辞める事もある」

前中後編と長くなりましたが、お付き合いありがとうございました。次回も是非お楽しみ下さい。

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