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6日目 平和島の冷蔵倉庫 笑いの生まれた夜

皆さんこんにちは。前回は、奇跡が2度起こらなかったという記事を書きましたが、また倉庫の夜勤に行ったので、その記事を投稿します。

前回奇跡が2度起きなかったのは4日の夜の事でした。2日後の6日は日中予定があるだけで夜は空いていたのでまた夜勤で入ることにしました。

10:00に電話をかけるとあっさり入れました。受付の男性は名前を告げると「ああ、古川さんね」と言っていました。今週入るのはこれで3回目なので、向こうも名前を覚えてくれたようです。

また18:00に事務所に行き、交通費をもらい、いつもの平和島の冷蔵倉庫に向かいます。いつもの。平和島の冷蔵倉庫が僕にとって「いつもの」冷蔵倉庫になりつつあるのです。

平和島に到着して、夕食を取ります。毎度毎度何故平和島に着く前に夕食を済ませないかというと、この時間に夕食を食べる事が既に僕の中でルーティーンとなってしまっているからです。今日はこの間行った鶴見家で醤油ラーメンとライスを頼みました。

前回の塩ラーメンから味は変えたとはいえ、ラーメンとライスという組み合わせは最初にこの冷蔵倉庫に来た時から変わっていません。夜勤に関わる全てが僕にとって「いつもの」になりつつあるのです。

いつものように橋を渡って平和島へ。今日も写りは悪いですが橋の途中の階段を降りる所から写真を撮ってみました。

今までこのnoteで紹介してきませんでしたが、倉庫街に入って左を向くと遠くにBIG FUNという複合型の商業施設が見えます。暗い倉庫街の中で比較的カラフルな輝きを放つBIG FUNは何だかラスベガスのように見えてきます。

しかしもちろんラスベガスほど大きくも無ければ明かりの量も少ないので、最果てのラスベガスといいますか、終末後の世界のラスベガスの残骸といいますか、とにかくそんな雰囲気があり、夜の倉庫街自体が不気味という事もあってBIG FUNを見ていると寂しく怖い気持ちになってきます。

冷蔵倉庫へ到着して受付で待っていました。他の日雇いが誰も来ませんでした。あれ?と思っていると管理者の方が来て、僕だけの点呼を取ってロッカールームへ案内されました。この日の日雇いは僕1人だけのようでした。僕は不安になりました。

基本的に日雇いは同じ作業を与えられて1つのチームとして動く事が多く、その仲間達が今日は誰もおらず1人でレギュラーの人達の中に混じる事になります。それが不安でした。

レギュラーの中には厳しい人もごく僅かですがいて、日雇いの仕事にミスなどがあった際「違うって!」「何やってんだよ!!」と叱責される事があります。

チームとしてのミスなら、チーム全体が叱責を受けるので叱責を受ける事による個人のダメージは分散します。また、自分よりも先輩の熟練の日雇いの人がいれば僕はその人にならい全く同じ作業をするので、個人のミスがあるとしたらその発生源は熟練の日雇いの人になります。そういった場合の叱責はその人に向くので、僕はとりあえず神妙な顔だけ作っておけば良いのですが、今日は叱責があれば僕1人で直で受け止めなくてはいけません。

この日はコンテナ作業は全く無いようで、倉庫内に入ってまず与えられた作業は積み替え作業でした。残業している日勤の日雇いの人の手伝いという形で行う事となりました。この積み替えはややこしいので図で説明します。

図1のように、段ボールが大量に積まれたパレットが持ち場に何個もあって、それを何枚かの空のパレットの上に積み替えていきます。

どう積み替えていくかというと、図2のように「横浜 30」「埼玉 40」等と書かれた紙が何枚も渡されるのですが、それにしたがって分けて行きます。数字は段ボールの数の事です。例えば空のパレットに30個積んだら、そこに「横浜 30」の紙を張ります。要は大量の段ボールを出荷する場所に出荷する数だけ分けて積み替える作業になります。

積み方にも決まりがあって、この日言われた積み方は上から見た図3のように1段に9個の段ボールを並べる積み方になります。段ボールのラベルを必ず外側に向けて1段毎に互い違いにジェンガのように積んでいきます。

少しややこしい話になるのですが、例えば「横浜 30」で30個積むとしたら9個ずつ積んでいくと3段積んだところで3つ段ボールが余る事になります。このパレットの上に別のパレットを積む場合もあるので、一番上も土台として安定させなくてはいけません。なのでその場合図4のように、3段目から1つ段ボールを抜いて、4段目を余った段ボール3つ+3段目から抜いた段ボール1つの4つの段ボールで土台として安定させるように組みます。積み替え作業にはこのように若干パズルのような要素があります。

日勤の日雇いの男性に作業内容を教わり、後はそれぞれ黙々と積み替えていきます。積み荷は12㎏の冷凍チキンでした。冷蔵倉庫で冷凍の積み荷も扱っているのは珍しく感じましたが、そこら辺の事はまだ僕にはよくわかりません。

霜のはった、煉瓦ブロックのように硬い冷凍チキンがぶつかるカコン、カコンという音を響かせながら黙々と作業をしていきました。それほどきつくはないですが、少し汗をかいてきました。

1時間と少したった頃この作業は終わり、日勤の日雇いの人は帰り、僕は別の作業を与えられる事になりました。

これも同じような積み替えなのですが、前回もやった、レギュラーの人がフォークリフトで運んでくる段ボールの積まれたパレットを別の空のパレットに移すという作業でした。

この作業はフォークリフト1人に対して積み替える人間が僕を含めて3人で行われる事になりました。他の人はレギュラーだと思うのですが、僕と一緒に積み替える2人はレギュラーだけど日雇いに近い立場という雰囲気がなんとなくしました。

フォークリフトを操作する人は前回も一緒になった「もう積み替えるやつないな...」と言っていた若い男性でした。この男性も僕と一緒に積み替える2人も厳しくはなく良い人達でした。

しばらくこの体制で積み替えをした後は、シールを分別したり、シールを段ボールに貼ったり、空の台車を戻したりという細々とした作業が僕単体に与えられました。これらの作業を僕に与えたのは立場が先ほどのレギュラーの人達よりも高く厳しい人で、台車を戻す場所を間違えた際に叱責を受けました。

業務開始をしてからここまで小休憩を挟まずに作業が行われていましたが、レギュラーの人達のしている作業の方が一段落したようで1時間の休憩に入りました。0:00過ぎぐらいだったと思います。

前々回終電前に僕達を帰してくれた人が今日の僕の点呼を取ったのですが、その人から「今日はまあ作業内容的に前回みたいな事はありません」とはっきり言われたので、終電で帰れるという期待はこの日は最初から捨てていました。

外の休憩所でぼんやり座っていると、先ほどの積み替えで一緒だったフォークリフトを運転していた若い男性が近くに座り「昼はなんか別の仕事してんの?」と話しかけて来ました。

この現場でそのように他愛なく話しかけられる事も話しかける事もなかったので意外には感じましたが、レギュラーの人達同士は談笑していますし、自然な事ではありました。

別の仕事...。僕は倉庫において、黙々と作業する1体のマシーンでいたかったので必要以上に皆の興味を引く可能性のある話題を提供したくありませんでした。なので芸人であることは言わず、漫画喫茶でバイトしているという1つ前のバイトを嘘として使いました。

その若い男性は気さくな方で色々と話しかけてくれて、嘘こそついてしまいましたが、この現場ではほとんどしてこなかった人間同士の温かなコミュニケーションで時間が過ぎていきました。

その人は見た目が若く僕より年下だと思っていたのですが、僕より3つ上の32歳という事がわかって驚きました。顔立ちの整った気のいいあんちゃんという感じでした。

僕の下の名前がその人の弟と同じ名前だったようで、漢字を聞かれました。僕の下の名前は彰悟で、悟という字は「悟る」で説明できますが、彰という字を説明するのが少し面倒で「表彰の彰」や「本の一章二章の章にさんづくりを足す」などと今までの人生で色々試して来ましたがあまり自分の中でしっくりくるものはありませんでした。

ここ最近で「麻原彰晃の彰」がもしかしたら1番分かりやすいかもしれないと発見したので、ここでも何も意図せず「彰は麻原彰晃の彰です」と説明したら「それあんまり言わない方がいいよ!」と笑っていました。それほど分かりやすくもなかったようでした。

一緒に積み替えていた2人の人も、離れた所に座っていたレギュラーの人も笑っていました。自分では意図していない笑い、麻原彰晃という使うべきではないワードの使用、という芸人としての反省点はありますが、この現場で他愛ない話をして笑い合うという時間が生まれたのは嬉しかったです。

休憩を終えた後は、大量の台車を運んだり、ラップを巻いたり、細々としたいくつかの作業を与えられ、それをこなしました。その後ゴミを集めをするように言われました。

倉庫中のゴミを集めて、拾って、まとめてゴミ捨て場に捨てるという作業は広い倉庫において、何人かで手分けしても30分近くはかかります。今回はそれを1人でこなさなくてはいけないので1時間近くかかったかもしれません。

そのようにしてなんだかんだで時間は過ぎて、4時になって、上がっていいと言われたので給料を頂いて帰りました。先ほどの若い男性達は別の持ち場で作業していたので、挨拶していこうかと思ったのですが、なんとなくやめておきました。

この日はコンテナはなく、積み替えが多少筋肉を使う作業だったのですが、それほどきつくありませんでした。日雇い1人で叱責を直に受ける場面は何回かありましたが、基本的にはレギュラーの人達は良い人ばかりでしたし、僕自身もここでの作業に慣れてきたので特に問題はありませんでした。本日の教訓はこちらになります。

「休憩中に聞かれた名前の字の説明で死刑囚の名前を使用すると笑いが起きる」

お付き合いありがとうございました。次回も是非お楽しみ下さい。

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