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8日目 平和島の冷凍倉庫 日勤コンテナが見せた地獄 “俺は非力だ“ 前編

皆さんこんにちは。前回はシフトから逃げる為の自転車を下さいという記事を書きましたが、今回は久しぶりに日勤の日雇いに行って来ましたので、その記事を書きたいと思います。

日勤の日雇いに行くのは日雇い生活初日以来で、自分のnoteを見返してみるとそれは8/9の事でした。実に1ヶ月以上ぶりということになります。

日勤は残業があることも考えると丸1日空いていないと入れないので、僕の生活上夜勤よりも入れる日数は少なく、丸1日空いていたとしても、土日であったり、ありつけなかったり、当日にその日が丸1日空くとわかったりして中々日勤に入れませんでした。

また、夜勤に入った次の日丸1日休みだとしてもそのままぶっ続けで日勤に入るという事は体力的にもシステム的にも出来ません。僕は夜勤に入る事が多かったのでそれも日勤から遠ざかっていた理由になります。

昨日17日火曜日は丸1日休みという事が前日にはもうわかっていたので、前日に日勤に応募しました。給料の高い夜勤の方に入るという選択肢もあったのですが、この日勤を見送って夜勤に応募して仕事にありつけないという状況を避ける為にまずは日勤に応募したのです。

また、いつだったか夜勤の作業中に熟練の日雇いの方とポツポツ話す機会があったのですが、その時に「日勤は残業があれば夜勤より稼げる」と聞きました。

17:30終業と決まってはいますが、もし作業が残っていた場合、残れる人には残業が課され、その残業代が日給に上乗せされて1万越える場合も多いとの事でした。

日勤の日給は350円の弁当を注文した場合天引きされて7650円です。残業代は受付用紙に説明文として書いてあったのですが、確か1時間1250円でした。2時間残業すれば1万を越えます。夜勤よりも高い日給をもらえる可能性もあるという点も日勤応募の後押しとなりました。

また、僕は前々回の記事で書いたように、コンテナ作業のほとんど無い夜勤に少々退屈してしまっていたので、久々のコンテナ作業で汗を流す事が少し楽しみでもありました。

7:15に事務所に集合して受付をして待合室で名前を呼ばれるまで待ちました。受付では今日残業は大丈夫ですか?と聞かれたので、大丈夫ですと答えました。

名前を呼ばれて指定されたハイエースに乗りました。既に何人か乗っていました。その内の2人は初日に一緒だった人達でした。初日にもその2人とは少しだけ話しましたが、初日に僕に色々と教えてくれて、親しく話しかけてくれたAさんが中心となった会話でしたし、1ヶ月ぶりだったのではっきりと僕を覚えているようでもなく、見たことは無いけれども明らかにその2人と同じ常連であろう人と談笑していました。Aさんはこの日はいませんでした。

ハイエースに揺られながら、その常連2人と同じということは行き先は前と同じ平和島の冷凍倉庫だろうと思っていると案の定初日と同じ平和島の冷凍倉庫に到着しました。

ロッカールームに行き、作業着に着替え、倉庫内に集まって朝礼が始まりました。この日の日雇いは僕を含めて7人でした。他の日雇いは皆この倉庫の常連のようでした。

管理者の方から今日はコンテナ7本と告げられました。前回は3本。倍以上あります。しかし、前回は5人と人数は2人少なかったですし、なおかつ3本という本数はかなり少なかったようで終業時間よりも2時間ほど早くコンテナ作業は終わっていました。

僕は倉庫での日雇いに慣れてきたし筋肉もついてきたであろうという自信から、残業はむしろしたいからコンテナは別に多くて構わないとこの時は思っていました。なので、そのコンテナの本数に特にネガティブな感情は抱きませんでした。業務開始時刻となりました。

初日の配置の図を使ってこの日の1本目のコンテナの配置の説明をします。僕はこの日も僕の位置で、コンテナから段ボールをコンベアへ荷下ろししていきます。この日の1本目は図のBCDの辺りにさらにプラス2人入ります。

7人もいて、コンテナの数も多い時は通常二手に別れて2本同時に作業を行っていくようです。しかし、この1本目の積み荷は一種類なのですが仕分け方が複雑な為、流しが僕ともう1人、仕分けがその他の5人というフルメンバーで行うこととなりました。

1本目の積み荷はアメリカの冷凍チキン12㎏でした。この積み荷は少し特殊で、通常の段ボールに結束バンドが両端に巻かれているタイプのものとは異なり、段ボール1つ1つにビニールがコーティングされていました。コンテナ作業でそのような積み荷には初めて遭遇しました。

しかし、その時の僕にはその違いは特に気になりませんでした。12㎏、ウォーミングアップにはちょうど良いかなと思っていました。作業が始まりました。

荷下ろしを開始してすぐに、僕はある異変に気付きました。積み荷がツルツルと滑り、非常に掴みづらいのです。原因ははっきりしています。段ボール1つ1つにコーティングされたビニールです。表面に霜がはったビニールが滑りやすく、掴みづらいのです。

僕は日雇いを始めてからずっとこの少し良い軍手、ライトグリップを使用しています。ライトグリップはグリップの効きがとても良いです。しかし、そのライトグリップのグリップすら効かないほどに、このビニールは滑りやすかったのです。

思わぬ問題に直面して、僕は僕が思っていたよりも遅いスピードで作業をする事になってしまいました。出鼻を挫かれた気持ちになりました。

一緒に荷下ろしをしているAさん(初日のAさんとは別人ですがこの日のAの位置なのでAさんとします)は、50代くらいの175センチ程の男性でした。体格が良く、常連らしいスムーズな動きで荷下ろしをしていきました。

しかし、僕よりもほんのわずかに荷下ろしが進んでいるかなというぐらいで、まだ気になる程作業スピードの差は出ていません。

このAさんや他の常連の人達ほどではないにせよ、僕だってコンテナの作業には多少慣れているつもりでした。ビニールで滑ったとしても、これぐらいのコンテナはウォーミングアップ程度に空にできると思っていました。

しかし、作業を少し続けていくうちに僕はビニールの滑りとはまた別の、とんでもない異変に気付いてしまいました。

「あれ...?俺、バテてきてない...?」

僕は激しく狼狽してしまいました。僕は日雇い生活で筋力体力共に強化されたはずです。こんな1本目のコンテナの半分も来てないようなところでバテるはずがありません。

しかし、事実、僕はバテ始めていました。息が切れ、筋肉も痛み始めました。僕はその事実を認めたくありませんでした。日雇い生活を通じて自分が肉体的に強くなっているという自負がありました。この日の初日と同じ日勤でのコンテナ作業はあの日から自分がどれほど成長したかの確認作業になると思っていました。

この現状からは「いうほど成長していない」という確認結果が出てしまいます。疲れ始めたのは初日よりは進んだところですし、その疲れ具合も多少初日よりはマシかもしれませんが、僕の想定していた成長よりは遥か下のレベルの成長になってしまいます。

僕は「嘘だ...」と思いました。混乱してしまいました。しかしながら思い返せば初日以降はずっと夜勤に入っていた訳で、それも頻繁ではありませんでしたし最近はコンテナ作業自体行っていませんでした。

夜勤でコンテナをした際に割りと楽に空に出来た日があったと記事で書いた気がしますが、それ自体も結構前の事ですし、それからまた筋肉が落ちてしまったのかもしれません。積み替え作業は一応夜勤でも行っていましたが、コンテナより肉体的には楽でした。

僕は夜勤の日雇いという日勤より肉体的に楽な環境にいながら、倉庫の空気に慣れただけの状況から自分が肉体的に成長したと錯覚してしまっていただけなのかもしれません。

いや、このツルツルのビニールのせいだ。僕は思いました。この滑りやすくて掴みづらいビニールを掴む為の労力が積み重なって、スタミナを大きく削っているのではないか。確かにこのツルツルのビニールはかなり煩わしかったです。

しかし、僕は自分がこのようなツルツルのビニールに左右される程度のスタミナしか持ち合わせていないとは思っていなかったので、結局のところそれは言い訳に過ぎません。僕は、自分がもっと頼もしいスタミナの持ち主になっていると思っていました。そうではなかったのです。

そんなはずは...そんなはずはない...。僕は中々その事実を認められず、しかし確実にバテていきました。Aさんとの作業スピードにも明確な開きが出始めました。ヤバいヤバい。僕は焦りました。

僕は手に持っていた段ボールを滑りと筋肉の疲労からコンベアの上ではなく床に落としてしまいました。拾ってコンベアに乗せようとしてまた地面に落としてしまいました。「ガコンッ!ガコンッ!」という、床に段ボールが落ちる音が2回コンテナ内に響きました。

「俺は...非力だ...」

床に段ボールを2回落とした事が決定打となりました。僕の自信はそこで完全に粉々に砕け散りました。僕はそこからは「許してください。すみませんでした。」と頭の中で繰り返しながら必死で作業を続けました。

誰に対して謝っているのか自分でもわかりませんでした。しかし、勝手に成長したつもりになって、夜勤が退屈だからまた日勤でコンテナがしたいなどと調子に乗った事を考えて、noteにもこれ見よがしに書いていた自分がとにかく情けなかったのです。ひたすら頭の中で謝りました。

こんなに非力なのに、調子に乗ってすみませんでした。許してください。勘弁して下さい。2度と夜勤が退屈などと言いません。コンテナをしたいなどと言いません。こんなに非力なのに、すみませんでした。こんなに非力で、すみませんでした。

バテている上に精神的にも参ってしまい、僕はもうボロボロでした。少し気を緩めれば涙がこぼれてしまうかもしれない状態でした。何とか、何とか、作業を続けていきました。

Aさんは時折僕に「滑るねえこれ」「明日も入ってんの?」などと他愛なく話しかけてくれる、朴訥とした良い人で、そこは唯一の救いでした。Aさんのような常連でも滑りに困っているのかと思うと少しだけ気が楽になりました。

そうしてようやく、ビニールの巻かれた段ボールのコンテナを空にしました。僕は汗だくで、疲れきっていました。初日と何も変わっていないように思えました。僕のプライドは粉々になっていたので、もう自分が成長していようがいまいがどうでも良くなっていました。ただ、今日の業務を無事にやりおおせればそれでいい。そう思いました。しかし、僕には更なる地獄が待ち受けていたのです。

後編へ続きます。

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