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11日目 平和島の冷凍倉庫 新ポジション「ボタン」

皆さんこんにちは。前回は吉野原の日勤は楽だったという記事を書きました。今回また日勤に行ってまいりましたのでその記事を書きたいと思います。前回の更新からかなり日が空いてしまいました。新たに始めたウーバーイーツのバイトで、自転車を漕ぐ事に追われているうちに、いつの間にかnoteを書くという習慣から遠退いてしまっていました。申し訳ありません。

前回吉野原の日勤に行ったのは先々週の水曜日の事でした。その翌日の木曜日は夜空いていたので夜勤に入る事にしました。木曜日の10:00に電話をかけて夜勤に入りたいという旨を告げると、既に人員が埋まってしまったと言われてしまいました。

翌日金曜日は丸一日空いていました。日勤か...と思っていたら向こうの方から「明日の日勤ならば空いてるのですがどうでしょうか?」と言われたので再び勢いで行けますと伝え、金曜日に日勤に入る事となりました。

翌朝6:15に起きて身支度をして事務所に向かいました。前回と同じ楽な吉野原の現場が良かったのですが、そううまくも行かないだろうと思っていました。

事務所のすぐ近くまで来た時、前回吉野原まで僕らを引率して一緒に作業をしたレギュラーの人と3人の日雇い初心者とおぼしき人達の集団とすれ違いました。レギュラーの人は3人に「これから現場まで電車で向かうので...」と話していました。今日の吉野原のメンバーであることは明白でした。この時点でこの日の僕の吉野原行きの夢は断たれた事となります。憂鬱な気持ちで受付を済まし、待合室で名前を呼ばれるのを待ちました。

名前を呼ばれて指定されたハイエースに乗り込むと、中にいたのは平和島で一緒だった人達でした。平和島か...。僕はもう腹をくくるしかありませんでした。コンテナ地獄、平和島に再び足を踏み入れる事となりました。

ハイエースは平和島の冷凍倉庫に到着しました。ロッカールームで着替えて、倉庫内に入り、朝礼が始まりました。

この日の日雇いは僕を含めて7人でした。ほとんど前回と同じメンバーでした。今日のコンテナは8本と告げられました。前回より1本多かったです。もうあまり何も考えないようにしました。

作業が開始しました。最初は7人で1本のコンテナをコンベアで荷下ろしする「流し」をしました。図を貼っておきます。

ここで、意外な事が起こりました。僕はてっきりいつものように図の僕の位置で流すのかと思っていたのですが、「ボタン」というポジションを指示されました。それは図でいうAの少し右に位置するポジションでした。

「ボタン」に与えられた作業は、名前通りコンベアの脇についている何個かのボタンを押してコンベアの起動、停止、上昇、下降をするというものでした。

基本的に流しを開始する時は起動、ワンパレット分流しが済んだらコンベアを奥に押し込むので停止、流しの人が上にある段ボールを流す時には上昇、上にある段ボールを流し終えたら下降、という風にボタンを押します。

日雇い生活史上最も楽な作業でした。ボタンを押す機会はそれほど多くなく、普段はAに位置する人が同時に行っていてそれで支障も出ていないので、ほとんどいてもいなくても変わらないポジションでした。まだ別のコンテナが到着していないようなので、1番初心者の僕がこのポジションを与えられたのだと思います。

他の人達が力作業を行っているのに1人だけただ立って、時折ボタンを押すだけというのは同じ給料をもらっている分多少後ろめたい気持ちになりましたが、このコンテナ1本分の体力を温存出来るのはとても助かりました。

1時間と少しほどでそのコンテナ作業は終了しました。小休憩の後、新しいコンテナが到着し、僕には手下ろし作業が与えられました。手下ろし作業の図を貼っておきます。

この間と同じように、もう1本は5人で流し、僕ともう1人で手下ろしをするという形でした。今回一緒に手下ろししたのは毎回この現場では一緒になる常連の人でした。僕より少し背が低い160㎝前半の40代くらいの男性でした。この人も優しく、厳しい人ではありませんでした。

手下ろしする荷物のラベルを見るとアメリカの冷凍ビーフで27㎏と書いてありました。今まで出会ってきた荷物の中で1番重かったのが確か21㎏だったので、それを6㎏も更新する最重量の積み荷でした。

27㎏は圧倒的な重さでした。運んだり、持ち上げたり、というのはかろうじて出来ましたが、神経を集中しないと落としたり、ふらついて体を持っていかれたりしかねない、危険な重さでした。扱い方によっては人を骨折、最悪の場合には死に至らしめる事も出来るといっても過言では無い、死の匂いのする重さでした。

手下ろしだったのでスピードは要求されませんが、とにかく1つ1つの積み荷が重かったです。僕はこのコンテナを空に出来るか不安になりました。加えて、そのコンテナは賞味期限がバラバラに荷物が積まれており、パレットには同じ賞味期限で積んでいかなくてはならないため、その選別作業にも時間がかかり、作業は遅々として進みませんでした。

そのように進んでいるのかどうかもよく分からないまま27㎏を手下ろししていると昼になっていたようで、昼休憩となりました。

お弁当は今日もトンカツ、麻婆豆腐、鶏肉の炒め物、マカロニサラダと品数が多く豪華です。何度か書いているように決して美味しくは無いのですが、コンビニ弁当などと比べると栄養バランスが考えられていて非常にありがたいです。

休憩後は先ほどの27㎏は流しで処理することになったようで、新たなコンテナの手下ろしを指示されました。それはブラジルの12㎏のチキンでした。12㎏の手下ろしはかなり楽な部類の作業なので安堵しました。

しばらく12㎏の手下ろしをもう1人の人としていると、僕のみ呼ばれて新しく到着したコンテナの流しをするように指示されました。新たなコンテナの中身は先程と同じアメリカの27㎏の冷凍ビーフでした。僕は息を呑みました。先程やっていた手下ろしならまだしも、スピードを要求される流しで27㎏...。僕に出来るかどうかはやってみなくてはわかりませんでした。

一緒に流すのは前回の平和島で一緒に流しをして、そのスピードとタフさに僕が劣等感を感じる事となったAさんでした。27㎏の流しが始まりました。

流すスピードはゆっくりでいいと指示されました。それは流す側の事を考えてくれたという訳ではなく、取る側のBCDの仕分けの都合上のようでした。何にせよスピードはゆっくりでいいというのは僕にとっては救いでした。

27㎏はやはり死の匂いの漂う重さでした。しかし、ゆっくりだったので何とか遅れを取ることなく流していく事が出来ました。

また、Aさんが「このコンテナは普通のコンテナの半分も無いんだよ!」と教えてくれたのですが、その27㎏のビーフを積んだコンテナは通常よりも短く、すぐに終わらせる事が出来ました。

終わった頃には腕が痛かったですが、何とか27㎏のビーフをやりおおせる事が出来ました。その後は先程の12㎏のチキンの手下ろしに戻るように指示されました。一緒にやっていた人が1人でその手下ろしを続けていたのであらかた終わっていて、その手下ろしを終え、小休憩となりました。

ベンチに座ってぼーっとしていると、先程一緒に27㎏のビーフを流したAさんが隣に腰かけたので先程のビーフに関して質問しました。

Aさん曰く重さをよく見てないからわからないけど、あれより重い積み荷はこの倉庫には来ないと思うと言っていました。僕は一先ずこの倉庫で最も重い積み荷をクリアする事は出来たのだなと思いました。ラベルの重さをいちいちチェックする僕に対し、そんなものを確認しないAさんからは頼もしい力持ちという感じがしました。

僕はふと気になってAさんに40㎏のタコに関して聞いてみました。Aさんは40㎏かわからないけれどとんでもなく重い鯨なら1度出会った事があると言っていました。

ジョウナンジマですか?と聞いてみると、場所は覚えていないと言っていました。ただ、皆断っている現場で、土曜日にたまたま人がいなくて自分に回ってきたようだと言っていました。

Aさんはそこで、通常の長さにたっぷり積まれたとんでもなく重い鯨を普通のスピードで流す作業をしたとの事でした。Aさんもさすがにきつすぎてその現場は次から断る事にしたと言っていました。

恐らくそのAさんの行ったと言うとんでもなく重い鯨も、前回1さんが言っていた40㎏のタコと同じジョウナンジマなる土地の現場であるようでした。

Aさんのような力のある人でも1度行っただけで敬遠してしまう現場があるというのは僕を戦慄させるには十分の事実でした。そのような現場にもし僕が行くことになってしまったら、どうなってしまうのでしょうか。十中八九、即リタイアとなるのだろうなと思いました。

小休憩の後指示されたのは再びボタン役でした。手下ろしのコンテナは現状無いようでした。ボタンのポジションに立ってボタンを押しつつAさんともう1人が流す荷物をぼんやり見ていて僕は驚愕しました。28㎏や30㎏と重さが記載されていたのです。

そのコンテナは混載のようでした。22㎏前後の荷物と、30㎏前後の荷物の2種類でした。先程Aさんは27㎏より重い荷物は来ないと思うと言っていましたが、今僕の目の前でAさんはそれより重い荷物を通常のスピードで流しています。僕は怖くなりました。

重さを見ないというAさんからしたら27㎏から数㎏足されたその積み荷はほぼ27㎏と同じなのでしょう。しかし、27㎏がほぼ限界値と思われる僕からしたらそこから+数㎏というのは大きな違いがあるのです。僕は自分が流しだったら目の前の2人のようなスピードで流せるだろうか?と自分に問い、否、と思いました。

なので今回ボタン役というポジションを与えられたのは本当に救いでした。それと同時にやはり、目の前や後ろで力一杯作業をしているレギュラーの人達に対する激しい後ろめたさが生まれました。

そのコンテナが空になった頃には16:30を過ぎていました。まだコンテナは何本か残っているはずですから残業はほぼ確実でした。僕はボタン役によりかなり体力が残っていたので、次は手下ろしでも流しでもどちらでも構わないから作業に貢献したいと思いました。

しかし、次のコンテナでも僕はボタン役を命じられました。コンテナの積み荷の関係上、手下ろしと流しを2本並行で行うより、流し1本で2連続の方が効率が良いらしく、そうなるとまた僕を持て余す形になり、結果ボタン役を頼む事になったようです。

汗を流さず、ただボタンを押すだけで給料が発生していくのが3本目ともなると、仕方ない事とはいえ、ありがたいよりも、後ろめたい、情けないという気持ちが僕の心のほとんどを占めました。ボタンを押す役割を命じられたのは僕がこの場所で最も非力だからです。僕はボタンを押す作業に集中しているふりをするのに必死でしたが、ボタンを押すことにそれほど集中力は必要ありませんでした。僕は自分が、立っているだけでほとんど存在意義を持たないかかしか何かになったような気がしました。

そして、そのコンテナの途中で就業時間となったようで、僕はもう帰って良いと管理者の方に言われました。残業は出来ると伝えていたのですが、どうしてもこの先の作業上僕を持て余してしまうようでした。

僕は体力をかなり残したままロッカールームへ行き、着替えて、給料を受け取って現場を後にしました。かなり消化不良な気持ちになりました。結果楽だったので良かったのですが、自分だけズルをしてしまったようなバツの悪さが残りました。

基本的には楽な現場、楽な作業の方が良いですが、自分だけボタンを押すだけのポジションを与えられ、後ろめたさ、劣等感に苛まれるくらいならば、流しや手下ろしで汗だくになってヘトヘトになる方が清々しいとは思いました。

帰り道、夕焼けが綺麗なピンク色だったので撮りました。本日の教訓はこちらになります。

「ボタンを押すだけの役割は楽だけど後ろめたさがある」

お付き合いありがとうございました。次回も是非お楽しみ下さい。

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