古畑vs明石家さんま



       古畑任三郎  しゃべりすぎた男 CX H8.1.10放送


登場人物

古畑任三郎・・・・田村正和 Tomoyuki/SAM/(カメ)
小清水 潔・・・・明石家さんま Ukashin
今泉慎太郎・・・・西村雅彦 Tsubasa
芳賀刑事・・・・・白井 晃 Tatsunori?
向井ひな子・・・・秋本奈緒美 Remina

検事   ・・・・・中丸新将 p30から登場
裁判長  ・・・・・田山涼成 ゆげやしき
稲垣啓子(婚約者)・・・・・小高恵美 Remina
稲垣啓子の父 Tatsunori
稲垣啓子の母、敦子 p19Remina
コンビニのおやじ・・・斉藤 暁(Shozo?)
証言台に立つおばさん Remina
黒ちくびホステス Remina
警官1 p10
警官2 p10
捜査員A p13
留守電の音声 p13
裁判所の号令(男性)p29、38
記録の女 p59
事務の男 p59
ガヤ p3、p39、p57、p61

注意事項
P10 翼さん、赤い字で書かれた効果音はご自分でどうぞ!(笑)
P58 古畑さんと小清水先生が同時に喋るところがあります(赤字)
第一幕〜小清水の犯行〜
古畑
小清水
証言台に立つおばさん
検事
裁判長

○バックが黒い部屋

立っている古畑任三郎。そこにスポットライトが当てられる。

古畑「えー、ご無沙汰してます。んー、早速ですが、これは何に見えますか? ・・・・コウモリ、つぶれたカエル、セミの顔・・・・んー、人によって答えは様々です。そう、これがかの有名なロールシャッハテスト。ちなみに私の答えは、交尾しているウシです、んふふ。・・・・それでは次、(と、別の絵を見せるフリップ音)えー、これは何に見えますか? おばあさんの顔、大抵の人はそう言います。しかし、えーよーく見てください。ここにはもうひとつの顔が隠されています。えー向こうを向いている若いご婦人・・・・【SE:主題オープニンbyTomoyuki】おわかりになりませんか? んーわからない人はまあ一生わからないでしょう。つまり、私が言いたいのは、モノは、見ようによっていろんな形に見えるということで・・・・・ 」

裁判所の外を歩く雑踏の音
小清水「 被告人が被害者の家から出てくるのを、見たわけですね? 」

女 「 はい 」

小清水「 そのとき、被告人が手にナイフを持っていた、間違いありませんか? 」

女 「 ええ 」

小清水「 ホントにナイフでした? 」

女 「 ・・・・・ええ 」

小清水「 あたりはすでに薄暗かったはずですけども 」

女 「 (ムキになって)ナイフです! 」

小清水「 被告人と被害者が言い争ってる声を聞いて、直感的にナイフと思ったんじゃないんですか? 」

検事「 異議あり! (立つ)弁護人の質問は、憶測の域を出ていません! 」

裁判長「 異議を認めます 」

小清水「 (証人の女に)いくつですか? 」

女 「 (え?という顔) 」

小清水「 いや、年じゃないです、視力。・・・・普段メガネをしていらっしゃるんですか。(女の目頭あたりを指差し)あのここに跡がありますけども 」

女 「 かけるときもあります 」

小清水「 えーそれじゃ何で、今日はかけてないんですか? 」

女 「 なくても見えますから 」

小清水「 じゃあかけなきゃいいじゃないですか 」

女 「 乱視なんです。目を使う仕事してますので 」

小清水「 あー、なるほど。事件当日はメガネかけてました? 」

女 「 だから、メガネがなくても大丈夫なんです 」

小清水「 (食い気味に)質問に答えてください。事件当日はメガネをかけてましたか? 」

女 「 いいえ 」

小清水「 私の顔、見えます? 」

女 「 ええ 」

小清水「 いい男でしょ・・・・(笑う)【S E:黙秘 by Tomoyuki】・・・・あの、すいませんが、机の上に乗ってる物、順番に言ってくれます? 」

女 「 ええ、鉛筆、ノート、書類のような物、クリップ・・・・ 」

小清水「 (ややびっくり)クリップ? え・・・・・クリップですよね。かなり見えてるんじゃないですかぁ 」

女 「 ですから、視力は悪い方じゃないんです!」

小清水「 あとは? 」

女「 おしぼり 」

小清水「 何ですか? 」

女 「 おしぼり。竹の皮に乗ってます 」

小清水「 これがですか・・・・これが、おしぼり?・・・・あ、ほーでっか・・・・これ・・・・バナナなんですけども 」

法廷内がざわつく。(オーディエンスガヤ歓迎)

検事「 異議あり! 弁護人はふざけすぎてるっ! 」

小清水「 ふざけてるんじゃありません。あなたは法廷内にはバナナなんかあるはずがないという先入観から、こんな立派なバナナをおしぼりだと思い込んだんですよね 」

検事「 異議あり! こんな茶番、見たことない・・・・ 」

小清水「 (食い気味に)裁判長、私が証明したかったのは・・・・ 」

検事「 異議ありっ! 」

小清水「 すなわち・・・・ 」

検事「 裁判長っ!! 」

小清水「 (検事に)うるさいなあぁぁっ!! 」

検事「 (ビビッて)・・・・・ 」

小清水「 (小声で)すいません。私が、証明したかったのは、次の2点です。人間の目はいかにあやふやであるかということと・・・・(女をちらりと蔑視し)このオバハンは、アテにならんちゅうことですわ。・・・・・以上です。 」

裁判長「 検察官、何かありますか? 」

検事「 特に・・・・ありません 」

裁判長「 証人は下がってよろしい 」【S E終わる】

ドアを閉める大きな音
小清水の足音。

小清水「 退屈したでしょう 」

啓子「 いいえ、最高。私、実際裁判なんて見たことなかったから、もうびっくりです 」

小清水「 あれ、お父さんのはごらんにならないんですか? 」

啓子「 来るなって言われてるんです 」

小清水「 我々は、依頼人のために多少荒っぽいこともするんですよ。まあ、裁判は勝たないと意味がないですからね 」

啓子「 シビアな世界なんですね 」

小清水「 ・・・・時間は、ありますか? お茶でも 」

啓子「 はい 」




○小清水法律事務所

入ってくる小清水。【ドアの音】
秘書の安西が帰り支度している。

安西「 お疲れ様です 」

小清水「 あのな、今日、残業やから帰ってええわ 」

安西「 火の元だけ、お願いしますね 」

小清水「 お疲れさん・・・・(思い出し)あ・・・・ 」

安西「 何ですか? 」

小清水「 2時間ぐらいな、ここで仮眠するから、あの10時になったら、電話で起こしてくれるか? 」

安西「 かしこまりました 」

小清水「 忘れンなよ。この前みたいに起きたら朝やった、やったらシャレにならんからな 」

安西「 10時、ですね 」

小清水「お疲れさん。 」
安西「お疲れ様です。」

【S E:推理】
○同・表

帰っていく安西。


○とあるマンションの前(夜)

車が一台来て止まる。乗っているのは小清水である。
車内の小清水、腕時計を見る。10時である。


○安西のアパート(夜)

テレビを見ている安西。テレビ「食いしん坊万歳」の音(やわらかくてなかなかあのーフィレ肉なのにちゃんと脂身の味がのってますよ、演奏も始まりましたね。)
10時になり、【目覚まし時計】が鳴る。→止める※効果音ラボ目覚まし時計のアラーム by Tomoyuki
安西、ため息ついて受話器を取る。プッシュボタンの音


○小清水法律事務所(夜)

電話がなっているby Remina。誰もいない。


○とあるマンションの前(夜)
犬の鳴き声(by Ukashin)
車の外に立つ小清水。
自動車電話が鳴る。【ピピピピ音】by Remina

【着信のピッ音】Ringtone Incoming Call Incoming Call Ringtone Push Sound Vibration Vibration 0:12
 小清水「(わざとだるそうな声で出る)はい・・・・小清水法律事務所です・・・・おー、もうそんな時間か・・・・ありがと、助かったわ・・・・(切る) 」


○同・中・ある一室の前(夜)

「向井」の表札。
インターフォンを押す小清水。By Tomoyuki 効果音ラボ  ドアチャイム2
小奇麗な40前の女が顔を出す。小清水の恋人、向井ひな子だ。
ひな子、小清水を招き入れる。


○同・中・ひな子の部屋(夜)

ソファに座っている小清水とひな子。
Byひな子、水割りを作っている。

小清水「 だから、どないせぇっちゅうねん 」

ひな子「 どないせんでもええねん、あなたは今のままで 」

小清水「 アホか 」

ひな子「 何で? 」

小清水「 お前、そんな女違うやろ 」

ひな子「 あたし、そういう女だよ 」

小清水「 言うとったやないか。どっちが先に結婚してもええっゆうてなあハハハ 」

ひな子「 誤解しないでよ。結婚するなって言ってないでしょ。あたしをね、そんな嫉妬心のかたまりみたいな女だって思わないでね 」

小清水「 ・・・・よぅ言うなぁ 」

ひな子「 あはは、どんどん幸せになってね。あたしもそう望んでるんだからさ。でもね、あたしにだって幸せになる権利あるでしょ? だから、これまでどおりお金だけはちょうだいね。今までと一緒、大人の関係だと思わない? 」【S E:未必の故意】

小清水「 ・・・・もうええわ 」

ひな子「 何が? 」

小清水「 最終弁論終わりや。判決っちゃ。 」

ひな子「 言っとくけどね、あたし、あなたの家庭壊すなんて平気だからね。それだけは忘れないでね 」

小清水「 ・・・・・・ 」

電話が鳴る。スリッパで歩く音 By Tomoyuki
ひな子、出る。

ひな子「 (ため息)もう今日はかけるなって言ったじゃない・・・・ ええ、そうよ、はい、どうもありがとう、切るわよ、あのね、はっきり言って迷惑なの。それじゃあね、ほんと、切るわよ、あのね今人来てるから、うん、じゃあね。」

小清水「 タコ坊主か 」

ひな子「 そう、しつこくって。ホント、困っちゃってんのよね。さっきも来てね、またプロポーズされちゃった 」

小清水「 結婚したらええやないか 」

ひな子「 バカなこと言わないでよ 」

小清水「 向こうもお前のこと、好きなんやろ? 」

ひな子「 やめてよ 」

ひな子、小清水に背を向け、水割りを飲む。

小清水「 いっぺんくらい、死ぬ前に結婚しといた方が・・・・ 」

ひな子、うんざりした眼で小清水を見るが、気持ちを切り替えて、

ひな子「 あ、なんかビデオ観よっか。あなたが来ないうちに、色々たまっちゃったのよね、何がいいかな 」

小清水、しっかりつかんだ水差しを、ひな子の後頭部めがけて振り下ろす。
ゴンと鈍い音とガラスが割れる音 by Remina
音量注意 スッキリ 気分爽快「ガラスが割れる音」VOL.1 効果音
 【S E終わる】

小清水「 (やや間があって)・・・・お前が悪いねんからな 」


キッチンでグラスを洗う小清水。By Tomoyuki
電話が鳴り、留守番電話が作動する。by Remina
Panasonic VE-F04 着信音
ひな子はい、向井です。ただ今留守にしていますので、発信音の後にメッセージをどうぞ」【ピー音】※効果音ラボ 自主規制ピー音 by Remina

今泉「 あー、もしもし、俺です。今日は本当にごめんなさい。反省してます。花ちゃんの気持ちも考えないで・・・・。また、怒られるかもしれないけど、どうしても今夜中に謝っておきたかったから・・・・どーもゴメンちゃーい!ふふ 」

小清水「 単細胞なやっちゃなぁ・・・・ 」

今泉「 タコヤキ買ったんだけど、食べませんか? これから持って・・・・(ピー)※効果音ラボ 自主規制音
 」

小清水「 アホやなぁ・・・・ 」

部屋中の自分の指紋を拭き取っている小清水。
水差しの取っ手をハンカチで拭き、床に転がす。
インターフォンが鳴る。※効果音ラボ 電話の呼び出し音

小清水「 ・・・・・! 」

小清水、インターフォンの受話器をハンカチでくるんで取る。【受話器を取る音】

今泉「 ボクでーす! 【SE:犯行 CRIME】タコヤキ買ってきたぁー。よかったら、熱いうちにぃ 」

小清水、受話器でロックを解除。



ドアがスッと開く。

今泉 「 ありがとう 」


110番する小清水。ダイヤル音

電話の声「 はい、110番。どうかしましたか? 」

小清水「 人を・・・・殺しちまいました 」

小清水、受話器とプッシュボタンの指紋を拭き取る。


○同・部屋の外(夜)

ドアノブの指紋を拭き取り、足早にエレベーターに向かう小清水。
エレベーターが上がってくる。
小清水、ハッとして立ち止まり、物陰に身を隠す。
エレベーターから男が降りてくる。いそいそとひな子の部屋のインターフォンを押す。
インターフォンが鳴る。
今泉 「 おーい 」【SE終わる】
ドアノブをつかみ開ける音
(翼さん、ここ、ご自分で歩き回って花ちゃんを探す足音出してもらえますか?)
今泉「 お邪魔しまーす! 失礼しまーす! 花ちゃーん! 」

今泉、ひな子を探しながら、床に落ちている水差しの取っ手に触り、さらに奥へ入っていく。

今泉「 花ちゃーん!、、、、、、あれ?」

今泉、ひな子に近寄り、抱き起こそうとする。
が、異変に気づく。
手に、血がつく。【衣擦れ音】【S E:罠】

今泉「 (血を見て、パニック)あ・・・・! あ、あ、ああーーっ!!(服に手を擦り付ける音) 」

今泉、思わずコートで血を拭く。コートに血がべっとりとつく。
そして、パトカーのサイレンの音。

今泉「 (さらにパニック)うわぁぁぁぁーーーっ!! 」

(走り回る音)立ち去ろうとして、気づく。バラの花が一輪、落ちている。
今泉、バラを拾って、脱兎のごとく出ていく。

第二幕〜今泉逮捕〜


パトカーが多数止まっている、無線で住所を告げる声

【S E:都市】
モヤの中から一人の男が走ってくる。芳賀刑事である。
【S E終わる】【パトカーのサイレンや雑踏音】
警官「はい、そうです、はい、以上、はい!」

芳賀「 (警官に)古畑さん、来た? 」

警官「 ええ、今さっきお見えになりましたよ 」

芳賀「 んーどこ行っちゃったんだ! 」

警官「 現場に来てないんですか? 」

芳賀「 来てないから探してンだよ 」

警官2「 古畑さん、コンビニで何か買い物されてましたよ 」

芳賀「 コンビニ? 」

【S E:アリバイ】

○コンビニ(夜)

入っていく芳賀。
レジカウンターで店主とモメている黒ずくめの男がいる。
古畑任三郎である。

古畑「 だから違うんだよこれは 」【S E:物証】

店主「 どこが違うんですか 」

古畑「 どこ、あんなに説明したじゃないか 」

店主「 だって、ピクルス入れろって 」

古畑「ピク、、、それはいいんだよ」

芳賀「 古畑さん 」

古畑「 (芳賀を手で制して)ちょっと待って。(店主にハンバーガーを開いて見せ)見てこれ、見てこれ。ピクルス、こんなにちっちゃいのが一枚しかないじゃない。ピクルスはね、真ん中に一枚とそれを囲むように四枚、計五枚、花びらのように、どっから食べてもピクルスに当たるようにしてほしいんだよ。これ、当たらないよ 」

古畑、かなり頭にきてる様子で、ハンバーガーを店主に突き返す。

古畑「 はい、作り直し! 」

店主「 上手くウラに伝わってなかったみたいですね 」

古畑「 何、あんたが作ってンじゃないの? 」

店主「 ウラにもう一人いるんですよ 」

古畑「 (奥をのぞき)どこに? 」

店主、奥へ逃げる。

古畑「 いないっ、ホントに調子のいいオヤジだ。(芳賀に)晩メシ、食べてないのよ」

芳賀「 もう少しマシなものを食べられた方がよろしいんじゃないですか 」

古畑「 いや、ここのチェーン店は、バーガー類結構イケんだ、覚えといた方がいいよ 」

芳賀「 はい 」

古畑と芳賀、店内を歩きながら、

古畑「 腹減った・・・・そっちの方、どうなの? 」

芳賀「 今、鑑識が指紋を採取してます。結構、あっちこっちついてるみたいです 」

古畑「 んー受話器も忘れないでね 」

芳賀「 はい、今やってます 」

古畑「 君・・・・えと前の何つったっけ、あの、オデコが印象的なさ、、、 」

芳賀「 今泉さん 」

古畑「 今泉、あれに比べるとずいぶんといいねぇ 」

芳賀「 ありがとうございます 」

古畑「 捜査のツボを押さえてるよ 」

芳賀「 恐縮です 」

古畑「 それに比べると、あれ、あれ、・・・・今どうしてんの? 」

芳賀「 今泉さんは、自律神経失調症で長期休暇を 」

古畑「 (驚き)えーっ、まだ治ってないの? 」

芳賀「 自宅療養と聞いてます 」

古畑「 かわいそうに。あれ、一生治らないよ。おじさん、やっぱりあんたが作ってンじゃないかぁ。急いでよ、みんな待ってンだから 」

【S E終わる】

○ひな子の部屋・殺人現場(夜)

忙しそうに動き回る鑑識課員と捜査員。
古畑はのんきにハンバーガーを食べている。
メモを見ながら古畑に事件の説明をする芳賀。

芳賀「 被害者は向井ひな子、37歳、スタイリスト、独身です。え、凶器はガラス製の水差し。頭の(自分の側頭部を示し)この部分を一撃されています 」

古畑「 (食べながら)死亡推定時刻は? 」

芳賀「 はい、今夜の10時から11時の間でした。男性の声で110番通報があったのが11時5分です。やはり、犯人自ら、通報した可能性が高いですね 」


古畑「ふーん」

捜査員A「 古畑さん、ちょっと 」

古畑「 (食べながら)何 ?」

留守番電話の録音テープが再生される。
留守電音声「水曜日、午後、10時55分です。ピー」効果音ラボ自主規制音

今泉「あー、もしもし、俺です。今日は本当にごめんなさい。反省してます。花ちゃんの気持ちも考えないで・・・・。
捜査員B 「この声、聞き覚えありませんか」
今泉「また、怒られるかもしれないけど、どうしても今夜中に謝っておきたかったから・・・・どーもゴメンちゃーい!ふふ。
芳賀刑事「古畑さん・・・・」
今泉「もしよかったら・・・・タコヤキ買ったんだけど、食べませんか? これから持って・・・・(ピー) 」
留守電音声「再生が終わりました。」

芳賀「 これは、どう考えても今泉さんです 」

古畑「 んー、ちょっと(鼻啜る)巻き戻して 」
【S E:暗転の時の主題】

テープ、巻き戻され、再び再生。
今泉「どうしても今夜中に謝っておきたかったから・・・・どーもゴメンちゃーい!ふふ。」

古畑「 間違いないねぇ、今泉だねぇ・・・・ 」

芳賀「 (捜査員らに)すぐに今泉さんに連絡取って 」

出て行く捜査員ら。

芳賀「 まさか、今泉さんが・・・・ 」

古畑「 ・・・・・・ 」


○今泉のアパート・部屋の外~中(夜)

パトカーが止まり、芳賀と捜査員2名が降りる。
部屋のドアをドンドンたたく、芳賀と捜査員。

芳賀「 今泉さん、いらっしゃいますか!? 今泉さん!芳賀です!開けてくださいっ! 」

返答はない。
ドアを開ける。開くがドアチェーンがかかっている。
ドアを思い切り引っ張ると、チェーンが切れた。
ドタドタ歩く音
中に飛び込む芳賀と捜査員。
物が散乱した汚い部屋。
ニャーン、と、ネコの鳴き声。ベッドの下にネコが一匹。
芳賀、血のついたコートを発見。

芳賀「 !! 」

その時、大きな物音がして、今泉が転がり出てくる。
今泉、開いたドアから飛び出していく。

芳賀「 今泉さんっ!! ちょっと!」

逃げる今泉。追いかける芳賀と捜査員。


○道(夜)

バタバタと走って逃げる今泉。追う捜査員ら。
3人で三方から挟み込み、今泉を追い込む。
ゴミ箱をひっくり返しながら、ジタバタと抵抗する今泉。
芳賀、今泉に飛びかかり、もみ合って、もみ合って、押さえつけ、確保!

今泉「 じぇあぁぁぁぁーーーーっ!!あああああああああ!!! 」


○拘置所・中・面会室

おどおどした表情で入ってくる今泉。
仕切りの向こう側で座っている、呆れ顔の古畑。
重いドアが開く音

今泉「 古畑さんっ! 信じてください、ボクじゃないっ! 」

古畑「 (大きく息を吸い込む)ふー、バーカ。 」

今泉「 いや、ホントなんですよ、ワケわかりませんっ! 」

古畑「 何で殺したの? 」

今泉「 (首を振って)殺してないですよ! 」

古畑「 じゃあ、何で逃げたの? 」

今泉「 だだだだって、あの、追いかけてくるから・・・・恐かったんですぅ 」

古畑「 何があったの? 」

今泉「 彼女にプロポーズを 」

古畑「 付き合ってたの? 」

今泉「 大学の同級生だったんです 」

古畑「 んーずいぶん長いねぇ 」

今泉「 何度もフラれてるんですけど、最近またちょっともり返してきたんでそろそろかな・・・・と。でも、やっぱり断られました 」

古畑「 それで、殺したの? 」

今泉「 やめてくださいよっ! 」

古畑「 誰にも言わないから、言ってごらんよ 」

今泉「 信じてくださいよ。あの、古畑さん、真犯人を・・・・ 」

古畑「 あれぇ、聞いてなかった? 」

今泉「 (ドキっとして)・・・・何スか? 」

古畑「 わたしね、この事件からはずされたの。」
今泉「え・・・・」
古畑「署内じゃね、わたしとお前が大の仲良しだと思われてるらしいんだよ、わたしはそれが一番ハラが立つ 」

今泉「 古畑さん・・・・(悲しい) 」

古畑「 あの捜査の指揮は、あれ、彼なんつったっけ? 芳賀くん。彼が執ることになって、彼、なかなかやり手だから、ね。(と、立つ) 」

今泉「 (焦って)あ、か、か、彼女には他にも男がいたんです。そいつが犯人です、そいつがボクをワナにハメたんです! 」

古畑「 今泉くんね、助けてやりたいけど多分、無理 」

今泉「 や、そ、そんなこと言わないで・・・・ 」

古畑「 ヒマもないもん、だって 」

今泉「 古畑さん・・・・(すごく悲しい) 」

古畑「 幸運祈る 」

今泉「 あっ、べべ、べ、弁護士をっ!! 」

古畑「 え? (振り返る) 」

今泉「 ボクの知り合いに、一人優秀なヤツがいるんです、そいつと連絡取ってくださいっ、お願いしますぅ! 」

古畑「 (嫌そうな顔で)・・・・めんどくさいよ 」

古畑、出て行く。

今泉「 (絶望的で)古畑さーーーーん! 」
ドアがバタンと閉まる音



第三幕〜古畑と小清水の出会い〜
○同・中・廊下

こちらに向かってくる男の足。足音
小清水である。


○同・中・面会室

入ってくる小清水。
壁際に立っている古畑。

今泉「 (パッと明るくなり)小清水っ!! 」

小清水「 今泉・・・・ 」

今泉「 こんなことになっちゃって・・・・ 」

小清水「 俺に任しとけ。必ず救ってやるから 」

今泉「 君しか頼れるヤツが・・・・ 」

小清水「 お前救うことが、向井さんの何よりの供養になんのやろ。何とかするわ 」

今泉「 小清水くん・・・・(ドンっと窓に体重をかけて)いいヤツだぁっ!! 」

古畑「 先生、無理なら無理って言ってやった方が・・・・ 」

小清水「 は、何言ってるんですか、今泉はボクの大事な友達なんですよ。ボクが何とかします 」

今泉「 (感動して)・・・・ありがとう・・・・ 」

古畑、小清水をじっと見つめている。そして、その眼がキラリと光る。


○拘置所・面会室・外

面会室から出てくる小清水。
あとを追って出てくる古畑。

古畑「 先生! いやー、先生が引き受けて下さって助かりましたハハハ 」

小清水「 とんでもないですよ 」

古畑「 しかし、偶然ですね。大学で同じゼミを受けてらっしゃったとか? 」

小清水「 ええ 」

古畑「 確か亡くなったスタイリストの方も、同じ大学だったそうですね? 」

小清水「 向井さんですか? 」

古畑「 あーーー、最近も会ってらっしゃった? 」

小清水「 いえ、卒業してから全然会ってないんすよ 」

古畑「 あ?そうですか?んー・・・・ 」

小清水「 今泉はあの頃から彼女にホレてましてね 」

古畑「 んーへへへ、しょうがないヤツです 」

小清水「 つまり、ボクほど今回の事件の弁護に向いている人間はおらんちゅーことですわ。ま、今泉から指名があったときは、びっくりしたんですけどね 」

古畑「 よろしくお願いします 」

小清水「 いやこちらこそ 」

古畑「 しかし、先生やり手でいらっしゃいますねぇ。えー、亡くなった向井ひな子さん、今泉、ハナちゃんて呼ぶんです。何でだって訊いたら、あの方、昔花田って言ってたらしいです、あの学生時代 」

小清水「 そうでしたか? 」

古畑「 えー卒業して今の仕事を始める前に名前を変えたらしいんです。しかし、今泉は未だにハナちゃん、ハナちゃんて、へっへっへ・・・・えー先生の方は、学生時代の彼女しかご存知ないのに、ちゃんと今の名前を呼んでらっしゃる 」

小清水「 調書に向井となってますから 」

古畑「 そう思いました。実に細かく調書を読み込んでいらっしゃる。頼もしいかぎりです 」

小清水「 とんでもないです。・・・・それじゃあ 」

古畑「 あの、くれぐれも、よろしくお願いします 」

小清水、去っていく。
見送る古畑、小清水を見るその挑戦的なまなざし。


○レストラン(夜)【S E:ラウンジ音楽】



稲垣「 あ、そうですか・・・・で? 今はどんな事件を? 」

小清水「 はい、相変わらずほそぼそとやらせて頂いてます 」

啓子「 今度、あれ担当するの。ほら現職警官の殺人事件。新聞に出てたでしょ? 」

敦子「 あー、あれをやってらっしゃるの? 」

小清水「 被告人が大学の同期なんです 」

稲垣「 いやーあれはしかし、難しい事件ですよ 」

小清水「 友人が困っているので、助けてやりたいなと思いまして 」

稲垣「 はっはっは。小清水さんなら大丈夫でしょう 」

店の中二階から手を振る男がいる。古畑だ。

小清水「 (古畑に気づいて)・・・・・ 」

稲垣「 まあ、我々の仕事は得てして損得勘定で動くことが多い。ま、たまにはガス抜きの意味でもね 」

小清水、相づちを打つが古畑が気になってしようがない。


×   ×   ×   ×


中二階。
階段を上がってくる小清水。
出迎える微笑み満点の古畑。

古畑「 あ、どうも、あのーよろしいんですか、あちら・・・・あ、そうだ、先生!おめでとうございます。結婚なさるそうで 」

小清水「 何で知ってまんの? 」

古畑「 あの、事務所でうかがいました。(啓子たちの方を見て)あのー、あちらの方がフィアンセ? 」

小清水「 若い方です 」

古畑「 あーしかしおキレイな方じゃないですかぁ 」

小清水「 ありがとうございます 」

古畑「 アゴのラインがすばらしい・・・・あの、お話の方はもうよろしいんですか? 」

小清水「 ええ、ちょうど話もなくなったころで 」

古畑「 あーそうですか。(啓子を見つめて)キレイな人だ・・・・ 」

小清水、近くのソファに腰をかける。

小清水「 いろいろね、調べたんですけどもね 」

古畑「 どうでしょうか? 」

小清水、まあどうぞ、と、古畑にとなりの席をすすめる。

古畑「 失礼します(座る) 」

小清水「 しんどい裁判になりまんなあ 」

古畑「 しんどいとは? 」

小清水「 いやね、今泉が犯人であることは状況証拠が示してるわけですよ。警察にねえ、踏み込まれたときに、逃げてんのがあきまへんでしたなあ 」

古畑「 それなんですよ、そうなんですよー 」

小清水「 とにかくね、あの、時間をください。えー作戦考えます 」

古畑「 お願いします 」

小清水「 それじゃあ、今日は(と、立ち上がる) 」

古畑「 (立って)先生。えー実はですね、担当の刑事に知り合いがいまして、現場を見せてくれるって言うんですけども、よろしかったら先生もご一緒にいかがですか? 」

小清水「 いいですねぇ! 」

古畑「 我々の言葉にも現場百遍というのがありまして、何かの参考になればと思いまして」

小清水「 行きましょうか 」

古畑「はい。」【S E:推理】


○大通りを走る車(夜)


○車内(夜)

運転している小清水。助手席に古畑。

古畑「 正直言ってどう思われてます? 」

小清水「 何がですか? 」

古畑「 今泉、やってると、、、思います? 」

小清水「 古畑さん」
古畑「はい」
小清水「これだけは言えるんですよ。」
古畑「うん」

小清水「依頼人はウソをつく。常識です 」

古畑「 んー信じてらっしゃらない? 」

小清水「 ボクが信じているのは、自分の腕だけです 」

古畑「 んーいい答えです 」

小清水「 どうでもいいんですけども、あの、この道まっすぐでいいんですか? 」

古畑「 どの道? 」

小清水「 いや、あの、場所わからないんですよ。行ったことがないから 」

古畑「 あー、そうですよね。失礼しました。(辺りをキョロキョロ見て)えー、あれ?あっれ、だいぶ行きすぎましたね、いや、さっきの道、右に入るんでした。このまま行くと、私の家にいっちゃいますよ。あ、よろしかったら、ちょっと寄っていきますか、私の家に。 」

小清水「 あんたの家? 」

古畑「 ええ、ええ、何かお茶と甘いものでも 」

小清水「 ・・・・遠慮しときますわ 」

古畑「 そうですか、じゃあ、どっかでUターンしてください 」

小清水「 (怒って)はよ言うてくださいね! 」

古畑「 はい分かりました・・・・ 」

車、Uターンする。ブレーキ音


○ひな子のマンション・中・エントランス(夜)

入ってくる古畑と小清水。
古畑、落ち着きなくキョロキョロしている。

古畑「 そうですか、小石川ちなみの事件を担当された・・・・あれを無罪に持ち込むとはスゴ腕です 」

古畑、わざとらしく小銭をポケットからばらまく。チャリーン音

古畑「 (拾いながら)ボタン押してもらえますか。誰か上にいるはずです 」

小清水、じっとしている。

古畑「 (小銭を拾って)そうですか・・・・ちなみちゃんの・・・・ 」

古畑、小清水が突っ立っているので、もう一度、

古畑「 あのーボタンを 」

小清水「 部屋番号 」

古畑「 はい? 」

小清水「 聞いてなかったもんで 」

古畑「 あ・・・・失礼しました。(部屋番号を押す)調書に書いてなかったですかねぇ 」

小清水「 ・・・・・・ 」

ドアが開く。

古畑「 開きました、開きました」

小清水「 ・・・・・・ 」


○同・中・ひな子の部屋(夜)

入ってくる古畑と小清水。
芳賀刑事がすでに来ている。

古畑「 先生、どうぞ、どうぞおかけになってください。・・・・しかし、大したマンションですねぇ、スタイリストっていうんですか? そんなに儲かるもんですかね 」

小清水「 ボクに訊いてらっしゃるんですか? 」

古畑「 はい、そうです 」

小清水「 ピンからキリじゃないですか 」

古畑「 じゃ、これはピンの方だ、きっと 」

小清水「 あとは今泉が払ってたかどうかね(ソファに座る) 」

古畑「 (笑)いやいや、あいつの月給じゃなあ。とても無理です 」


古畑「 実はですね、先生。向井さんに男がいた可能性があるんです。今泉以外にも 」

小清水「 はあ、そうですか 」

古畑、小清水の近くに腰をかけ、

古畑「 はい今泉、そんなこと言ってました。そいつが真犯人だと。芳賀くん、あれ、お願いね 」

芳賀、何かを取りに奥へ行く。

古畑「 あちこちまだガラスの破片が飛び散ってますから、気をつけてくださいよ 」

小清水「 広い範囲で飛んでるんですね 」

古畑「 思い切り殴りつけた、ってカンジでしょうか。もうあっちこっち・・・・ 」

小清水、コートを脱ぎかける。

古畑「 寒くないですか? 」

小清水「 (手を止めて)・・・・ちょっとね 」

古畑「 寒いですよね、着ててください 」

小清水「 ・・・・・(またコートを着る) 」

古畑、エアコンの方へ。

古畑「 ああ、あそこにある、えーと、これどうすんだ? ・・・・あ、先生、リモコン取って頂けませんか 」

テーブルにずらりと並べられた数々のリモコン。
小清水、その中からサッとひとつ取って、古畑に渡す。

古畑「 あれ? よくわかりましたね、これがエアコンのリモコンだって、あんなにあるのに。以前にこの部屋にいらしたことあるんですか? 」

小清水「 (ムッとして)書いてあるじゃないですか! 」

古畑「 はい?書いてあります? (リモコンを見て)ええっと、ビーバーエアコン、あ、ホントだ 」

小清水「 うちと一緒なんです 」

古畑「 そうですか、どうもどうも失礼しました 」

小清水「 古畑さん・・・・何かテストしてらっしゃるんですか? 」

古畑「 先生をテスト? とんで、、、 あ、来ました。ドモンジョ・・・・猫猫猫、今朝ねあの、ペットホテルから戻ってきたんです。月に何回か預けてるみたいですね。どうも、その恋人が来る日は厄介払いされてたみたいで・・・・かわいそうに(と、ネコを抱く) 」

小清水、様子がおかしい。どうもそわそわしている。

古畑「 付き合ってた男は、よほどのネコ嫌いかもしくはネコアレルギーだったんでしょう。な、かわいそうに、よしよし、先生、ネコ大丈夫ですか? 」

小清水「 (ドキっとして)ボ、ボク? 」

古畑「 よくアレルギーの人、いますからね。くしゃみが止まらなくなるんですよねへへへへ 」

小清水「 (無理に笑う)ボクは、大丈夫です 」

古畑「 そうですか。それじゃあ、今度は先生に抱っこしてもらいなさい、はいどうぞ 」

古畑、押し付けるようにネコを小清水に渡す。
小清水、表情がこわばり、落ち着かない様子。

古畑「 いやあ、おとなしいネコだなあ。」

芳賀「 かわいいですね 」

古畑「 飼い主がいなくなっちゃっても無邪気なモンだ。これからどうすんだ、おい 。これからどうするんだ?あ、実は、今泉の家にもネコがいました。(芳賀に)おじゃまんべって言ったっけ? 」

芳賀「 はい 」

古畑「 ですから、今泉以外にも男がいたということになります。事件当夜もここで会うことになっていた。だから、ネコを預けたんですよ、ペットホテルに、はい。 」

小清水「 ・・・・いいネコですね 」

古畑「 よかったら、お持ち帰りになりますふふふははは? 」

小清水「 あっ、うちには、イヌがいますから 」

古畑「 イヌが。ああそうですか 」

小清水「 (ネコを床に落として)あ、逃げた 」

ネコを追う芳賀。

古畑「 先生ですからですね、その男を捜すことが先決じゃないかと思うんです。」

小清水「そうですね」
古畑「芳賀くん、捜査の方は? 」

古畑と芳賀、小清水を挟むようにして立つ。芳賀に抱かれたネコ、小清水に密着。

小清水「 ・・・・・・! 」

芳賀「 被害者の男性関係を今、全力で当たってます 」

古畑「 あー、それがいいね 」

小清水「 そ、それじゃあ、ボクは、お先に 」

小清水、出口へ急ぐ。

古畑「 お帰りになります? 」

小清水「 調書を読み込まないといけませんので・・・・ 」

古畑「 付き合って頂いてありがとうございました。」
小清水「あ、ども、じゃ、失礼しますっ」
古畑「下まで送りましょうか? 」

小清水「 いや、結構です 」

と、足早に出て行く。

古畑「 おやすみなさい・・・・(と、ドアを閉め、ニンマリ) 」


○同・部屋の外(夜)

焦って出てくる小清水。
エレベーターに向かうが間に合わず、

小清水「 (くしゃみ)ハックション!! 」

古畑の声「 お大事に 」

振り返ると、古畑が顔を出し、ニンマリ笑っている。

小清水「 !! ・・・・何が? 」

古畑「 (鋭い視線で小清水を見て)・・・・・ 」【S E終わる】



第四幕〜今泉裁判その①〜
○拘置所・中・面会室

今泉に面会している小清水。

小清水「 もういっぺんよう考えろよ。これは君の問題やねんから。このままいったら十中八九有罪や。まあ、殺人は当然実刑やな。少なくとも10年は、刑務所に入ってなあかんねん 」

今泉「 ・・・・(考え込む) 」

小清水「 それ、嫌やろ? 嫌やったら素直に罪認めて殺すつもりはなかったと言うたらええねん。傷害致死や。うまくいけば執行猶予がつくわ 」

今泉「 ・・・・傷害致死? 」

小清水「 どうや? 」

今泉「 小清水くん、でもボクやってないんだよ 」

小清水「 気持ちはわかる。気持ちはわかるけどもやな、自分のやったこと、もっぺんゆっくり考えてみぃ。あらゆる証拠がな、君が犯人になってんのや。これを覆すのはな、至難の業や。ヘタに意地はって実刑食らうのが得か、ここは妥協して執行猶予勝ち取るのが得か。・・・・俺が言うてることわかってるな? 」

今泉「 (迷いがある表情で)・・・・はい 」

小清水「 そしたら、検事が起訴状を朗読したあとに罪状認否というのがあるから、そのあとに裁判官が控訴事実に間違いはないかと訊くわ。そこでお前は、殴ることは殴ったが、殺すつもりはないと答えろ。あとは、俺が何とかするから 」

今泉「 ・・・・・・ 」

小清水「 お前を殺人犯にしたくないねんや。刑務所なんか送らへんぞ 」

今泉「 ・・・・・・ 」

小清水「 もっぺん、ゆっくり考えろ、な 」

今泉「 ・・・・・・ 」

○同・中・待合室

座っている古畑。
そこへ来る小清水。

古畑「 今泉が・・・・? 」

小清水「 ようやくホントのこと、言ってくれました 」

古畑「 (信じられない)そうですかぁ? 」

小清水「 これで傷害致死、、、(後ろの強面の男が気になって小声になる)に持ち込んで、執行猶予取ってみせますよ 」

古畑「 ホントに自供したんですかぁ? 」
小清水「はい。」

小清水、うしろに座っている男女が気になる。

古畑「はい?(後ろを見る)あー、しかし、、、」

小清水「 場所・・・・変えますか? 」
古畑「はい、、、。」


○同・表

出てくる古畑と小清水。

古畑「 やー、しかし私、あの男のこと昔からよく知ってますがね、人に殺されることはあっても、絶対に殺すような男じゃないんですけどねぇ 」

小清水「 古畑さん。古畑さんにはあの証言台に立ってもらいますんで。執行猶予を取るためにね、情状証人という被告人の人間性の証言がかなり重要になってくるんですよ。そんときはよろしくお願いします。 」

スタスタと去っていく小清水。

古畑「 (見送りながら)わたしにできることでしたら・・・・」
小清水「よろしくお願い致します。」
古畑「いやー、しかし・・・・ホントですかぁ? 」


○裁判所・外観


○同・中・法廷
号令(男性)「起立!」
裁判官、検事、弁護士、以下傍聴席も、全員起立して、礼、着席。

裁判長「 それでは、開廷します。被告人は前へ 」

今泉、前に出る。

裁判長「 検察官、起訴状の朗読をお願いします 」

検事「 (立つ)控訴事実。被告人は平成8年1月10日、午後11時ごろ東京都世田谷区三丁目17番5号所在のパールマンション3階301号室、向井ひな子こと花田ひな子、当方37年・・・・ 」

検事の声が遠くで聞こえる。ただ、呆然とその声を聞いている今泉。

裁判長「 被告人に尋ねます。さきほど、検察官が朗読した控訴事実に間違いはありませんか? 」

今泉「 (小清水の顔色をちらちらと見ながら)確かに・・・・彼女を殴ったのは殴ったんですけど・・・・まさか死んでしまうとは・・・・こ、殺すつもりはなかったんです・・・・ごめんなさい 」

裁判長「 弁護人、それについてのご意見は? 」

小清水「 被告人と同意見です。被告人には殺人の故意はありません 」

裁判長「 それでは被告人、元の席に戻りなさい 」

席に戻る今泉。
傍聴席で聞いている古畑。

古畑「 (納得いかない顔で)・・・・・ 」


裁判長「これより証拠調べの手続きに移ります。それでは検察官冒頭陳述を行なって下さい。」

×   ×   ×   ×


検察官の証人尋問。
証言台には芳賀刑事。

検事「 凶器はそのガラス製の水差しと考えていいんですね? 」

芳賀「 はい 」

検事「 かなり大きなモノと考えていいんですね? 」

芳賀「 残された取っ手の大きさから推測しても、(手で大きさを示し)これくらいはあったと思います 」

検事「 直径12センチくらいですね。しかもガラス製ですからね、かなり重たいでしょ? 」

芳賀「 そう思いますね 」

検事「 5キロくらいあると考えても構いませんね? 」

芳賀「 ええ 」

検事「 それで人の頭を殴れば、引き起こされる結果は、誰の眼から見ても明らかですね 」

芳賀「 はい 」

検事「 どうなります? 」

芳賀「 おそらく、即死です 」

検事「 (裁判長に)以上です 」

裁判長「 弁護人、反対尋問をどうぞ 」

小清水、証言台へ。

小清水「 すいません、もう一度凶器のことについて訊きたいんですけども、あの、大きさは? 」

芳賀「 や、ですから、12センチくらい 」

小清水「 わっちゃー。しかも、ガラス製ですよね? 」

芳賀「 ええ 」

小清水「 わっちゃー。で、重さは? 」

芳賀「 5キロは 」

検事「 (立って)異議あり! 質問が重複しています 」

裁判長「 弁護人、端的にお願いします 」

小清水「 凶器は、当然、あの、持って歩くようなモノじゃありませんよね? 」

芳賀「 はい 」

小清水「 あのー、ってことは、初めから現場にあったってことでいいんですか? 」

芳賀「 そうですね 」

小清水「 あ、ほーか、たまたまあった・・・・ 」

芳賀「 いや、たまたまという言い方は・・・・ 」

小清水「 あのー、証人はすいません、質問されたことにだけ答えてください 」

芳賀「 (ぶすっとする) 」

小清水「 現場とキッチンの位置関係は? 」

芳賀「 っ、となり合わせです 」

小清水「 となり合わせ? キッチンて言うたら、あのナイフがありますよね。ついでにあの、包丁も 」

芳賀「 ありました 」

小清水「 あっちゃー、ということは、被告人が包丁で刺そうと思えば刺せたわけだ。むしろそっちの方が確実でしょう 」

芳賀「 いや、しかし・・・・ 」

小清水「 あの、ちょっとうかがいたいんですけど、殺意があったとするならば、花びんで頭を殴るのと、ナイフで心臓を刺すのと、どっちが確実に相手を殺せますか? 」

芳賀「 ・・・・・(言葉に詰まる) 」

小清水「 警察の方ですよね? 」

芳賀「 ・・・・・はい 」

小清水「 警察の方ならあの、答えてください 」

芳賀「 ・・・・・(悔しい) 」

小清水「 答えてください 」

芳賀「 (小声で)・・・・ナイフです 」

小清水「 何ですか? あの、聞こえませんでしたけども 」

芳賀「 (ヤケクソ)ナイフですっ! 」

小清水「 (即座に)ナイフです! ・・・・・ありがとうございました。(裁判長に)以上です 」


第五幕〜今泉裁判その②〜

○同・外・廊下

出てくる小清水。
古畑、追って出てくる。
【S E:  】
古畑「 先生! 先生! さすがやり手の弁護士さんでいらっしゃいますね。芳賀くん、例の検事、たじたじだったじゃないですかぁ。おもしろかったですぅ 」

小清水「 今度の公判ではね、検察側が何とか殺人の証明をしようとしてくるでしょう 」

古畑「 んー大丈夫ですか? 」

小清水「 見とってくださいよ。弁護人はね、普段は最終弁論でしか自分の意見を言えないんですけどもね、ここは一発カマしてやろうと思ってましてね 」

古畑「 できるんですか? 」

小清水「 法廷テクニックを駆使さしてもらいますわ 」

古畑「 先生にはかないませんねへへへへ 」

小清水「 それじゃあ、これで 」

古畑「 そうそうそうそうそう、それで思い出しました、実はですね、おもしろい事実が浮かんだんでお知らせしておこうと思いまして 」

小清水「 あの、歩きながらで・・・・ 」

古畑「 どうぞ、どうぞ、どうぞ、どうぞ。・・・・二、三ですね、被害者の知り合いに聞き込みをしてみたんです 」

小清水「 (呆れて)あんた、担当離れたんでしょ? そんなことしていいんですか? 」

古畑「 いや、上司に知れるとヤバイんですけども、しかしそのおかげで新情報が入りました。実は、向井さんが付き合ってた男のことなんです、向井さん、どうもその男のことを先生と呼んでたらしいんですね。名前は絶対に言わなかったそうです。ですから、やっぱし、今泉の他に本命がいたんですよ。今泉を先生と呼ぶ女性いませんからね。えー政治家か作家か医者か、えーあと・・・・何でしょうかね 」

小清水「 他にもいっぱいいるでしょう。作詞家、演歌歌手 」

古畑「 あー三波先生、村田先生ふっふっふっふ 」

小清水「 それから、先生という名字の人もね、ははは 」

二人、ウケて笑い合う。

小清水「 それから・・・・もちろん・・・・弁護士もね 」

小清水、不敵な笑みを浮かべる。古畑を挑発するような・・・・。

古畑「 (意外)あはは・・・・そうですね 」

小清水「 はははは、ま、がんばんなはれや 」

古畑「 はい、どうもおおきに 」


○裁判所・中・法廷(日替わり)

証言台に立つ、ホステス風の女。弁護側の証人だ。

小清水「 職業は? 」

女 「 コンパニオンです 」

小清水「 中野の『黒ちくび』っていう店、ご存知ですね? 」

女 「 はい 」

小清水「 勤めてらっしゃいましたか? 」

女 「 今年の春まで 」

小清水「 被告席のこの人物を知っていますね? 」

女 「 (今泉を見て)はい 」

小清水「 どういう関係ですか? 」

女 「 お店の常連さんでした 」

検事「 (立つ)異議あり! 弁護人の質問は本件とは何ら関係ありません 」

小清水「 裁判長! これは被告が殺意がなかったことを示す重要な証言です 」

裁判長「 異議を却下します 」

検事「 ・・・・・(ぶすっとして座る) 」

小清水「 彼からプロポーズされましたよね? 」

女 「 はい 」

小清水「 何回? 」

女 「 5回です 」

今泉「 (立ち上がり、裁判長に)異議あり!あの、そんなにしてないっ! 」

裁判長「 被告人は静かに 」

今泉、無理矢理座らされる

今泉「すんません」

小清水「 5回プロポーズされて、何回断わりましたか? 」

女 「 5回です 」

小清水「 それでも彼は諦めなかった 」

女 「 だから、あたし、お店辞めたんです 」

検事「 (立つ)異議あり! 弁護人の質問は・・・・ 」

小清水「 (遮って)裁判長! このように、この男は、やたらプロポーズする男なんです 」

今泉「 いつだって、真剣だったっ!! 」

傍聴席で見守る啓子とその父稲垣。
そのうしろに古畑がいる。

稲垣「 (啓子に)わざと検事に異議をとなえさせて、反論の形で真説を説く。見事なテクニックだ。お前のダンナは、確かにやり手だな 」

啓子「 (嬉しそうに微笑む) 」

うしろの古畑、今の話が聞こえたらしい。身を乗り出し、

古畑「 (稲垣に)もう、決まりですかね? 」

稲垣「 ・・・・ああ、決まりでしょう。傷害致死で執行猶予5年 」

古畑「 ・・・・・・ 」

力説する小清水。

小清水「 学生時代から彼を知ってます、学生時代から、まったく、女に縁のなかった男です 」


○拘置所・中・面会室

仕切り越しに話す、古畑と今泉。

今泉「 いやー、小清水くんはよくやってくれてますよ 」

古畑「 今泉くんさあ、ホントにいいのかい? 」

今泉「 ・・・・何がですか? 」

古畑「 ホントはやってないんだろ? 」

今泉「 (口ごもる)・・・・いいえ 」

古畑「 部屋に戻った時は、もう死んでたって言ってたじゃないか 」

今泉「 だって、ホントのこと言ったら、十中八九実刑だから 」

古畑「 いいかい? いいかい? ねえ君、その小さな脳みそでよく考えてみるんだ。執行猶予がついたとしても、今までの生活はもう戻ってこないんだよ。犯行認めたら、もう終わりだよ。あの弁護士先生に何て言われたか知らないけども 」

今泉「 (すがりついて)古畑さんっ! ボク、刑務所なんか行きたくないんです! 模範囚なる自信ないっ!! 」

古畑「 利用されてるのがわかんないのか? 」

今泉「 ・・・・・どういうこと? 」

古畑「 今からでも遅くないから、法廷で自分はやってないって言うんだ 」

今泉「 でも・・・・ 」

古畑「 あとはこっちで何とかするから 」

今泉「 でも・・・・ 」

古畑「 わたしとあの弁護士と、どっちを信用するんです? 」

今泉「 ・・・・・(煮え切らない) 」

古畑「 (呆れて)ん! もうこの話はなかったことにしよ 」

古畑、帰り支度。

今泉「 古畑さんっ! (わかった、と、うなずく) 」

古畑「 ね。わたしが今まで間違ったこと言った? 」

今泉「 え・・・・・もしかして、真犯人知ってるとか? 」

古畑「 (力強くうなずく) 」

今泉「 ・・・・・誰? 」

古畑「 (ニヤニヤと笑って)ンふふふふふ、じゃ 」

今泉「 古畑さん、信じていいんですね? 」

古畑「 (うなずく) 」

今泉「 も、もし、実刑になったら・・・・ 」

古畑「 そのときは、差し入れに行くよ 」

古畑、出て行く。

今泉「 イヤだあぁぁぁっーーー!! 」


○裁判所・中・法廷(日替わり)

裁判長、入ってくる。
号令(男性)「起立!」

検事、弁護士、傍聴席全員、起立、礼、着席。

裁判長「 それでは、本日の審議を開始致します。検察官、証拠申請をお願いします 」

今泉、傍聴席の古畑を見る。
古畑、うんうんとうなずく。

今泉「 あの・・・・裁判長 」

裁判長「 ・・・・? はい 」

今泉「 ちょっと思い出したことがあるんですけど 」

裁判長「 今じゃないといけませんか? 」

今泉「 できれば、早い方が・・・・ 」

裁判長「 弁護人(と、小清水を見る) 」
今泉「一瞬、、、」

小清水「 (怪訝な表情で考えて)・・・・どうぞ 」

裁判長「 被告人は前へ 」

前に出る今泉。

今泉「 (小清水の顔色をちらちらと見ながら)あの・・・・よく考えたんですけど・・・・やっぱりボク、やってないんですよね 」
ガヤ、ざわつく

裁判長「 はあ?! 」

小清水「 !! 」

ざわつく法廷内。

今泉「 ごめんなさい! あの、勘違いしてました。ボクが部屋に行ったときは、もう死んでたんです 」

裁判長「 自分の言ってることが、わかってるんですか!? 」

小清水「 ・・・・・! 」

今泉「 ごめんなさいっ!! (深々と頭を下げる) 」

小清水「 裁判長! 閉廷お願いします! 」

裁判長「 検察官 」

検事「 (了解、と、うなずく) 」

裁判長「 本日は、閉廷します! 」

ざわざわと落ち着かない法廷内。
傍聴席の古畑、よしよしよくやった、という顔。

第六幕〜今泉裁判その③〜


○拘置所・中・面会室

申し訳なさそうな顔の今泉。
向かい合っている怒り心頭に発している小清水。

小清水「 (ドン!と机を叩く)冗談やないぞぉ!」

今泉「 ・・・・すいません 」

小清水「 話が違うやないか! 打ち合わせどおりにやってくれんと、弁護なんかできひんやろ 」

今泉「 ・・・・はい 」

小清水「 はいあるか。こっちもいろいろ準備しとんねんや。全部パーや。無駄になったわ 」

今泉「 だって、やってないんだもん 」

小清水「 ・・・・死刑や。(ため息)どうなっても知らんぞ 」

今泉「 (焦って)やっぱりやったって言ってくるよ! 訂正してくるよ! 」

今泉、出て行こうとする。

小清水「 もう遅いわ!んな話がコロコロコロコロ変わるヤツ、誰が信用する? 」

今泉、しゅんとして戻ってくる。

今泉「 小清水くん 」

小清水「 責任持てへんからなあ・・・・ 」

小清水、今泉に、ちょっと耳を貸せ、と手まねき。
今泉、「?」という顔で耳を貸す。

小清水「 死刑や 」

今泉「 !! 」

小清水、アホクサという顔を残して去る。

今泉「 ・・・・・(ショックで固まる) 」


○同・表

出てくる小清水。
追いかけて出てくる古畑。

古畑「 小清水先生! 」

小清水「 ・・・・・(この上なくうんざり) 」

古畑「 いやー、驚きましたねえー。んーこうなったらもう完全無罪で押し切るしかありませんねぇ。あとは真犯人だあ 」

小清水「 (フンと鼻を鳴らし)しらじらしい・・・・ 」

古畑「 は、何ですか? 」

小清水「 どうせ、あんたやろ 」

古畑「 はい? 」

小清水「 しょーもない入れ知恵しやがって 」

古畑「 い、いや、何のことかわかりませんが 」

小清水「 何のことかわかりませんか? 」
古畑「ええ」
小清水「なんちゅうやっちゃ 」

小清水、車に乗る。
古畑、ウインドウをコンコンとたたく。

古畑「 先生!、、、あーすいません。あのー事件のあった夜なんですけども、どちらに? お仕事ですか? 」

小清水「 あのね、古畑さん。」
古畑「はい。」
小清水「何べんも言いますけど、ボクは彼女とは卒業以来会っていないんです 」

古畑「 はい 」

小清水「 はいじゃなしに、妙な勘ぐりやめなはれ 」

古畑「 勘ぐり? 誰もそんな、勘ぐりなんて・・・・ 」

小清水「 事件のあった時間は、ボクは事務所で仕事してたんですよ。秘書に訊いてみなはれ 」

古畑「 当たってみます 」

小清水「 アリバイ崩れたら、またおいで 」

古畑「 (にっこり笑って)わかりました 」

小清水、車をスタートさせる。エンジン音
が、古畑、それを引き止めて、

古畑「 あ、先生! あのー例のネコのことなんですけども、うちで飼うことになりました 」

小清水、無視して車をスタートさせる。

古畑「 (見送って)お疲れ様です・・・・ 」


○裁判所・中・法廷(日替わり)

検事から尋問を受けている今泉。
そっと入ってくる古畑。静かに傍聴席に座る。

検事「 事件当日、あなたは被害者のマンションを訪れてますね? 」

今泉「 はい 」

検事「 そして、被害者に会った。何のために? 」

今泉「 結婚を申し込みました。そして、断わられました 」

検事「 その時、プレゼントあげてますね? あなた、駅前の花屋さんでバラの花を一輪買ってますね 」

小清水「 (小声で今泉に)聞いてないぞ 」

今泉「 ・・・・・・ 」

検事「 答えてください 」

今泉「 ・・・・あ、買いました 」

検事「 で、しょうね。花屋の主人があなたのこと覚えてましたよ。その花はどうしたんですか? 」

小清水「 (立って)異議あり! 質問の意図が明確ではありません 」

検事「 最後まで言わしてもらうと、はっきりするんですが 」

裁判長「 続けてください 」

小清水「 ・・・・・(座る) 」

検事「 あの夜、もう一度マンションを訪れていますね、タコヤキを持って 」

今泉「 はい 」

検事「 なぜ? 」

今泉「 えっと、諦め切れなかったんです。もう一回アタックしようと思って・・・・ 」

検事「 死体を見つけてあなた、どうしました? 答えてください 」

今泉「 何だか、もう、わからなくなって・・・・ 」

検事「 あなたは休職中だといっても刑事だ。死体は見慣れてるんじゃないんですか? 」

今泉「 あ、でも、知り合いの死体を見るのは初めてだったんで 」

検事「 あなたは部屋を出るとき、バラの花を持って行ったんじゃないんですか? 現場には花を包んであった包装紙は残されていましたが、薔薇の花はなかった。あなたが持ち去ったんだ 」

今泉「 覚えてません 」

検事「 あなた、花から足がつくのを恐れたんだ、違いますか? これは明らかに犯罪の隠蔽工作です。あなた自身にやましい所がなければそんなことするはずがない。あなたは刑事じゃないんですか! 現場の保存が捜査の鉄則であることは、承知のはずじゃないんですか! 以上です 」

裁判長「 弁護人、反対尋問をどうぞ 」

小清水「 特にありません 」

裁判長「 被告人は下がってください 」

今泉「 (うろたえて)あの、信じてくださいっ! ボクが行ったときは、もう死んです、嘘じゃない!・・・・僕じゃない! 」

無理矢理連れて行かれる今泉。

小清水「 ・・・・・・ 」

古畑「 ・・・・・・ 」



第七幕〜古畑vs小清水〜
○小清水法律事務所(夜)

鼻歌を歌いながら入ってくる小清水。
小清水「てんてんてんてんてんてけて」

古畑の声「 ご機嫌ですねぇ・・・・ 」

満面の笑みで別の部屋から出てくる古畑。

小清水「 ? ? ・・・・何してまんの? 」

古畑「 秘書の安西さんが、ここで待ってろって・・・・ 」

小清水「 ・・・・で? 何でっか? 」

古畑「 何かいいことでも? 」

小清水「 何にもあらへん 」

古畑「 口元がほころんでますよ、ふふふ 」

小清水「 悪いけど、小さい頃からこの顔なんですよ。歯が出てますから 」

古畑「 (ウケて笑う) 」

小清水「 裁判に負けて喜ぶ弁護士はおらん 」

古畑「 おや? 負けですか? 」

小清水「 花のこと初めて聞いたんや。裁判官に悪い印象ですよ。これで(ドンと書類を机に落とす)、き・ま・り 」

古畑「 あなたのおっしゃってたとおりになりましたねぇ。依頼人はウソをつくと 」

小清水「 打つ手なし。懲役10年。賭けまひょか 」

古畑「 えー、この前の話なんですけども 」

小清水「 何したっけ? 」

古畑「 確か、アリバイ崩したらおいでって。だから、来ました 」

小清水「 で、秘書は? 」

古畑「 確かにあなたはあの時間、あなたはここにいらっしゃったと 」

小清水「 だから? 」

古畑「 しかし、見たわけじゃなく電話で話しただけだそうです 」

小清水「 同じことじゃないですか。ここで仮眠をとるから10時に電話してこいってあいつに言うたんですよ。で、10時にかかってきて、目を覚まして電話をとった 」

古畑「 ホントにここの電話でしたか? 」

小清水「 そうや 」

古畑「 しかし、最近、転送電話って便利なモノがあって、確かここの電話にもついてたはずです、秘書の方がそう・・・・ 」

小清水「 ここで10時に電話で起こされた。これは事実です 」

古畑「 んーしかし、おかしいなあ・・・・ 」

小清水「 何がでんねんな? 」

古畑「 いや、ここの電話回線2本あるそうですね、業務用と先生の個人用と。でもってですね、あの夜、秘書の安西さんは、最初業務用の方にかけたらしいんです。そして、留守番電話になってたんで、慌ててもう一本の方に・・・・どうして最初の電話にでなかったんですか? 」

小清水「 はっ、それだけ熟睡しとったの 」

古畑「 熟睡・・・・なるほど、んふふふふ。えー、これ、安西さんにお借りしてきたんですよ。先生ご存知なかったと思いますけども、あの人、あの時の電話をテープに録音していたんですよ 」

小清水「 (ドキっとして)何やて? 」

古畑「 前に一度モーニングコールを頼まれて、その時、電話したしないで結構モメたそうですね。今度はそんなことがないようにと証拠のテープを。さすが、弁護士先生の秘書です 」

小清水「 (ドキドキして)ちょっと待て 」

古畑「 聞いてみましょう 」

小清水「 ちょっと待てって言うとるやろ! 」

古畑、うろたえる小清水を手で制して、テープを再生。

小清水の声「 はい・・・・小清水法律事務所です 」

安西の声「 10時になりましたけど 」

小清水の声「 おお、もうそんな時間か・・・・ 」

安西の声「 確かに、電話しましたよ 」

小清水の声「 ありがとう・・・・助かったわ・・・・ 」

ヒヤヒヤしながら聞いている小清水。テープが終わり、少し安心したような表情。

小清水「 はあ、何もおかしいとこ、ないやろ 」

古畑「 いや、ホントにここにいらっしゃったんですかぁ? 」

小清水「 しつこいやっちゃな・・・・ 」

古畑「 (納得いかない)しかし・・・・ 」

小清水「 イヌの遠吠えとか車のクラクションとか、入ってたって言うんか? 俺には聞こえんかったわ 」

古畑「 あー! 表にいらっしゃったんですか。わたしは車の中だと思ってました 」

小清水「 誰もそんなこと言うてないっ! 」

古畑「 えー、確かに今のテープには余計なものは入っていませんでした。その点では先生はラッキーでした。しかし、ひとつ問題があります。先生あなた、ここの留守番電話、お聞きになったことありますか? 業務用の方です 」

小清水「 ある 」

古畑「 ちょっとお待ちください。えー番号教わってきたんです 」

古畑、携帯電話のプッシュボタンを押す。
業務用の電話が鳴り、留守番電話のアナウンスが流れ始める。

古畑「 はい、留守電にかかりました。もう一本の方にかけ直します 」

古畑、またプッシュ。もう一方の個人用の電話が鳴る。

古畑「 先生、出てください 」

小清水「 (めんどくさそうな顔で動かず) 」

古畑「 お願いします、出てください 」

小清水、深いため息ついて電話に出る。

古畑「 (携帯で)えー、10時になりましたよぉ 」(後ろでツーツー鳴ってる)

小清水「 (イライラと)何やねん 」

古畑「 えー確かに電話、かけましたよぉ 」

小清水「 何をしたいねん 」

留守番電話のアナウンス、ずっと続いている。

古畑「 はい、おかしいと思いませんか? 安西さん、こっちの方(業務用)にかけて留守電になってたんで、すぐこっち(個人用)にかけ直したって言ってるんです。と、いうことはですね、あなたがこっち(個人用)に出たとき、うしろで今の音が鳴ってたはずなんです 」

古畑、留守番電話の録音を再生。今の小清水とのやりとりが入っている。
録音には、留守番電話のアナウンス、「×月×日×時×分です」までちゃんと入っている。

古畑「 (えー10時になりましたよお、確かに電話かけましたよお、、、)ほら・・・・。しかし、これ(事件当夜のテープ)には、そんな音入ってませんし、あなたからもそんなこと聞いたことない 」

小清水「 ・・・・(無言でせかせかとタバコを吸う) 」

古畑「 (小清水に詰め寄って)先生、ホントはどこにいらっしゃったんですかぁ? 」

小清水「 (バカにするように笑う)ふふふふふハハハ・・・・ 」

古畑「 (つられて笑う)・・・・そんなにおかしいですか? 」

小清水「 あんた、これで何したいっちゅうねん。俺に言わせたら、このテープ、証拠能力ないなあ。安西がウソ言うたかもしれんし、いつかけ直したかもわからへんやないか。こんなもん、法廷で、証拠として出したら笑われるんがオチやぞ 」

古畑「 しかし、これだけは言えます。先生のアリバイはガタガタや 」

小清水「 中途半端な大阪弁、使いなはんな 」

古畑「 あー、すんまへーん。(言い直して)すいません 」

小清水「 アリバイがなかったら、犯人か? 」

古畑「 しかし、アリバイにこだわったのは先生ですよ。先生、ちなみにあの時間、どこにいらっしゃったんですか? 」

小清水「 言われへん 」

古畑「 それはないでしょう。ニセのアリバイまで作って 」

小清水「 人と会うとったんや 」

古畑「 誰と? 」

小清水「 内緒や 」

古畑「 なぜ? 」

小清水「 守秘義務や。依頼人の秘密を守るのが義務や 」

古畑「 (嬉しそうに笑い)んふふふうまく逃げましたねぇ 」

小清水「 よし、そうか。そしたら、俺があいつのマンションに行ったっていう証拠はあんのか? 証拠があったら見せてもらおか 」

古畑「 実は・・・・ありません 」

人を小バカにしたように笑う古畑。
小清水、カチンときて、

小清水「 帰り。帰ってください。明日の仕事の準備があるんですよ 」

古畑「 はい帰ります。失礼しました 」

古畑、素直に退散する。出ようとしたとき、

小清水「 あのな、証人尋問、ええわ 」

古畑「 え? やらないんですか? 」

小清水「 執行猶予取りにいってる時は情状証人は役に立つけどな、それ、昔の話や。あんたが法廷で何を言おうが焼け石に水や 」

古畑「 そんなもんですかぁ? 」

小清水「 傷害致死にしとけって言うたやろ、そやからっ! 」

古畑「 しかし、法廷で証言してみたいですね、こんな経験できるもんじゃありませんから 」

小清水「 悪いこと言わん、やめとくか 」

古畑「 どれだけあいつがバカか、立証してみせますよ。あいつには人なんか殺せないってことを・・・・。ね? お願いしますよぉー 」

小清水「 何、たくらんでんねん? 」

古畑「 たったっ、そんな、たくらむなんてそんな・・・・ 」

小清水「 魂胆、見え見えやないかい 」

古畑「 はい? 」

小清水「 わかった。そんなにしゃべりたいのかい。ほんならしゃべったらええがな。でも、これだけは忠告しとくわ。」
古畑「はい」
小清水少「しでもおかしなことしゃべったら、尋問は中止や 」

古畑「 (小清水の耳元で)えー・・・・おかしなこととは? 」

小清水「 ・・・・・・お疲れさん 」

古畑、その去り際に本音を放つ。

古畑「 えー、小清水先生。わたしはあなたが殺したと思ってます 」

小清水「 ・・・・・・ 」

古畑「 んー友人の人生がかかってるんです。必ずシッポをつかんでみせます 」

小清水「 ・・・・ま、がんばんなはれや 」【SE:主題】

古畑、小清水を鋭くにらみつけたあと、出て行く。

小清水「 ・・・・・・ 」


○資料室(深夜)

調書や裁判記録等、資料を熱心に読んでいる古畑。
ふと、顔を上げる。

古畑「 ・・・・・・(何か気づいた) 」



第八幕〜決着〜

○裁判所・外観


○同・中・法廷

裁判長、検察官、弁護人、以下傍聴席も全員、席に着いている。

裁判長「 これより開廷します。それでは、証人尋問に入ります。古畑証人は証言台の前へどうぞ 」

古畑、証言台へ進み出る。
【SE:  】

裁判長「 これからあなたを証人として尋問致します。その前に、ウソの証言をしないという宣誓をしてもらいます。宣誓書の朗読をお願いします 」

号令(男性)「起立」(オーディエンスの皆様ぜひご起立くださいw)

古畑「 (宣誓書を指でつまんで)あのー、これを読めばいいんですか? 」

裁判長「 お願いします 」

古畑「 はいー(咳払い)何か・・・・いささか緊張します・・・・初めてなモンで・・・・ 」

小清水「 早くっ! 」

古畑「 えーはい分かりました、(右手を上げ)宣誓・・・・(テレて)何か、アレですね・・・・う、運動会みたいですね、へへ 」

裁判長「 証人は速やかに読み上げるように 」

古畑「 はい、わかりました宣誓します。こういう真面目なところへ来ると、テレちゃいましてね・・・・えー、はい、宣誓(咳払い)。良心に従って真実を述べ、(咳払い)何事も隠さずに偽りを述べないことを誓います 」

全員、着席。(オーディエンスの皆様もぜひご一緒にご着席下さいw)

裁判長「 宣誓書に署名、押印をお願いします 」

古畑「 わかりました 」

事務の係りがペンを持ってくる。
古畑、宣誓書にサインする。

裁判長「 ハンコも 」

古畑「 ハンコ・・・・あ、すいません、忘れました 」

裁判長「 母印で結構です 」

古畑「 よろしいですか 」

裁判長「 えー、証人は宣誓したように、必ず・・・・ 」

古畑、指についた朱肉を拭き取っている。

裁判長「 聞いてますか? 」

古畑「 あ、は、はい 」

裁判長「 必ず本当のことを証言してください。宣誓した上で、もし虚偽の証言をすると、偽証罪で処罰されることがありますので注意してください 」

古畑「 わかりました 」

裁判長「 それでは、弁護人、どうぞ 」

小清水、証言台の方へ進む。
傍聴席で見守る稲垣と啓子。
啓子、「がんばって」と小清水にエールを送る。


古畑「えー、どうも」

小清水「 古畑さん、職業は? 」

古畑「 刑事です。殺人課の 」

小清水「 被告人の、上司ですね? 」

古畑「 はい 」

小清水「 被告人とは、長年に渡ってコンビを組んで事件を解決してきた 」

古畑「 そうです 」

小清水「 と、いうことは、被告人は家族よりも深い付き合いだったわけですね? 」

古畑「 んーーーある意味では 」

小清水「 そのあなたが、被告人の人間性をひとつ言っておきたいと伺いましたが。」

古畑「 はい 」

小清水「 手短に 」

古畑「 分かりました、じゃ、手短に言わせて頂きます。えー今泉はですね、わたしが知ってる刑事の中でも最低の部類に入ります。永い間一緒に仕事をしてきて役に立ったことは、一度もございません。しかしながら、これだけは断言できます。彼は、殺人を犯せるような人間ではない。犯罪を犯すほど知的でもなければ行動的でもないんです 」

検事「 異議あり! 」

古畑「はい?」

検事「この期に及んで被告人の人間性について言及しても意味がない 」


古畑「あー」

小清水「 異議なしっ! 」

検事「 ? (え? と、驚き) 」

小清水「 実は、わたしもそう思ったんです。証人は、言いたいことはそれだけですか? 」

古畑「 ですから、ですね 」

小清水「 下がってください」
古畑「はい?」
小清水「終わります! (席に戻る) 」

裁判長「 検察官、いかがですか? 」

検事「 (不思議そうに)・・・・特に、ありません 」

古畑「 いや、わたし、まだ、話終わってないんですよ 」

小清水「 だから証人は下がってよろしい 」

古畑「 裁判長! 今泉、犯人じゃないんですよ 」

小清水「 下がれ言うてるやろ! 」

古畑「 わたし、真犯人、知ってるんです! 」

小清水「 下がれと言うてるのがわからへんのかあぁぁっ!! 」

裁判長「 弁護人! 」

小清水「 ・・・・・・ 」

傍聴席の啓子、驚きを隠せない。

裁判長「 証人、今の発言は、聞き捨てなりませんね。真犯人を知ってるんですか? 」

古畑「 知ってます! 」

裁判長「 弁護人、尋問を 」

小清水、古畑をにらみつけながら、再び進み出てくる。

小清水「 真犯人を知ってるとおっしゃる? 」

古畑「 はい 」

小清水「 どうして知ってらっしゃる? 」

古畑「 えー実はですね、夕べ、知恵をふりしぼって考えたらわかりました 」

小清水「 誰なんですか 」

古畑「 事件当夜ですね、えー、被害者のマンションには、もう一人の男がいたんです、それが犯人です 」

小清水「 どうしていたってわかるんですか 」

古畑「 指紋です 」

小清水「 指紋? 」

古畑「 電話の 」

小清水「 電話に指紋がついてたんですか 」

古畑「 ついてなかったんです。現場から110番通報があったにも関わらず、電話には指紋がなかったんです 」

小清水「 被告人が拭き取ったんでしょう 」

古畑「 いいえ 」

小清水「 検察側から証明があったように、被告人は明らかに隠蔽工作を行っています。電話の指紋を自分で拭き取ると考えるのが自然じゃないんすかぁ? 」

裁判長「 弁護人、あなたは被告人の弁護のためにそこにいるのを忘れないように 」

小清水「 すんまへん・・・・ 」

裁判長「 証人、続けてください 」

古畑「 はい、続けます。今泉はですね、凶器をはじめいたるところに指紋を残しています。電話の受話器にだけ指紋を残さなかったとはどうしても考えにくいです。鑑識によりますと、ご丁寧にプッシュボタンのひとつひとつに至るまで綺麗に拭き取ってあったそうです。そこまで気のつく男が、ドアの取っ手にべっとりと血のりのついた指紋を残していくでしょうか 」

裁判長「 (食いついて)と、いうことは、どういうことですか? 」

古畑「 あの電話はですね、真犯人が今泉を現行犯で逮捕させるためにかけたんです。」

裁判長「なるほど」

古畑「(小清水を見て)こちらの方、優秀な弁護士さんでいらっしゃるのに、どういうわけかそのことには触れてはくださらないんです 」

裁判長「 ちなみに、あなたはその人物が誰だか知ってるんですか? 」

古畑「 はい、被害者の恋人です 」

小清水「 推測け 」

古畑「 その人物は、被害者から先生と呼ばれてました。そして、かなりのネコアレルギーです 」

小清水「 (大声で)確かなことやないですよ! 」

小清水、自席で座っているのがもどかしい様子。
古畑の暴走を止めようと、証言台の方へくる。

裁判長「 どうして、ネコアレルギーだと? 」

古畑「 はい、被害者は、月に何度もネコをペットホテルに預けています。彼が家に来ると嫌がるからです 」

小清水「 旅行に行ってたかも分からへんやんか 」

古畑「 彼女は事件当日もネコを預けていますが、旅行に行く様子はありませんでした 」

小清水「 ネコが病気がちやったとかな 」

古畑「 ちなみに、今泉はネコアレルギーではありません。(今泉に)ネコ、飼ってたよね? 」

今泉「 おしゃまんべ! 」
古畑「うん。」

小清水「 (今泉に)ネコか? ネコみたいなイヌちゃうのか!? 」

裁判長「 証人は、それが誰なのか、名前を挙げられますか? 」

古畑「 はい・・・・ 」

裁判長「 誰ですか? 」

古畑「 ・・・・・・(小清水を直視する) 」

小清水「 (古畑の視線を受けて)・・・・・!! 」【SE:暗転の主題】

古畑「 ・・・・・小清水先生です 」

小清水「 !! 」

今泉「 えぇぇぇっ!! 」

稲垣と啓子「 !! 」

法廷内がどよめく。【オーディエンスガヤ参加歓迎】

小清水「 裁判長っ!」 

古畑「 (小清水を直視したまま)あなたが向井さんを殺したんです 」

ざわつき、どよめく法廷内。【オーディエンスガヤ参加歓迎】


以下赤字は2人同時に喋る
小清水「これは布告罪です!名誉毀損や!審議の中止を要求しますっ!! 」

古畑「 あなたはですね別の女性と結婚することに、、、 」


裁判長「 お静かにっ!! 」

古畑「 先生!あなたはですね、別の女性と結婚することが決まって、向井さんが邪魔になったんです 」

小清水「 そこまでおっしゃるのには・・・・何か証拠でもあんのかいっ! 」

古畑「 あります・・・・(と、上着のポケットから紙切れを出し)えー、この中に・・・・昨日までの、裁判記録のコピーです 」

法廷内の照明、すべて消える。
古畑にスポットライトが当たる。【SE:暗転の主題】

古畑「 (視聴者に)えー完全犯罪と思われた小清水弁護士の殺人。実は、彼はひとつ、大きなミスを犯してました。ヒントは、この裁判記録の中に残されてます。皆さんも、ちょっと考えてみてください。古畑任三郎でした 」


×   ×   ×   ×


うしろのドアが開いて、【ドアが開く音】芳賀刑事が風呂敷包みを抱えて入ってくる。
芳賀、それを古畑に渡す。

古畑「 芳賀くん、ごくろうさま、はい、どうもありがとう、向こうで控えててくれる?」
芳賀「はい」
古畑「えー、裁判長。えー説明をするためにですね、ちょっとこれを使いたいのですが、よろしいでしょうか 」

裁判長「 どうぞ 」

古畑「 ありがとうございます。皆さーん、ちょっーと見て頂きたいのですがえ (ガラスの水差しを高々と上げ)これはですね、殺害に使われた凶器と同じものです。本物は砕け散ってしまいましたが、残った取っ手の部分から、芳賀くんが製造元を割り出してくれました。(芳賀に)ごくろうさまでした、寒い中を。」

芳賀「 とんでもない 」

古畑「 ありがと風邪ひかないようにね ・・・・さて、皆さん、これはーーー、何に見えますかあ? えー・・・・検事さん 」

検事「 ・・・・わたし? 」

古畑「 そんなびっくりした顔しないで下さい。たまには質問に答える方に回るのも楽しいモンですよ。あはは、検事さんこれ、何だと思いますか? 」

検事「 ガラスの水差しですか? 」

古畑「 はいどうも。・・・・裁判長、これー、何に見えます? 」

裁判長「 水差しでしょ? どこから見ても 」

古畑「 ありがとうございます。・・・・記録のお姉さん、これ、何に見えますか? 」

記録係の女「 水差し? 」

古畑「 はいどうも(事務の男に)そこの君、何に見えます? 」

事務の男「 水差しです 」

古畑「どーも」

小清水「 それが何やねん 」

古畑「 そうなんです、これ誰がどう見ても水差しなんです。ところが、一人だけこれを花びんと言った人間がいるんです。小清水先生、あなたです。先生、あなた、犯人はガラスの花びんで被害者を殴ったとおっしゃいましたね、覚えてらっしゃいますか? 」

小清水「 記憶にない 」

古畑「 おっしゃったんです 」

小清水「 そやったか、言い間違いやろ 」

古畑「 んーふふふ言い間違いで逃げるのはどうでしょうか。警察の調書にだって、花びんという文字は一度も出てきてないんですよ。この事件に関わったすべての人間が、凶器は水差しと表現してるんです。あなたを除いてね 」

裁判長「 古畑さん。わかりませんねぇ、それで一体何を証明しょうって言うんですか? 」

古畑「 はい、問題はですね、小清水先生がどうして凶器を花びんと思い込んだのか。調書に水差しと書いてあるにも関わらずです、小清水先生、聞いてくれてますか? 」

小清水「 え? 」

古畑「 お願いしますよ、わたし、一生懸命説明してるんですからね。はい、続けます。事件当夜、今泉は被害者の気を引くために、バラの花を一輪買ってます。間違いないね? 」

今泉「 はいっ! 」

古畑「 はい、ここで大事なのが、ネコを飼ってる家は花びんがないということです。ひっくり返すといけないので、ネコを飼ってる人は大抵花は飾りません。向井さんもそうだった。ですから、彼女の家には花びんがありませんでした。そこであの夜、向井さんは、キッチンから手頃な水差しを持ってきて、それにバラを差したんです 」

小清水「 想像やな 」

古畑「 えーわたしも最初から気になってたんですよ。どうしてコップもないのに水の入った水差しだけがあったのか。花びんの代わりにしたと考えるのが一番自然でしょう。・・・・はい、つまり、こういうことなんです。凶器の水差しが花びんの役割を果たしていたのは、今泉が向井さんにバラをプレゼントしてから彼女が殺されるまでの間だけなんです。その間にあの水差しを見た人間だけがそれを花びんと思い込むことができるんです。そうじゃありませんか、小清水先生。 あなたはですね、向井さんを殴るときに水差しのバラを見た。だから、それを、花びんと勘違いしたんです。えー今泉が薔薇のことを告白したのはついこの間です。検事さんが花屋の証言を持ち出さなかったら、今でも黙っていたはずです。しかし、しかしですね、今泉が話すはるか以前に、あなた一人が水差しに花が活けてあったことを知っていたんです、あなた一人が。えー裁判記録がそれを証明しています 
(記録のコピーを見て)はい、ここに書いてある(紙を叩く)。芳賀くんの尋問のくだり。花びんで頭を殴るのと、ナイフで心臓を刺すのとではどちらがより確実に相手を殺せますか? そして、こうも言ってます。えープロポーズしてフラれるのが儀式のようになっていた男です。どうしてあの日に限って相手を花びんで殴り殺す必要があったんでしょうか。花びん、花びん、花びん、花びん・・・・まだ続けますか? 」

小清水「 もうええ 」

古畑「 え? 何ですって? 」

小清水「 もうええ 」

古畑「 すいません、聞こえませんでした。もう一度、法廷中に聞こえるように、大きな声でお願いします 」

小清水「 (立ち上がって叫ぶ)もうええ、言うてるやろっ!! 」

古畑「 それは、自白と考えてよろしいんですか?! 」

小清水「 ・・・・・ええ 」

古畑「 ・・・・・はい、どうも。えーへへへへ本来ならば、証人発言を残しておくための、裁判記録に足元をすくわれましたねぇ へへへ 」

法廷内、ざわざわと落ち着かない。(オーディエンスガヤ歓迎)

裁判長「 静粛にお願いします 」

古畑「 えー裁判長、こんなところです 」

裁判長「 (嘆かわしげに)わたくしも長年この場所に座っていますが、こんなのは前代未聞です 」

古畑「 そうあることではありません 」

裁判長「 本日は、閉廷します。弁護人、検察官、ちょっと判事室へ 」

小清水、裁判長の方へ。

裁判長「 あ・・・・弁護人は結構です。証人は下がってよろしい。」
古畑「はいどーも」

芳賀、今泉の肩をポンとたたき、

芳賀「 信じてた 」

今泉「 ・・・・・・ 」

今泉、古畑のそばへ行く。

古畑「 (デコをピシャっとはたく) 」

今泉「 (嬉しそうに微笑む) 」

古畑「 (早く行け) 」

言葉はないが、古畑の、今泉に対する愛情表現。
今泉、古畑の愛情をたっぷり受けたあと、出て行く。
連行される小清水。

古畑「 どうも 」

小清水「 (力なく)あんた、ええ弁護士になるな 」

古畑「 ありがとうございます 」

小清水「 今すぐ、司法試験受けなはれ 」

古畑「 (テレて)いやー、自信ないです 」

小清水「 できるだけ早くでっせ 」

古畑「 どうしてですか? 」

小清水「 決まってまっしゃろ。ボクの弁護をするためです 」

古畑「 (笑う)ンフフふふふはははは 」

小清水「 ・・・・頼みまっせ 」

【SE:主題エンディング】



The End 


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