ドリームマッチ2020

6年ぶりにこの企画が実現されましたね。

この企画はTBSが年始に実施していたTV番組で、売れている芸人さんが本来のコンビとは違うコンビでネタ作りを披露するというものです。

各コンビはボケ・ツッコミで別れてそれぞれ組みたい人とフィーリングカップルの要領でコンビを結成する前半と、その何時間か後にネタを披露する後半で構成されています。

今回はコンビを組んでからのネタ作りに2週間という猶予があり、ネタの構成はもちろん、必要な小道具や音楽の準備にも時間を費やすことが出来ていたのかなと思います。

この状況下で閉塞感のある現代社会だからこそ、芸人さんが各々「ウケる」とネタより「やりたい」ネタを、ネタ尺にとらわれずやっているその自由性が、私には輝かしく映りました。

この企画を語る上で、よく芸人さんが「ニン」という言葉が大きく関わってきます。

これはざっくり言うと「人柄」を指すのですが、これはネタに対してよく働くこともあれば、悪く働くこともあります。

M-1を例にとると、かまいたち山内さんは自身の人柄を活かしたようなセリフ回しでウケを取っていたり、その逆でテレビの露出が増え、春日さんのやりたい放題ボケるタイプではない人柄がバレたことで、その後のM-1に出ないという選択をしたオードリーや、それを防ぐために露出を控えているゆにばーすの川瀬名人といった人たちもいるくらいです。
このニンというのは、視聴者が芸人さんに抱くイメージであり、ネタの良し悪しに影響する部分が多いのです。

今回のドリームマッチで出場する芸人さんは、ネタ番組だけではなくトーク番組などの出演数も多いことから、視聴者はなんとなくイメージを持ってネタに臨みます。

そして、芸人さん側も視聴者が自身に抱いているイメージを共有することが出来る感覚を持っている熟練者が多いので、イメージ通りのセリフ回しでウケを取ったり、イメージを壊すネタで意外性を見せたりというアプローチができていたように思いました。

昔はその日の内にネタを披露していたので、期限的にどうしても元々持っていたネタを組んだ相手に合わせて少しだけ書き直したりという対処を取っているようにも見えたのですが、今回は2週間という猶予があったため、それぞれの「ニン」に合わせたネタ打ちが出来たように見えました。


◇千鳥・大悟とハライチ・澤部

千鳥もハライチ両方の漫才のフォーマットっぽいところをあえて使ういかにも「ドリームマッチ」なネタでした。大悟さんも視聴者が澤部さんに抱くイメージを抱いていたからこそのセリフ回しだったように思います。

澤部さんはノブさんより多彩な表情を持っているので、同じ言い回しのボケでもツッコミで色が出てくるのが千鳥にないところだと感じました。

視聴者も澤部さんのツッコミや声のトーンで笑えるようになっているので、「イレイザージャンゴ」という固有名詞だけのツッコミでも表情や言い方を変えるだけでウケが増していくから、ちゃんとツボを押さえているなあと思えました。

何より二人は、志村けんさんのコント番組に参加していたという共通点があったので、2人のコンビが決まった時、若干ウルっと来ました。

◇バイきんぐ・西村とサンドウィッチマン・伊達

こちらは前のコンビとは異なり、王道のコント。

お2人ともネタを書いたことがないということでしたが、西村さんの人柄ともいえる狂人っぽさを残しつつ、伊達さん特有の間合いで突っ込んでいくのでコントとして質の高いものになっていたかと思います。

オチに向けて、しっかりと「助さん」を振っているあたりも玄人だなと思いました。

途中にあった野球選手のツッコミは完全に伊達さんがツッコミたいワードなんだろうなと思いました。わかる人にはわかる面白さって万人ウケする面白さよりも強いですからね。「男塾名物・油風呂」ってわかる人は全国に数%しかいないと思いますし。

一般人の会話でも、グループ内で共有している事柄に絡めてツッコんだり発言したりすると余計に面白くなったりしますし。

伊達さんが唯一見せたエゴイズムのような感じがして私は面白かったです。もちろん角盈男も知ってます。

◇霜降り明星・せいやとバイきんぐ・小峠

惜しいですね。霜降りANNを聞いていたりTwitterで披露されているワンコインものまねだったり、せいやさんって色んなキャラを憑依させることが出来るんですよね。

その基礎スキルがお客さんに伝わっていないのか、観覧客のウケは最初のほう少なめだったように映りました。

ただ、多重人格ネタではなかったような「女形が何回も出てくる」パターンや、「普通の人が出てきたけどほかのキャラを見すぎて面白くない」といった新しい展開があったり、ツッコミ役の小峠さんがどんどんおかしくなっていく様に否が応でも笑わざるを得ないような豪快なネタでした。

◇ロバート・秋山と千鳥・ノブ

優勝も納得の出来でした。

お笑いライターのラリー遠田さんもおっしゃっていますが、演技の苦手な千鳥のノブさんが「本人役」で秋山さんが作り出す世界に入ったことが既に勝因だったように思います。

秋山さんのボケが強いのがロバートのネタなのですが、その中でノブさんの嘆くようなツッコミがアクセントになっていたように思います。

これも、冒頭で「ニン」の話をしましたが、ノブさんも露出度が増えてきたためにツッコミや言い回しに市民権が与えられて、ノブさんのツッコミは「面白い」ものとして認識されているので、「嫌な〇〇」などノブさんのツッコミありきのボケを秋山さんはチョイスしたように見えました。

一番面白かったのは秋山さんが作ったオリジナルの曲に対して「消してくれ」と突っ込んだ下りでした。

あれほどまでに全員が「消してほしい」と思うBGMも秋山さんが用意されたのでしょうし、視聴者への「共感力」の高さを感じました。

自然と秋山さんの憑依芸が多くの人に愛されている大成されている理由がわかったような気がします。

◇ナイツ・塙とチョコレートプラネット・長田

チョコレートプラネットはM-1に出場していることも知っていて、ネタが始まるまでは漫才かなと思っていたので、明転してコントセットが見えたときは正直驚きました。ナイツの塙さんは自身の著書でも漫才に感情を載せられないとおっしゃっていたので、コントの場合どのように映るんだろうと思いましたが、塙さんと同じようなトーンの講師役だったので違和感なく受け取ることが出来ました。

またネタの中で出てくる素っ頓狂なグラフについては、おそらく長田さんが作られたのでしょうが、「グラフ」という誰しもが見たことあるものを題材にとったところで既に面白くなることは確約されていたのかもしれません。

普段見ているグラフとかけ離れればかけ離れるほど面白いのですが、見事に「面白く」映像化出来ていたように思いました。

◇サンドウィッチマン・富澤とナイツ・土屋

こちらのコンビもナイツの「言い間違い」というフォーマットを活かしつつ、ネタ合わせを最初に盛り込むことで「言い間違い」に深みを与えていました。

その中でも横や縦の動きや、コントに入るところはサンドウィッチマンの漫才を踏襲したものであり、途中でボケとツッコミが変わるところは最近のナイツさんの風潮に倣ったようにも見えます。

「サンドウィッチマンさんのコント入るやつやりたいんですよね。」とか「ナイツのボケツッコミ入れ変えるやつやりたい」みたいなほのぼのとした会話が聞こえてくるようなネタでした。

あれだけ動き回る富澤さんも視聴者の持つイメージとは異なるので、そこの意外性もウケに繋がっていたように見えました。「おいおいおいおい」と歩み寄って突進するツッコミ始めて見ました。

◇ハライチ・岩井と渡辺直美

一番のバズりネタですね。

過去、「役者の方が芸人さんが書いた脚本を演じて面白いか」という企画を実施する深夜番組がありました。その中で岩井さんが書いたネタを見たのですが、どちらも歌ネタだったので、渡辺直美さんとのネタ打ちのシーンで、歌ネタじゃないかと予想していました。

衣装のカラーバランスや、耳に残るメロディ、受け入れなきゃいけない設定など完成度の高いネタだったように思います。

世間が抱く岩井さんのイメージからは大分かけ離れていたと思いますので、全演者の中でも「意外性」は一番あったのかなと思います。

◇チョコレートプラネット・松尾と霜降り明星・粗品

ネタを見終わった後に思い出したのは、粗品さんがR-1で優勝した副賞で放送された特番でした。

タイムリープを軸にした街ロケ企画だったのですが、これも粗品さんが好きなカルチャーである「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンドレスエイトに触発されて書いたものだったようなので、今回のサーモグラフィを用いた伏線回収もなんとなく粗品さん主導で書かれたのかなと思いました。

ボケとツッコミがサーモグラフィを介して入れ替わる、うっすらホラーな結末で終わるところは粗品さんがやってみたいコントなんだろうなと感じることが出来ました。

そんな手の混んだ設定の中でも松尾さんのキャラや声質を活かしつつ、「おもれー!」という言い方一つで笑いを取れるポップさも残す構成にしていたのはさすがだなぁと思いました。

◇野性爆弾・くっきー!とオードリー・若林

若林さんも自身のラジオでおっしゃっていましたが、結果が想像できない人と組みたかったという理由で、このコンビは出来たわけですが、完全にくっきーさんのワールドに入っただけの若林さんという感じでしたね。

その中でも、ツッコミのワードが「園子ちゃん」になっていたりなど、「ガラスを割っちゃったとき」の自然な一言を模索した若林さんの苦悩もラジオで語られていましたが、くっきー!さんの作る世界への理解度の高さがうまく作用していたように思います。

若林さんのがっつりとしたコントなんて、テレビのコント番組以来でしたし、窘める役だったので多少の感情は必要だったのですがそれでも違和感なかったのはすごいですね。

感情を押し殺すMCの仕事が多くなってきていても、ラジオの中で感情の赴くままにトークされていたのが感情表現の良いリハーサルになっているのかなとも感じました。

◇オードリー・春日と南海キャンディーズ・山里

オードリーの漫才のフォーマットを軸に春日さんを盛り立てる役回りに立ちつつ、最終的にはさげすんでいるという構成の漫才で、オードリーの漫才に山里さんが上手く介入出来ているように見えました。

春日さんの思惑が伝わっていく伏線の回収から、徐々に伝わらなくなってくるところへシフトしていくところが、謎の爽快感もあって面白いネタだったなと思います。

その中でも、「笑わないときに観客のせいにする」というフリが思わぬところで回収されて、爆笑を生んでいたのは山里さんの構成力がなせる業だと思いました。


〇もし一人加えるなら?

どっちもキャラが強いアンタッチャブルさんが入るのを見てみたいですね。

まだ出てないと記憶しています。

ザキヤマさんと伊達さん、柴田さんとせいやさんなんかも見てみたいですね。


〇来年やるなら?

今までに出ていない第6.5世代と第7世代のネタを書かれている方を軸に見てみたいですね。

さらば森田さん、かまいたち山内さん、ジャンポケ太田さん、ニューヨーク嶋佐さんなどが第6.5世代で、宮下草薙の草薙さんや、ハナコ秋山さん、岡部さん、3時のヒロインの福田さんあたりが第7世代として出場してくださると面白そうだなと期待しています。


こういう厳しい状況にはなりますが、心の底から笑うことが出来たので

「お笑い」がある世界に生まれてよかったなと思います。


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