漫談「僕らの音楽」

昔、『僕らの音楽』って番組ありましたよね。

あれ好きでよく見てたんですよ。

当時は録画で見ると会話の句読点がゼロになるというバグがあったので

毎週リアルタイムで視聴してました。

僕の家庭は、父親がツチノコ専門の靴職人

母親が荒川静香の声マネ芸人という

全く地に足がついていない環境だったので

食卓にはいつもオリジナルの宇宙食が並んでいて

僕はそれを自分の部屋に持って行き

テレビを見たり、カレンダーに嘘の予定を書き込みながら食べるのが習慣になっていました。

ある日、いつものように乾燥した紫色の塊を胃袋に押し込んでいると

急に具合が悪くなり、酷い吐き気と高熱に襲われました。

しかしちょうどその日は『僕らの音楽』の放送日だったので

横になりながらも必死にチャンネルを合わせると

体調のせいなのか、そういう演出なのか

オープニングからずっと汚い水の中で撮影しているような画質で

鍵穴をほじくる音が薄っすら流れ続けていました。

この時点で僕は更に気持ち悪くなったのですが

その後MAXの4人がよく分からない曲を披露している最中に

いきなり音が止まり、ウミガメの映像が差し込まれ

スタジオに戻るとなぜか大きな鏡が乱雑に置かれていて

その中央で逆立ちをした草彅剛が

「多剛鏡(たごうきょう)へようこそ。

あなたの記憶、逆じゃないですか?」

と語り掛け、MAX全員の額にヒビが入るという

健康な時に見てもゲロ吐いてそうな、めちゃくちゃ怖い回でした。

僕はそのまま気を失って、朝まで眠りました。

ただ当時は周りにこの番組を見ている人がいなくて

あれが実際に放送されたものなのか

おふくろの味に幻覚作用があったのか

確認することができなかったんですよ。

それが先日、知り合いと好きなテレビ番組の話をしていたら

「俺、実は僕マニなんすよw  

あっ、『僕らの音楽マニア』ってことっすw

そんなことよりフットサル行きません?w」

と言ってきた奴がいて、おそらくこいつ自体は苦手だけど

あの回のことを確認するチャンスじゃないですか。

それでさっきの話をしてみたところ

なんと全ての回を録画して保存してあるということで

確認させてもらうためにそいつの家に行ったんですね。

『間違い探し』

と書かれた看板の両側に似たような家が建っていて

ベランダで丸い茄子を栽培している方がそいつの家でした。

早速例の回の映像を見せてもらうと

「こんばんはさあ始まりました僕らの音楽今夜も素晴らしいアーティストの皆さんに名曲を披露していただきますそれではまずこの方々に…」

とやはりバグは発生していたものの

途中まで内容自体は当時の記憶通りだったのですが

MAXの曲が始まり、音が止まり、ウミガメり、スタジオに戻ると

巨大な鏡が1つだけ置かれていて、その中で逆立ちをしたMAXの4人が

「一MAX鏡(ひとまっくすきょう)へようこそ

あなたの記憶逆じゃないですか?」

と語り掛け、草彅剛の額にヒビが入って中から鍵穴が出現し

それを開けると小さな宇宙が始まるという

もう逆とかそういう話でもない気色の悪い終わり方で

そのまま僕は生まれて初めて他人の家でゲロを吐き、失神しました。

朝目覚めると部屋は掃除されていて、朝食も用意してあり

「いや意外といい奴だったんかい」

と大声で喚き散らしながら茄子の味噌汁を飲んで帰りました。

その後、なぜか久しぶりに母親のオリジナル宇宙食が食べたくなって

そのまま実家に向かい、食卓についたのですが

普通に美味しい生姜焼きと普通に美味しい白米が出てきたんですよ。

どういうことなのか聞いてみると

「あの時はどうかしてた」と言っていました。

たぶん、普通に食べちゃいけないやつだったんだと思います。



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