漫談「プラモデル」

僕、昔からすごい不器用で

細かい作業とかめちゃくちゃ苦手だったんですよ。

エビフライを作ろうとしたら爆薬ができたり

食事をしてたら上の歯がなくなったり

皿洗いをしてたら街がダムの底に沈んだりもしました。

なので繊細さが必要な物はなるべく避けて生きて来たんです。

特技は大声で趣味は全力疾走です。

ただ唯一、どうしてもやってみたかったことがあって

それがプラモデル作りなんですよ。

よりによってめちゃくちゃ繊細な作業。

でもそんなことできるわけない

ガンプラ作ってたら宇宙戦争始まったりしそう

そう思ってずっと諦めてきました。

それが最近、YouTubeでウクライナ人の喧嘩動画を見てたら

とても興味深い広告が流れてきたんです。

『育つプラモデル』って知ってますか?

最初の組み立てはめちゃくちゃ簡単で、色も塗る必要なし

そしてそれを部屋の真ん中に置いて毎日応援してあげると

徐々に大きくなり、色が付き、上手くいけば最後は喋れるようになるという

育成型のプラモデルなんですよ。

これなら僕にもできるかもしれない。

なんせ特技が大声ですから、応援は人生の一部です。

木を応援して森にしたこともあります。

僕は早速注文して、胸を躍らせながら到着を待ちました。

ちなみに、ここでも不器用すぎて、全然関係ない枝切りバサミとあびる優のフォトブックも一緒に購入してしまいました。

恥ずかしい話です。

そして真っ先にフォトブックが届いてから数日後、いよいよ育プラが到着。

箱を開け、必死に組み立てて、部屋の真ん中に設置。

立ち姿がピン芸人っぽかったので「ハイジャンプ松下」と名付けました。

芸歴7年目で、元吉本の現マセキという設定です。

ちなみにそれまで真ん中に置いていた犬小屋は、犬がいないので捨てました。

夢のプラモデル作りはできたものの、まだ完成ではありません。

その日から毎日、一生懸命応援し続けました。

「負けるなー!頑張れー!」

「まだいけるぞー!頑張れー!」

「耐えろ耐えろー!頑張れー!」

「今回は厳しくても次に繋げようー!頑張れー!」

なぜか常に劣勢な状況を想定しての声援になってしまいましたが

気持ちが通じたのか、逆境に強いタイプだったのか

ハイジャンプ松下はどんどん大きくなっていきました。

ただ一つ問題があって、首から上が全く成長しないんです。

どうやら、顔のパーツと間違えてエビの頭を装着してしまっていたようで

その部分のみが育成対象から除外されていたんです。

更に、そこで消費されなかったエネルギーが他に分散されたのか

身体だけが異常な発達を続け

最終的に、87頭身の生臭いバケモノが出来上がりました。

色はなぜかエビの影響を受け、全身鮮やかな赤でした。

それでも僕にとっては初めての、そして夢のプラモデル。

毎日毎日声をかけ続けた結果、いよいよその時が来ました。

僕は普段、メイド喫茶ですまし汁を作る仕事をしているのですが

作業を終えて帰宅すると、ハイジャンプ松下の様子がいつもと違い

近づいて確認してみたところ

松下のエビ部分が小刻みに震え、かすかに声が漏れ出ていました。

これはついに喋れるようになったのか?

口は完全にエビだけどいけるのか?

固唾をのんで見守っていると、徐々に声と振動が大きくなり

揺れによって右目を失いながらも、もうすぐ聞き取れそうな段階に。

そこで思い切り顔を近づけ、集中して耳を澄ますと

「殺してくれ」

とはっきり聞こえました。

怖くなった僕は枝切りバサミを振り回し、全力疾走で逃げ出しました。

屈強なウクライナ人でも、きっと同じ反応をしていたでしょう。

それからは一度も家に帰れていません。

皆さん、ネットショッピングをする時は十分気を付けてください。

第二のハイジャンプ松下を生み出してしまうかもしれないし

あびる優のフォトブックは何にも使えないので。



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