漫談「Youtube」

実は最近新しいバイトを始めまして

流木にニックネームを付けていくバイトなんですけど

なぜか賄いで餃子が出るんですよね。

怖有難い(こわありがたい)話です。

そのバイト先に宮田さんという

20代前半くらいの大人しい女性がいて

先端が尖っている木に『負けないで』と名付けるほど優しい人なんですが

たまに変なスイッチが入って、突拍子も無いことを言い出すんですね。

「車と木って逆じゃないですか」

「はい?」

「車と木って、逆の存在じゃないですか」

「そうなんですか?」

「はい。それで、そのちょうど中間って何だと思います?」

「えー…何だろう…?」

「リボルバーさんの感覚で答えちゃってください」

「リボルバーさん?」

「あっ、すみません、温度が似すぎてて間違えちゃいました」

「リボルバーと僕の?」

「もちろん」

「もちろん...?」

「それで、中間って何だと思います?」

「えー、中間は…」

「ちなみに私はソリを引いてる中井貴一だと思います」

もう一つも何言ってるか分からないんですよ。

喋ってる間ずっと笑顔なのも怖いし。

でもなんかこう、興味が湧くというか

スイッチ入った瞬間ワクワクするような気持ちもあるんですね。

だって、普段は小っちゃいフォークでサラダ食べながら

キクラゲ飲み込むタイミング見失ったりしてるのに

脳内でベテラン俳優にソリ引かせてるんですよ?

なんか分からないけど

免許証の写真、めちゃくちゃ真面目そうなのに

実は飴舐めたまま撮ってそうじゃないですか?

僕はそう思いますね。

まあそれで、この前もバイト一緒だったんですけど

僕が流木のイスに座って、流木のテーブルで、餃子の餃子食べてたら

向こうから宮田さんが近付いて来まして

「あのー、Youtubeの撮影があるんですけど、手伝ってもらえませんか?」

って言うんですよ。

「Youtube?あの『後で見る』とかの?」

「そのYoutubeです。友達がやってて、少しだけ手伝ってるんです」

「へー、そうなんですね。じゃあ餃子の餃子食べたらすぐ行きます」

「餃子の餃子…?」

それから二人で撮影場所へ向かいました。

その道中、普段どんな動画を上げているのか調べてみたのですが

商品のレビューとか、○○やってみたとか、そういう動画は一つもなくて

『鳩は首の筋肉だけで全身を動かしている』

『長針と秒針は元々コンビ』

『コンビニの店長は全員27歳』

という謎タイトルが並んでいました。

そう言えば何も聞かずに付いて来てしまったけど

今日って具体的にどんなことをするんだ?と気になり

大量のフリスクを口に放り込みながら尋ねてみると

「石って濡れ方に限度がありますよね」

「はい?」

「水をかけても、水中に沈めても全然染み込まないじゃないですか?」

「ああ…」

「表面だけ濡れて、少し色が変わって、放っておいたらすぐ乾くじゃないですか?」

「そうですね」

「悔しくないですか?」

「えーっと……悔しくはないかもです」

「私は悔しいので、今日はその仕返しをします」

これほどまでに理不尽な復讐劇があったでしょうか?

石にとっては純粋な不意打ちです。

僕は想定外の返答に対する驚きと

舌を襲う過度で暴力的な清涼感を逃がそうとする本能で

開いた口が塞がりませんでした。

そして塞がらないまま撮影現場に到着。

友人の女性に挨拶をすると

「あっ、どうもどうも、『脱・真木よう子』です」

と握手を求められ、Tシャツには

『絶対に年賀状を出すな』

と力強い書体で書かれていました。

謎のメッセージ性と加減を知らない握力に圧倒されましたが

その後、世間話でこの深い溝を埋めるような時間は設けられず

すぐに撮影開始、本題である石リンチへ。

要するに、どうすれば石をもっとビショビショにできるかという

不毛であり不要な議論を大人3名で繰り広げていくわけですが

僕も一応何か発言しないと文句を言われそうだったので

「ずっと水の中に入れておく、ってだけじゃダメなんですか?」

と尋ねたところ

「それだと川で流されてる小石と同じじゃないですか。

あれは濡れてるんじゃない、住んでるんだ。

そんなことしたら相手の思う壺ですよ。笑われちゃいます。」

と脱・真木よう子に一蹴されてしまいました。

石って思惑とか感情とかあるんですか?

砂利道で転んだ人間を見てほくそ笑んだりしているのでしょうか?

鉱物版ドクター・ドリトルでも連れて来ない限り確かめようがありません。

最近エディ・マーフィ見ないな。

その後も「石を砕いて水を流し込む」という案を出しては

「倫理的にダメ」「文明人の発想じゃない」「金を払って道徳習え」

などと大バッシングを受け、悪戦苦闘。

それからしばらく、ああすれば濡れる、こうすればビショビショになる、と

僕と脱真木(ダツマキ)による激しい舌戦が繰り広げられていたのですが

そこで宮田さんが一言

「あー、なんかバウムクーヘン食べたくなってきますね」

って言ったんですよ。

皆さんこの感覚あります?

「砂漠の映像を見てたら喉が渇く」

これは分かりますよ?

「ビショビショにする話してたらパサパサの物食べたくなる」

そんなことあります?

どういう感覚?

これはもう、穴の開いた円盤が運んできた未知との遭遇です。

僕は思わず一礼して「初めまして」と挨拶してしまいました。

以後、お見知りおきを。

そして結局、本題の結論は出ないまま日が暮れてしまい

石の運命はダツマキに委ねられ、解散となりました。

後日、石の周りを氷で覆い、その周りを石で囲み、それをまた氷で覆い…

というのを何層も繰り返した狂気の怪作と共に

我々の不毛な議論も動画として公開されていて

僕が確認した時点で2万2000回視聴されていました。

これくらいの需要を長期間保っているコミュニティが1番怖いと思います。

しかしやはり今回はさすがに内容が奇抜すぎたためか

「鉱物愛護団体の者です。今すぐこの動画を削除してください」

「こち亀のパクリ」

「右の人元カノに似すぎてて焦った」

というようなクソコメントで溢れかえっていたのですが

今朝改めて確認したところ、阿部寛の公式アカウントが

「『バウムクーヘン食べたい』というセリフにとても感銘を受けました。

この言葉を胸に刻み、引き続き役者業に邁進してまいります。」

とコメントしていました。

やっぱりあの人センスありますよね。

帰りにテルマエ・ロマエ借りて見ようかな。



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