漫談「空を飛ぶ」

実は先日、生まれて初めて気球に乗ってきましてね。

気球って、飛んでる間ずっとセロハンテープみたいな臭いしてるんですよ。

あれはやめて欲しいですね。

僕は昔から空を飛ぶことに憧れていて

子供の頃はよく

自分の右手とテントウムシの左前脚を1つの手錠で繋ぎ

道連れ飛行を試みたりしていました。

シルクハットから飛び立ったハトを見て

「ハトすごい!ハトの方がすごい!」と騒ぎ立て

マジシャンに先端が花になったステッキで殴られたりもしました。

尊敬している人はもちろん、タヌキマリオとライト兄弟です。

ちなみに色々と調べてみた結果、タヌキマリオに関しては

「結構グッズとか出てる、かわいい」

以上の情報は得られなかったのですが

ライト兄弟について、少し興味深い話が見つかりました。

もちろんライト兄弟といえば、動力飛行機を発明したり

「シンバルはでかすぎる」と批判したことで有名ですが

同じ時代に生きた、もう一組の天才についてはあまり語られていません。

『レフト姉妹』って聞いたことありますか?

活発で、ドアを閉める音がうるさい姉・サラと

大人しくて、ドアを閉める音がうるさい妹・エイミーの姉妹で

彼女たちもまた、歴史に残る偉業を成し遂げているのです。

ライト兄弟が、世界初の有人動力飛行を成功させたのと同じ日

サラは胡椒の蓋を開けるのに苦労していました。

8時間にも及ぶ激しい格闘の末、ついに腕力が容器の強度を上回り

強引に蓋が開けられたのと同時に、中の胡椒が空中に散布され

それを大量に吸い込んだサラは

「世界で初めて、くしゃみの勢いを利用してなんか言った人」

になりました。

今や、その技術は世界各国の中年男性へと受け継がれ

人々の暮らしをより豊かなものにしています。

当時、紙やすりで歯を磨きながらその瞬間を目撃したエイミーによると

サラがくしゃみの後に発したのは

今後の接し方が変わってくるほど汚い言葉だったそうです。

「びっくりしすぎて寝るかと思った」

と言っていました。

更に驚くべきことに、サラのくしゃみの勢いは年々強まっていき

その利用法は「なんか言う」だけに留まらず

「発電する」「髪質を変える」「暴力をふるう」

そしてついには、空を飛ぶことにも成功したと言われています。

その飛行技術は、ライト兄弟が着地点で出待ちをするほど優れていて

「空中で犬を飼い始めた」

「龍かと思ったらサラだった」

「飛ぶ前に漬け始めたピクルスが、着地したらちょうどよかった」

という逸話もあるそうです。

それを知った僕は飛モチベ(ひもちべ)が最高潮に達し

チンアナゴの着ぐるみを脱ぎ捨て、気球に乗り込みました。

幼稚園の運動会を競馬中継の視点で眺めたり

上空で炊飯器を開けて雲の輪郭を曖昧にしたりと

全力で空を満喫し、そろそろ降りようかと下を覗き込んだところ

いつの間にか地面には大量のドミノが並べられていて

努力を盾に気球の着陸を阻んでいるようでした。

仕方ないのでドミノの終着点まで進み、ようやく地面に降りると

そこにはあのレフト姉妹の墓がありました。

現地の方曰く、晩年くしゃみを利用した長距離飛行に挑戦していた二人は

とある寒い雪の日にここ、群馬県桐生市に飛来し

着地でミスって普通に死んだそうです。

ドミノに見えていたのは、無数に供えられたココアとホットミルクでした。

ちなみにこれは諸説あるようですが、妹のエミリーは

「世界で初めて、マグカップを見てかわいいと思った人」

でもあると言われています。

そんな素敵な感性を持っていながら、ドアを静かに閉められなかったことを

僕は非常に残念に思っています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?