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QVC福島の書き起こし2002-2-19

 駅前の繁華街や、デパートのフロアで、威勢のいい工場で商品を売りさばく販売人をよく見かける。話術とパフォーマンスで勝負する「実演販売人」だ。業界の未来を担う若手の実力派プロを追い、体と声を張って不況と戦う商人魂を見た。「さあ、時間のある人もない人も、読まなきゃ損だよ!」ー。

実演販売道若さもウリ

 「健康食品は人によって合う合わないがある。それに引き換えこの青汁、合う合わないはないの。昔から言うよね、青物は薬以上の薬だって」
横浜市中区の横浜松坂屋で、一畳ほどの机に積んだ野菜を絞り器に入れ、ハンドルを回しながら手際よく青汁にすりつぶす小宮悟さん(二六)。青汁絞り器の実演中だ。
 そばに置いていた塩を指すと「この塩は何に効くかって?朝起きた時よく足がつる女性にお薦め。ラグビーの選手がやかんの水をがぶ飲みしてるでしょ、あれ実は塩水。塩は筋肉の活動に必要なもの…」と、沖縄の塩も一緒に販売中だ。
 さいたま市内の家庭用品メーカー所属。二代目だが、独り立ちして全国を回っている。「経費はすべて自腹。何個売るかに生活がかかっている」と汗をぬぐう。

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 皮むき器、クリーナー、ハンガー、穴あき包丁など、生活に身近なアイデア商品を売る実演販売人。所属メーカーの商品専門、複数の会社と随時契約などがあるが、基本的に出来高で報酬を受け取る個人事業主だ。
 十年前に六百人くらいいたが、不景気の影響で現在は二尺五十人前後まで激減した。そんな中、バブル後の厳しい時期に仕事を始めた三十歳前後の若手が息を吐いている。

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佐藤利男(三〇)さんは、この職業を「プロのデモンストレーター」と名付けている。
 元フェザー級のプロボクサーだったが、練習のしすぎで腰を痛め、ボクサーの道を断念。通信販売会社で実演販売人を買って出て五年、独学で技術を取得した。
 「不況の今だからこそ、本当の力が試される。日本一の実演販売人になる」。求道的に打ち込む佐藤さんの姿は、孤高のボクサーそのもの。仕事のつらさに負け辞めていく若者には「仕事に一途になれ。忍耐力が足りない」と一喝する。
 業界では今、小宮さんや佐藤さんら若手と、老練のベテラン勢の間の三十代後半から四十代半ばが空いている。
 好景気の時代に高収入を上げた世代が、長期不況の前週に変えかねて離職した。という背景がある。

七五調の工場スタイルを編み出し業界に新風を巻き起こし今や大御所的な存在が、テレビの通販でおなじみ、マーフィー岡田邦一さん(五七)。現在十人の内弟子を抱えている。
 商品を棚に陳列するだけでは売れない時代。「品質と価格にどれも大差がなくなった今、PRや商品イメージなどソフト面をどう提示するかに、消費者をつかむカギがある」とマーフィー岡田事務所は分析する。
 JR秋葉原駅周辺を拠点にする福島豊さん(二七)は注目の若手の一人。テレビの通信販売での販促イベントなどもこなす売れっ子だ。六年前に岡田さんに出会い、「分かりやすく、聞き手になじみやすい言葉使いに感銘を受けた」。以来、内弟子ではないが、岡田さんを師と仰ぐ。
 「この静電気除去剤、出かける前に衣類にひと吹きするだけ。香水みたいにシュシュっとね。これで煩わしい静電気がピタッと止まる優れモノ!」。最前列の客の手が財布に掛かり、一人、また一人と”落とす”。
 福島さんは、レストランの店長になることも、将来の夢の一つに思い描いている。
 「目の前に商品を買ってもらう対面販売は、すべての商いの基本。どんな仕事をするにせよ、この経験は生きてくると思うんです」
文・栗原淳/写真・中西洋子。石井裕之/紙面構成・谷村卓哉

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