同じシナリオライターとして、だいしゅきホールド起源騒動を見て大いに反省する
日付が変わって一昨日からずっと、騒動のことを考えてしまっている。
後々見て「なんの話だこれ?」と思うかもしれないので大雑把に経緯を書き残しておくと
1:『だいしゅきホールド』という単語を考案したのは自分だと名乗りでた人がいた
2:別の人物も名乗りでた。理由は「ネットミームは誰が考案したのかわからない方がいい。件の発言を撤回してほしい」というもの
3:最初に名乗り出た人物は、自分が考案した可能性は薄いと謝罪した
こういう顛末の騒動だった。
「だいしゅきホールドとかくだらねー」となるだろうが、もし後追いで名乗り出た人物がいなかったら、最初に名乗り出た偽の考案者が『だいしゅきホールド』を商標登録をするとか、ニュースサイトにインタビューされるとか、Wikipediaに記録されるとか、色々な方面で金銭やら名誉やらを不当に享受していたかもしれない。そして今回のようにはっきりと白黒つかず、真相は闇に葬りさられていたかもしれない。文字列から受ける印象よりも深刻な騒動だったと思う。
まあ、それはそれとして。自分としては最初に名乗り出た人物の職業に心が刺さるものがあった。ライトノベルの新人賞を取った小説家で、今はソーシャルゲームのシナリオライターもやっているという。
自分もソーシャルゲームのシナリオが主戦場だ。CSや同人の案件などもたまにはあるけれど、だいたいがソーシャルゲーム関係のシナリオやテキストを執筆している。
私はまず、この最初に名乗り出た人物の過去の発言を見た。
驕り、高ぶり、自己顕示欲、過度の承認欲求が見て取れた。それが全部自分にも思い当たる節があり、跳ね返ってきて、気落ちしてしまった。
例えばこんな発言があった。
シナリオ書いて飯食ってる方が普通に凄いでしょ?
凄くない。いや、凄いのだけど。ことさら際立って凄いことではない。
毎日会社に行って、仕事をしているサラリーマンだってとても凄いと思う。私は電話を全然上手く取れず、上司に「もう電話取らなくていいから」と見切られたレベルだった。名刺交換の作法も調べなおしたし、乾杯の際に自分のグラスを下にするマナーも知らなかった。自分には、サラリーマンは務められなかった。
だいたい職業に貴賤なしというが、物書きというのは残念ながら、やっている人間が言うのもなんだけれど、貴か賤でいったら賤よりだ。
村上龍さんは13歳のハローワークで作家についてこのように書いている。
公式ホームページから引用する。
「作家への道」は作家の数だけバラエティがあるが、作家から政治家になった人がわずかにいるだけで、その逆はほとんどない。つまり作家から医師や教師になる人はほとんどいない。それは、作家が「一度なったらやめられないおいしい仕事」だからではなく、ほかに転身できない「最後の仕事」だからだ。服役囚でも、入院患者でも、死刑囚でも、亡命者でも、犯罪者でも、引きこもりでも、ホームレスでもできる仕事は作家しかない。作家の条件とはただ1つ、社会に対し、あるいは特定の誰かに対し、伝える必要と価値のある情報を持っているかどうかだ。伝える必要と価値のある情報を持っていて、もう残された生き方は作家しかない、そう思ったときに、作家になればいい。
まあ、そういうことだ。だいたい村上龍さんが説明してくださった。流石だ。すげえ分かりやすい。
日本人はだいたいが文字を書くことができ、物書きには資格もなく、名刺を作れば、その時点で、開業届を出す必要すらなく、作家を名乗れるのだ。最後の受け皿という意味では貴く、同時に他にできる仕事があるのならそちらを優先すべき賤しき職業。それが物書き。
にもかかわらず、自分が偉いと思っている。
自分も、そうだった。
ゲーム会社に勤めていたころ、面談でこんなことを言われた。
「おまえはシナリオを書いている自分だけが大変だ、偉いと思っているだろう。他のみんなも仕事をして大変な思いをしているんだ」
当時からそんなことわかっているつもりだった。シナリオだけじゃゲームは作れない。プログラマーさんやスクリプターさんやデザイナーさんがいてくれるからゲームが作れるんだと。
でもそれは表面的な理解で、深層では自分が特別だと思っていたのだ。態度や仕草、表情から隠しきれない自尊心が滲み出て、異臭を放っていたのを指摘されたのだ。あーもー、また書いてて悲しくなってきた。
別に自分が特別だと思うことは悪いことじゃない。誰だって自分の人生では主人公だし。でも他人に特別を強要させるように動いていた。そういう意味で私は彼と同じだった。
自分だって一歩間違えれば虚言を吐いてでも注目を集めたくなっていたかもしれない。過去の栄光に縋り付き、アレ書いたのは俺とか言っていたかもしれない。
自分と言い出しっぺの虚言シナリオライター、違いは何だっただろう。
私には新人賞の受賞歴とかないけど、それはまたおいといて。
たぶん一番は、注意してくれる人が周りにいたということ。ついこの前も私はTwitter、アイマス関係でミスをした。ライブ会場内の写真をアップしていたのだ。それをダイレクトメールでやんわり「それはルール違反では?」的に教えてくれたフォロワーさんがいる。それを見て、確かにと思って写真を削除することができた。今回の人もそうだけど自分が炎上するのはまだいい。仕事をいただいているクライアントさんや、自分が担当しているアイドルに迷惑をかけるのは本当にきつい。みんな本当に良い人だから、自分のせいで迷惑をかけたくない。フォロワーさんに足を向けて眠れない。恥の多い人生を送っています。
だいたいにしてフリーランスになると、注意してくれる人は減る。何かミスをして指摘するよりも「次は使わない」で済ませればいいからだ。だから良いシナリオライターの条件のひとつに『リピート率』というのがあるのだと思うのだけど、ここらへんはまた長くなるからやっぱり置いといて。
注意という、神経や気を使う面倒なことをしてくれる人。嫌われる覚悟で言ってくれる人。最後にSomething ELseの反省のうたから引用して終わります。
困ったときに一番力になってくれる人を大切にしよう 心から僕は思います
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