最強プロデューサー~投票券がチート召喚符で異世界無双

紅蓮の巨龍は、大きく顎を開け咆哮した。大気が震え、地面は揺れる。巨龍の背後にある噴火口から、彼の怒りに呼応するようにマグマが噴きあがる。

ぽっかりと開いた巨龍の口、その奥に赤い光が見える。最初はこぶし大のルビー程度だったが、徐々に膨らみ、まるで小さい太陽のように見えた。

「ブ、極熱火炎放射<<ブレス>>だあぁ!!」

巨龍討伐隊のうちの誰かが叫んだ。絶望と恐怖の色がないまぜになった、慟哭だった。

「チッ!」

超高温度の火炎放射。普通の人間が食らえば骨の一片も残らぬであろう攻撃。即断。俺は懐から取り出した一枚の紙片で対抗する。

「はあっ!」

紙片が薄青くあえかな粒子となって崩壊するのと、巨龍の口から火炎が放たれたのはほぼ同時だった。

炎の舌が俺達を舐めつくすかと思われた、その刹那――

「どもー! ふぇいふぇいダヨー!」

虚空より出現した少女が炎を一瞬にしてかき消していく。

太い眉、頭につけたふたつのシニヨン。ボリュームのあるもみあげ。

その身に纏いしスリットが入った赤いドレスも一切炎の影響を受けていない。その手ごたえの無さに、巨龍の動きが止まる。戸惑いを覚えていることは明白だった。

「中華は火力! もっとこんがり強火じゃなきゃダメダヨ!」

少女は大きく湾曲した深みのある金属製の鍋を手元に出現させる。

「チャーハン作るヨー!!」

鍋を振るう。なんてことのないはずの一撃が、巨龍の身体を抉っていく。

痛みにいななき、のたうち回る巨龍。しかし少女の調理は止まらない。鍋は巨龍に合わせて巨大化し、その全身を叩きつけ、巨龍以上の焔で丸焼きにしていく。

「チャーハンできたヨー!」

そうして、少女は満足した笑顔で消えていく。その場に残されたのは、黄金色に輝く米と、かつて巨龍であった肉片が混ざり合い、半球を伏せた形で盛られた超巨大な大皿だけであった。

「な、なんだ今のは……」「召喚術か?」「なんて美味しそうなんだ……」

討伐隊の面々は呆然としている。それから、徐々に生き永らえたという実感がわいてきたようで、俺へと握手を求めてきたり、肩を叩いて賞賛してくる。

「すごいなお前! 一体どうやってあんな召喚術をマスターしたんだ?」

「どうやってって、俺は楊菲菲に投票しただけだが?」

俺はアイドルマスターシンデレラガールズを遊んでいるプロデューサーだ。

ひょんなことからこのファンタジーめいた世界にたどり着いたのだが、どうやらこの世界では投票券を使ってアイドルを召喚することができるらしい。

「投票? どういうことだ?」「召喚におけるプロセスなのかもしれない」「それにしては詠唱もなかった、あれほど強力な召喚術なのに……」

「詠唱なんかいらないさ。ただこの投票券を取り出して、念じればいいんだ。楊菲菲に投票したい、と」

俺の説明に、討伐隊の面々は目を丸くする。どうやらこの世界における術の概念を覆してしまったらしい。

「お、思うだけであんな召喚術を……」

「なに、想いというのは一番強い心の力。この投票券はその思いを形にしてくれるんだ

「すまない、我々を助けるためにそんな貴重な符を使わせてしまって」

「ああ、そうだ。貴重な券だ、もっと持っておけば良かった」

言いながら、俺はマントを開いてその中を見せる。そこには無数の投票券が収められていた。

「たった15000枚しか持ってないんだ。デレステは10票単位の投票しかできないから面倒で、モバマスでしか課金してなくてな……」

「い、今の召喚符が、い、15000枚も!?」

「なんて数だ……そ、そんなにあれば魔王を倒すのも夢じゃないぞ!」

「魔王……ああ、やっぱりいるんだな、この世界。よし、じゃあ次はそいつを倒すとするか」

俺は、投票券を討伐隊の面々に手渡ししていく。

「護身用にプレゼントだ。みんな、楊菲菲に投票してくれ」

「あ、ありがとう! 必ず楊菲菲に投票する!」

「お、オラもする! あの、楊菲菲って子、可愛かったし!」

「そう、みんなに希望と笑顔を届けるアイドル、それが楊菲菲なんだ!

見てるかフェイフェイ、住む世界、次元が違ってもお前の魅力はしっかりと人々に伝わり、ファンを増やしているんだ。

空を見上げる。大気の鳴動で雲がたなびくように晴れ、一面の蒼穹が広がっている。

あの空の向こうで、フェイフェイが歌っているような気がした。

彼女の歌声を聴いてみたい。だから、ボイスアイドルオーディションに投票しよう。改めて、そう思うのだった。

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