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長所と短所は特徴がないこと。

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  • 現実は妄想よりも美しい。

    フィクション半分、ノンフィクション半分。

最近の記事

その後ろ姿に昔の面影はないだろう

薄く化粧を施した白い肌に、真っ赤な口紅。頬にうっすらとチークを入れると長く伸ばした黒髪を一つに束ねた。 * 3歳年上の彼とは知人の紹介で知り合った。なんの変哲もない出会いから、流れるように交際が始まり、4年が経とうとしていた。 彼と会うときは、必ず髪を下ろす。少しでも可愛いと思われたかったし、時には色っぽいと思われたかった。 たったの3歳差がとても大きく感じて、彼に似合う女性になるために髪を伸ばし、高いヒールも履くようになった。 彼がロングヘアが好きだと言ったわけで

    • 思いを馳せる

      木々のざわつきが木霊してくる。 本土ではまだ夏が名残惜しそうに留まっていたが、この場所はそんな夏を追い出そうとしているかのように肌寒い。 「誕生日おめでとう!」 包みの中身は旅行のパンフレット。 母は包みを開くと私に飛びつき大喜びしてくれた。 働き始めて2年目の夏の終わり、母と行く2回目の二人旅。 屋久島に来るのは二人とも初めてだった。 壮大な海と山。空気はひんやりと澄んでいるが、天気は変わりやすく靄がかかっている。 この島は車で2時間もあれば一周できてしまう程の大

      • つくる

        春に始まったドラマがあっと言う間に最終回を迎えて、また新たなドラマが始まった。 私は医療ドラマと刑事ドラマが特に大好きでよく見ている。 そしてドラマが始まると必ずといっていいほど、SNS上で、"私は医療従事者だけどこんなことはありえない"とか"こんな取り調べあるわけがない"といった論争が繰り広げられている。 私も数年前まで地方の金融機関で冴えない銀行員として働いていたが、ちょうどその頃世間では"半沢直樹"がブームとなっていた。例にもれず私も毎週欠かさず見ていたわけ

        • 運命とは

          "どうして彼の奥さんは彼のことをもっと褒めてあげないんだろう。結婚したらそんなもんなのかな。私だったらずっと彼のことを褒めて愛してあげられるのに" Twitterのタイムラインで流れてきた見ず知らずの誰かの呟き。 彼女は彼と不倫関係にあるのだろう。そして、彼が髪でも切ってきて「褒めてくれるのは君だけだよ」とでも言ったのだろうか。 人は何事も自分の都合の良いように解釈するものだ。 "彼のことを本当に褒めて愛してあげられるのは私だけ" そんな彼も家に帰れば愛してくれる妻

        その後ろ姿に昔の面影はないだろう

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        • 現実は妄想よりも美しい。
          7本

        記事

          丑の日が嫌いな話

          「俺、土用の丑の日にうなぎを食べるとか、クリスマスにディズニーランドに行くとか、そうゆう決まったイベントみたいなの嫌いなんだ。」 二人がまだ付き合いたての頃、彼の口から出てきたセリフ。 私は何気なく土用の丑の日にうなぎを食べようと提案した。すると彼が「言っときたいことがあるんだけど…」とあまりにも真剣な面持ちで言うもんだから何事かと思ったら、このセリフだった。 私は思わず大声で笑ってしまった。 彼はそういったイベントごとに全く興味がなく、イベントの度に大騒ぎするのが好き

          丑の日が嫌いな話

          思い出は美化されなかった。

          「こんなに早く心変わりするとは思わなっかった。」 遠い昔の彼の言葉。 男というのは本当に自分勝手だ。 そして女というのは本当に冷淡だ。 彼との出会いは私が高校3年生のとき。地元のお祭りで友達と歩いているところ声をかけられた。 彼は私より一つ年上で背は高くもなく低くもなく。第一印象は"普通にカッコイイ"だった。 当時はSNSなどもなく、連絡手段はもっぱらメール。しばらくはメル友として連絡を取り合い、交際が始まったのは8月の終わりの台風の日だった。その日が休日だっ

          思い出は美化されなかった。

          叫ぶほどでもない小さな不満たちをこの夏に置いていく。

          セーラー服に白のソックス、ポニーテール。宿題はやったりやらなかったり。どこにでもいる普通の女子中学生。目立つことが嫌い。ビビり。 私も例に漏れず、思春期女子特有の仲良しグループというやつにすがりついていた。別にその仲間が大好きで一緒にいたわけではない。そしてその仲間内で、これまた思春期特有の"ハブる"というやつが行われていた。リーダー的な子の気分次第で。 ある日私がその標的になった。原因も知っている。休み時間、リーダーが思いを寄せている男の子のクラスを訪ねていた(毎日休み

          叫ぶほどでもない小さな不満たちをこの夏に置いていく。

          火薬の匂い

          日増しに強くなる日差しがわずかに残る涼しさを飲み込んでいこうとする頃、私は数あるうちの一つを手放した。 気心の知れた仲間とキャンプの計画を立て始めたのは3週間ほど前。 世間が夏休みに入るとキャンプ場はどこもいっぱいになってしまうため、その前にと慌ててバンガローを予約した。 みんなで食材や飲み物、花火などを持ち寄り車のトランクへ積み込むと数台の車に分かれて目的地を目指した。 「最近、どう?」 運転席に座る彼女が、チラっとこちらを見る。 彼女は仲間内の中でも特に仲が良

          火薬の匂い

          レンズの中

          「いつもの休みは何して過ごしてるの?」 私は窓の外の景色を眺めながら彼に尋ねた。 この部屋を訪れるのはもう何度目だろう。 仕事終わりに気心の知れた仲間と行きつけの居酒屋で憂さを晴らすと、コンビニでお酒やおつまみを買い込みこの部屋で飲み直す。これがいつもの流れだった。 ただいつもと違うのは、今日は一人でこの部屋のインターホンを押したということ。 「んー…大体いつも音楽をかけてぼーっとしてます。」 彼も同じように窓の外の景色を眺めながら答えた。 彼の住むこの部屋は

          レンズの中

          愛しい怒り

          ジジジ…とタイマーが回る音と共に部屋中に香ばしい匂いが広がっていく。 その隣ではケトルがコポコポと音をたててお湯を沸かしている。 一足先に焼きあがったパンを食べ始めた娘はポロポロとくずをこぼし、ヨーグルトのついたスプーンを振り回している。 「こらっ!スプーンで遊ばないの!」 「ちゃんとお座りして食べなさい!」 大きなお腹を抱えながらなんとか布団から這い出し、ひんやりと冷たい部屋のカーテンを開けた。まだわずかに水滴の残るガラスの向こう側は絵に描いたよう

          愛しい怒り

          空気の匂い

          娘を右腕に抱いた夫が玄関の扉を開けるとドアの隙間から外の空気が流れ込んでくる。生ぬるくほんの少しの湿気を含んだ空気。 空はもう薄暗い。 「なんか、今から庭で花火をするときの匂いがする!」 幼い頃、夏になると家の庭で花火をした。手持ち花火の平たい袋を脇に挟み、水を張ったバケツを左手に持った父は、火のついたタバコを咥え、煙たそうにしかめっ面をしながらガラガラと玄関を開けた。父を避けるように両側から流れ込んできた空気は、たばこの煙とともに後ろに立つ私の顔面をしっとりと撫でた。

          空気の匂い