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2023年の聴き始めーーー千葉交響楽団のニューイヤーコンサートのこと

先週の土曜日、つまり、1月14日の山下一史&千葉交響楽団のニューイヤーコンサートが、私の2023年のコンサート初めでした。

最愛のマエストロ・山下一史が、千葉響の音楽監督に就任して、今年で7年。ニューイヤーも今回で7回目です。自分が一番信頼しているマエストロが指揮するオーケストラの演奏で、コンサート通いを始められる幸せがやって来るなんて、8年前には想像もできませんでした。

当日は予報に反して、雨が降って寒い日和でした。一応、折り畳み傘は持っていきましたが、駅まで傘を差さずに歩きました。帰りには、やんでいるような気がしたんですよね。この予感は見事に当たりましたが、いやはや寒かったです(≧◇≦)

閑話休題。

道中の寒さでいささか凍え気味だった心身を、山下さんと千葉響の演奏は、見事に温めてくださいました。
ニューイヤーコンサートは、いつものような演奏会とはちょっと趣向が違います。これは、オーケストラや指揮者によって変わるんですが、山下さんの場合、ヨーロッパのクラシック音楽の伝統を踏襲しておられます。
つまり、華やかなワルツなどの曲をずらりと並べて、新年をお祝いする明るい気分を演出されているのですね。NHKをご覧になる方ですとご存知でしょうが、元日の夜に放送されるウィーンフィルのニューイヤーコンサートです。あの形式を採用されているんですね。

しかも、山下&千葉響の場合、曲数が多いうえ、必ず歌い手を招かれます。この6年(ニューイヤーは、年が変わっての開催なので、山下さんの就任期間より1年少なくなるんですね)、15曲は必ず演奏されてきましたし、様々な歌い手が登場されました。
6年前ご登場だったのは、ソプラノの小林沙羅さん。声楽が苦手、ことにソプラノが苦手な私の耳に、初めてその歌声が柔らかく美しく響いてきた方でした。今回この小林沙羅さんが再登場、ということで、私のワクワクは高まったものです。彼女の歌声に魅了されたとは申せ、彼女のリサイタルに出かけたりはしてませんでしたから、6年ぶりだったのですね。

今回、小林さんが歌われたのは、4曲。その最初が有名なオペラ「蝶々夫人」から、「ある晴れた日に」。このアリア、私、ダメなんですね。それで、プログラム見たとき絶句したもんです。

「いくら沙羅さんでも、・・・・、ニューイヤーで、これかい???」

私はストーリーはざっと知っていますが、観たことはありませんし、観たいとも思っていません。私がオペラを敬遠しがちなのは、たいていの作品でヒロインが残酷な仕打ちを受けて、しかも最後にはどういう形であれなくなってしまうからなんです。観てて、救われないじゃありませんか。

アメリカに帰ってしまった夫・ピンカートンへの変わらない愛を熱唱するアリアです。以前、別の方の演奏で聴いたことがありますが、すさまじい狂気を感じて、背筋が寒くなったものです。

そういうわけで、いささか憂鬱な気持ちで、小林さんの演奏を聴き始めたんです。清楚な水色のドレスでご登場なだけに、余計気が重くなりました。

ところが。彼女が歌い始めたら、私の中で変化が起き始めました。彼女の歌声の柔らかさのためだったのかもしれません。狂気とは違う、一途で純粋な愛情の発露を感じたのです。
しかも、私は小林蝶々夫人の姿から、「蝶々さんは、すべてをわかったうえで、それでもなお、夫を信じて帰りを待っているんだ」と、感じたのですね。決して愚かではない。聡明で一途で純粋。凛としたたたずまいすら感じられる歌声は、私の中にあった憐憫とか ある種の蔑みのような感情を、吹き飛ばすに十分でした。
聴いているうちに、彼女へのいとおしさがこみあげてきて、抱きしめたくすらなった自分を、いささか持て余している私がいました。要するに、再びKOされた、ということなんでしょうね(≧◇≦)

そのあとの3曲でも、様々な表情を見せてくださって、ソプラノの醍醐味堪能した私です。17歳までバレエもなさっていたのだそうですが、それが存分に生きた見事な踊りも披露してくださいました。歌いながらの激しい踊りで(つまりは演技なんですが)、彼女のタフさに舌を巻いたものです。

このソリストに負けてなかったのが、千葉響であり、山下さんだったわけです(山下さんが負けるってのは、おかしな表現ですが)。
ニューイヤーですと、女性の楽団員の方々、華やかな装いなんですが、今年はいつも以上にあでやかで魅力的でした。3年ぶりに着物でご登場の方がいらっしゃいましたが(千葉響の名物なんですね)、客席から「あら、お着物だわ」「着物で、演奏するんだ」とかの囁き声や、ため息も聴かれました。

華やかな装いは、聴き手に明るいエネルギーを与えるようです。私には、これまで以上に、演奏が一段レヴェルアップしたように聴こえました。優雅さはもちろんですが、力強さも加わって、「今年は、攻めてるなぁ・・・」と、頼もしく感じたことです。

ニューイヤーでは、山下さんがMCもお務めで、それも私には楽しみなんですが、今年はいささかお疲れも観えたのが気がかりです。山下さんは、すでに広島で広島交響楽団とニューイヤーコンサートをなさって、お仕事を始めておられるんですけれど、昨年もう大車輪でご活躍でしたから、まだお疲れが抜けきってないのかなと、案じられたことです。

それでも、指揮台ではコンサートマスターの神谷未穂さんが「今年も、山下さんはお元気!」とレポートなさっている通り(これはFacebookでですが)、気迫のこもった指揮ぶりでしたし、MCもユーモアあふれていました。

昨年から始めておられる、千葉ロッテマリーンズのユニホームの上着とキャップに着替えて(それまでは、燕尾服で優雅に熱く、指揮されているわけですが)、ロッテの応援歌の演奏を指揮する”変なおじさん”(私が勝手にそう命名しているだけですが)も継続されて、客席からの笑いも誘っておられたりしました。
千葉響が「おらが街のオーケストラ」と県民に認知されて、ロッテの千葉での開幕戦で演奏される日を夢見てらっしゃるのかもしれません。ニューイヤーの会場に、球団のマスコットキャラクター・マー君とチアリーダーの女性お二人も昨年からご登場ですから、その日も、遠くないかもしれません。

このロッテ球団とのコラボは、コンサートの第3部、アンコールの場面でのいわば、”お遊び”のようなものです。クラシック音楽への”難しい””つまらない””わからない”といったイメージを打破するための、サービスと申し上げてもよろしいでしょう。この後は、「ラデツキー行進曲」という客席と舞台が手拍子で一体化して盛り上がる曲の演奏で、終演です。千葉県のイメージキャラクター・チーバくんも、今年はタキシード姿で登場。山下さんから譲られた指揮台で、千葉響の指揮を立派にこなしていました。

いつもですと、ここで山下さんの「ありがとうございました!」で、お開きになるのですが、今年はご挨拶がありました。

実は今回の会場の千葉県文化会館は、4月から、長期の改修工事に入るのだそうです。千葉響は、新年度から主催公演が増えることになって、「さぁ、行くぞ!」の矢先です。習志野市にあるホールも長期の休館が決まっていますから、ホームホールが2つともなくなるわけですね、一時的にせよ。新年度、千葉響は、県内のめぼしいホールを文字通り”渡り歩いて”公演するのですね。
千葉のクラシックファンは、どうもホールによって、コンサートに行くかどうか決めるところがあるようです。これは、移動距離や手段の問題も絡んではいるらしく、山下さんの指揮ならいける限り行く私には、不思議な気もします。
この7年の間、いろんなところでコンサートをしてきた山下&千葉響。ホールによっては、かなり寂しい集客だったことも私も存じていますから、山下さんが少なからず新年度の雲行きを危ぶんでおられることは察しがつきます。

「千葉響を取り巻く環境が、少しずつ良くなっていることは事実です。このオーケストラが飛躍できるかどうは、この2~3年(が正念場)だと思います。5月から、会場はあちこち変わりますが、今日ここに来てくださっている皆様は、どうか、これからも変わらず千葉響を応援してください!」

山下さんにとって、千葉響を応援するということは、まずオーケストラの演奏を聴いてくれること、なのでしょう。山下さんのこのご挨拶に、温かい拍手が起こりました。もちろん、私も拍手で応えた一人です。改めて、山下&千葉響をできる限り追いかけるぞ! と決意して、名演の余韻に浸りながら、雨上がりの心地よい空気も楽しみながら、帰途に着いたのでした。

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