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気がつけば、パイロン蹴ってた

どうしてこうなってしまったのだろう。

夜風にあたりながら近所を散歩していた。
今日はすごく気分がいい。

いつもと違うルートを歩きたいな。
知らない道を開拓するのだ。

そう思い調子よく進んでいくと
辺りは立派な建物ばかりになる。

「へぇ、こんなとこに高級住宅街なんてあったのか」

興味深くそれぞれの建築趣向を眺めて歩く。
かっけぇ家ばっかだな。

一通り周って満足した。
そんで帰る矢先、
なんだか目につくものがある。

豪邸の道前にズラッと並ぶパイロン。
全てに真新しく「駐車禁止」と書かれていた。

いつもなら、気にも止めなかったかもしれない。
でもその日は違った。

「おめぇの道かよ!」
順番に蹴り倒して進む。

おれはこう判断した。

公道を我が物顔で扱う金持ちが、
無許可に私物を陳列しやがったのだと。

高慢な金持ちを蹴り飛ばした気分。

気持ちが良かった。
世直しだ、これは。

家路につくと、ぐっすり眠った。

朝、うっすらと二日酔いした頭で
すぐに思い出す。

「おれはいったいなにをしてんだ?」

そのことを友人に話した。
返事はこう。

「これ何て言うかわかるか?老害だよ。おまえは自分と全く関係ないことで勝手に切れてんだ。事情も知らないのに」

どうしてこうなってしまったのだろう。
心当たりは、完全にある。

おれにはもう、金なんて必要ない。
3年の無職じみた生活で、確信めいたものがあった。

それはいい。

そしてその確信を世に広めたいと、
書籍化を目指すようになった。

それもいい。

悪いのは、書籍化のために
自分の思いを固定化してしまったことだ。

主張が変わったなら、
本の内容も変えりゃいいだけなのに。

しかも多分、おれの気持ち自体は大して変わっていない。

金なんかなくたって楽しく過ごせる。
でも、あるやつを羨ましがる気持ちだって、
おれには持ち合わせているのだ。

その気持ちをわざわざ自分で押しつぶして、
蔑ろにして、ひどく傷ついてる。

バカじゃねーの。

自由を目指すやつが
一番やっちゃいけないことなのに。

他にもある。

前職の後任が、SNSでおれのことを同僚呼ばわりした。
いやいや年が上で、入社もおれのが早いんだから
嘘でもいいから先輩呼ばわりしろよ。

おれはそいつをブロックした。

昔からあいつの態度には、
おれへのリスペクトを感じなかったんだよなぁ。
なめんじゃねぇっての。

そして考える。

尊敬されてないからってブロックする…
なんて心の狭いやつなんだ。

おれがここまで過剰反応する理由もわかっている。

あいつ金持ちなんだよね、今。
独立して。
金だけじゃなくて、社会的評価もバッチリ。

羨ましいのよ、ただ単に。

そんなしょーもない気持ちを、
自分で認めてやらないと
こんなにもこじれてしまうんだね。

申し訳なかった、よしのぶ。
おまえは思うまま、自由でいてくれ。

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