2つの変数を含む積分を微分する
この記事は 統合自然科学科 Advent Calendar 2023 の18日目の記事です。
はじめに:モチベと注
「$${ \int_{0}^{x} \sin(x-t) f(t)\,dt}$$ を2階微分する」というタスクに会いました。
$${\sin(x-t)}$$に加法定理を使って$${x}$$を分離してから微積分学の基本定理を使えばいいのですが、これをちょっと楽にする公式を教わったので紹介します。
公式を聞いただけなのでそれ以外は自分で補いました。そのため主張や証明に誤りがあるかもしれません。
①ではリーマン積分の範疇で議論が完結するようにしたつもりです。②では(ルベーグ測度での)ルベーグ積分です。
公式
$${f(x,t)}$$が閉区間$${I\times I\subset\reals^2}$$上で$${C^1}$$級であるとする。このとき任意の$${a\in I}$$と任意の$${x\in I}$$に対して$${\int_a^x f(x,t)\,dt}$$は微分可能で、
$$
\frac{d}{d x} \int_a^x f(x,t)\,dt=f(x,x)+\int_a^x \frac{\partial f}{\partial x}(x,t)\,dt
$$
が成り立つ。
$${f}$$の仮定は(特に②の方法で)緩めることもできると思いますが、証明が間に合わないのでこれくらいにしておきます。
証明①:微分および偏微分の定義を使う方法
$${x+h\in I}$$となるように$${h}$$を取ります。
$$
\begin{align*}
\text{(左辺)} &= \lim_{h\to 0} \frac{\int_a^{x+h} f(x+h,t)\,dt-\int_a^x f(x,t)\,dt}{h} \\
&= \lim_{h\to 0} \left[ \frac{\int_x^{x+h} f(x,t) \,dt}{h} + \frac{\int_a^{x+h} f(x+h,t)-f(x,t) \,dt}{h} \right] \\
&= \lim_{h\to 0} \left[ \frac{\int_0^{h} f(x,t+x) \,dt}{h} + \int_a^x \frac{ f(x+h,t)-f(x,t)}{h} \,dt \right. \\
& \qquad \left. \qquad +\ \int_x^{x+h} \frac{f(x+h,t)- f(x,t)}{h} \,dt \right] \\
\end{align*}
$$
と変形します。
$${f(x,t+x)}$$は$${t=0}$$で連続なので、微積分学の基本定理より第1項は
$$
\frac{d}{dy}\int_0^y f(x,t+x)\,dt=f(x,x)
$$
です。
第2項については、$${\frac{\partial f}{\partial x}(x,t)}$$が有界閉区間で連続、従って可積分であることから、$${\lim}$$を積分の中に入れられるので
$$
\int_a^x \lim_{h\to 0}\frac{ f(x+h,t)-f(x,t)}{h} \,dt = \int_a^x \frac{\partial f}{\partial x}(x,t)\,dt
$$
です。
最後に第3項ですが、$${f(\cdot, t)}$$は$${[x, x+h]}$$で連続、$${(x, x+h)}$$で微分可能なので平均値の定理より
$$
f(x+h,t)- f(x,t)=h\frac{\partial f}{\partial x}(c_t,t)
$$
となる$${c_t \in(x,x+h)}$$が存在します。有界閉集合上の連続関数は最大値と最小値を持つので、
$$
\begin{align*}
\left| \lim_{h\to 0} \int_x^{x+h} \frac{f(x+h,t) - f(x,t)}{h} \,dt \right| &\leq \lim_{h\to 0} \int_x^{x+h} \left| \frac{\partial f}{\partial x}(c_t,t) \right| \,dt \\
&\leq \lim_{h\to 0} \max_{(x,t)\in I\times I} \left| \frac{\partial f}{\partial x}(x,t) \right| \cdot \int_x^{x+h} \, dt \\
&= 0
\end{align*}
$$
となり、証明できました。
証明②:定義関数を使う方法
準備
$$
\chi_{_A}(t)=
\begin{cases}
1 & (t\in A) \\
0 & (t\notin A)
\end{cases}
$$
を集合$${A}$$の定義関数と言います。有界閉区間の定義関数は可積分です。$${a \leq b}$$とすると、区間$${[a,b]}$$の定義関数$${\chi_{[a,b]}(t)}$$は階段関数
$$
H_c(t)=
\begin{cases}
0 & (t<0) \\
c & (t=0) \\
1 & (t>0)
\end{cases}
$$
を用いて
$$
\chi_{[a,b]}(t)=H_0(t-a)+H_1(b-t)-1
$$
と表せます。積分する上では1点の値はどうでもいいので以降$${c}$$は省略します。
$${H(t)}$$は$${t=0}$$で連続でないので通常の意味では微分不可能ですが、シュワルツ超関数の意味で微分可能で、$${\partial_t H(t)=\delta(t)}$$が成り立ちます。$${\delta(t)}$$はディラックのデルタ関数です。$${\alpha}$$に関する超関数微分を$${\partial_\alpha}$$で表すことにすると、先程見た等式から$${a \leq x}$$で$${\partial_x \chi_{[a,x]}(t)=\delta(x-t)}$$が分かります。
さて、やりたいことは次のような計算です。
$$
\begin{align*}
\frac{d}{dx} \int_\reals \chi_{[a,x]}(t)f(x,t) \,dt
&= \int_\reals \partial_x \left[ \chi_{[a,x]}(t)f(x,t)\right] \,dt \\
&= \int_\reals \delta(x-t)f(x,t)+\chi_{[a,x]}(t)\frac{\partial f}{\partial x}(x,t)\, dt \\
&= f(x,x)+\int_a^x \frac{\partial f}{\partial x}(x,t)\, dt \qquad (?)
\end{align*}
$$
ですが、この式変形だけを見ると数学的には怖いです。通常の意味で微分不可能な$${\chi_{[a,x]}(t)f(x,t)}$$が単独で微分されていますし、そもそも$${\chi_{[a,x]}(t)}$$と$${f(x,t)}$$の超関数としての積が定義されるのかも気になります。その辺りをできるだけきっちり詰めたいと思います。
$${\chi_{[a,x]}(t)f(x,t)}$$を超関数として見るために少し準備をします。$${f(x,t)\in C^1(I\times I)}$$のとき、適当に拡張することで
$$
\tilde{f}(x,t)=f(x,t) \quad {}^\forall (x,t)\in I\times I
$$
となる$${\tilde{f}(x,t)\in C^1_c(\reals^2)}$$をとれます(下付き$${c}$$はコンパクト台を持つという意味です)。さらに$${n\to \infty}$$で$${j_{\epsilon_n}(x)\to \delta(x)}$$となる軟化子$${j_{\epsilon_n}:\reals\to\reals}$$を用いて
$$
f_n(\cdot, t) \coloneqq j_{\epsilon_n}*\tilde{f}(\cdot,t) \in C_c^\infty(\reals)
$$
を作ります。$${*}$$は畳み込みです。この$${f_n}$$は$${t}$$を固定すると$${n\to \infty}$$で一様に
$$
f_n\to \tilde{f},\ \frac{\partial f_n}{\partial x}\to \frac{\partial \tilde{f}}{\partial x}
$$
という性質を持ちます(黒田「関数解析」の命題6.13)。コンパクト台を持つ滑らかな関数になったので、
$$
\langle f_n(\cdot,t) g,\varphi \rangle =\langle g, f_n(\cdot,t) \varphi \rangle
$$
によって$${f_n(\cdot,t)}$$をシュワルツ超関数の集合$${\mathcal{S}'(\reals)}$$上の掛け算作用素として見ることができます。よって超関数の積として$${\chi_{[a,\cdot]}(t)f_n(\cdot,t)\in\mathcal{S}'(\reals)}$$が定まり、微分の際にライプニッツ則を用いることができます。
これまでの話とは独立に、$${\int_\reals \chi_{[a,\cdot]}(t) f_n(\cdot,t)\, dt}$$は連続なのでシュワルツ超関数です。
本題
あとは計算です。$${a \leq x}$$とします。$${\chi_{[a,x]}(t),\ f_n(x,t)}$$をそれぞれ$${\chi, f_n}$$と略記します。また$${\left\langle \ ,\, \right\rangle}$$は$${x}$$についての積分とします。
$${x}$$を変数にとるテスト関数$${\varphi\in C_c^\infty(\reals)}$$を任意に取ると、
$$
\begin{align*}
&\quad \left\langle \partial_x \int_\reals \chi f_n\, dt, \varphi \right\rangle\\
&= -\left\langle \int_\reals \chi f_n\, dt, \varphi' \right\rangle\\
&= -\int_\reals\left\langle\chi f_n,\varphi'\right\rangle\, dt \qquad \because\text{フビニの定理}\\
&= \int_\reals \left\langle \partial_x \left(\chi f_n\right), \varphi \right\rangle \, dt \\
&= \int_\reals \left\langle \delta(x-t)f_n(x,t)+\chi_{[a,x]}(t)\frac{\partial f_n}{\partial x}(x,t), \varphi(x) \right\rangle \, dt \\
&= \int_\reals f_n(t,t)\varphi(t)\, dt + \int_\reals \left(\int_\reals \chi \frac{\partial f_n}{\partial x} \varphi \,dx \right) \, dt \\
&= \int_\reals f_n(x,x)\varphi(x)\, dx + \int_\reals \left(\int_\reals \chi \frac{\partial f_n}{\partial x} \, dt \right) \varphi \, dx \qquad \because\text{フビニの定理}\\
\end{align*}
$$
です。以上の計算により、
$$
\partial_x \int_a^x f_n(x,t)\, dt = f_n(x,x) + \int_a^x\frac{\partial f_n}{\partial x}(x,t)\, dt
$$
が超関数の意味で成り立ちます。右辺はコンパクト台を持つ関数なので、埋め込みによる同一視から等式は急減少関数の意味でも成り立ちます。よって左辺は通常の意味の微分として存在し
$$
\frac{d}{dx} \int_a^x f_n(x,t)\, dt = f_n(x,x) + \int_a^x \frac{\partial f_n}{\partial x}(x,t)\, dt
$$
が$${x}$$について恒等的に成り立ちます。
あとは両辺で$${n\to \infty}$$とすれば、被積分関数の極限はそれぞれ可積分なので、極限を積分の中に入れることができます。積分区間$${[a,x]}$$では$${\tilde{f}=f}$$なので、
$$
\frac{d}{dx} \int_a^x f(x,t)\, dt = f(x,x) + \int_a^x\frac{\partial f}{\partial x}(x,t)\, dt
$$
となり、証明できました。$${x < a}$$の場合は最初に両辺にマイナスをかけて積分区間を反転させればほぼ同様に証明できます。
おわりに
②の証明がなかなかうまくいかず18日も終わりかけていますが、なんとか形になったのでほっとしています。後から見返して修正するかもしれません。
誤りやもっと簡単な導出方法があればぜひ教えてください。
noteの$${\KaTeX}$$は慣れないと書きにくいですね…。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?