見出し画像

揺籠とクローバーを聴いて

🚨『揺籠とクローバー』を聴いて浮かんだイメージに捏造の物語を勝手につけました。

🚨いつかどこかで見たような物語の寄せ集めです。

🚨せっかくの名曲を汚していると感じる可能性があります。

🚨削除等の要求に応じられない場合がございますので、覚悟の上お進みください。

🚨気分を害された場合でも、一切の責任を負いかねます。


男は医療分野の研究者として 大変優秀であった。研究の成果が 実際の医療現場で活用され、たくさんの人々を救う程に結果も出していた。

忙しくはあるものの、家族や職場にも恵まれ地位もある。 順風満帆 な毎日を送っていた。

そんな毎日がずっと続くと、何も疑わない日々。

しかし、突然の事故で愛する家族を一度に失ってしまう。

男は絶望し 、心を閉ざした。

あまりにも変わってしまった男に、周りの仲間からも距離を置かれ一人きりの研究室で夜も昼もなく研究に没頭した。

男は 愛する家族すら救えない研究者。自分の生きる意味を自分自身に問いた。

残りの命をどう使うか…愛する家族と過ごすこと以外に望むことはなかった。

愛する妻に似せた最初のものは、質感は大変良く出来たが、目の合わないただの人形だった。

大きい身体では 難しいと思い直し、一つめは 小さい子供の姿で作った。

これは、大変に出来がよく愛する娘によく似ていた。身体の機能も正常で、本物の人間そのものであった。

それならばと、愛する息子によく似せた二つめを作った。こちらも成功したが、循環機能に欠陥が見つかり、何度か手を加えた結果 傷だらけの身体になってしまった。

二つは 概ね元気であり、食事をし 学習をし、夜は眠った。

次第に会話も出来るようになり、二つにも自我を確認出来た。

一つめは 学習能力が高く、男を驚かせた。しかし、感情が表に出にくく表情に乏しかった。

二つめは 好奇心旺盛で色々なことに興味を持ち、男の話すことに目を輝かせ よく笑った。

今はまだ 格子の付いた部屋から出すことが出来ないが、もう一度妻に似せた三つめを成功させて 大昔に住んでいた場所に戻り、かつてのように暮らすことが 不可能ではないのかもしれないと、夢が 現実に近づいている実感があった。

しかし、それが叶うことはなかった。

男の所業が周りに知られ、騒ぎになり、禁忌を冒した者として政府からは追われ、金に目が眩んだ者からは狙われた。

もう大事なものを失いたくない男は、二つを連れて逃げ出した。

人混みに紛れ、息を殺しながらの逃亡は 楽なものではなかった。しかし 二つの手を引き、冷たい指の先から確かな命を感じ、そんな時間さえ愛しく感じ始めていた。

何本も電車を乗り継ぎ ある駅で電車を待つ時間。声をあげ 立ち止まった 傷だらけの一つ。声の先には、プラットフォームのコンクリートの間に咲くクローバー。それを見つけ、しゃがみこんだ。

いつの間に覚えたのだろう。一つめがクローバーとその花について教えている。

 研究室に籠り、季節や時間を意識しなくなってどれくらいだろうと思いながら 春の記憶に思い巡らせていた。

その時、ふと手に触れられる感覚があり 下を見下ろすと、傷だらけの一つが摘んできたクローバーを男に差し出した。

追っ手に怯え、眠れず疲労も溜まっていた。疲れて酷い顔をしていたのだろう。思いがけない 二つの思いやりに、男は膝をついて二つを抱きしめ泣いた。

似せているが、別のもの。それを理解した上でも 間違いないく二つを愛している。そう思った。

電車を降り、バスに乗り換え、さらにどれだけ歩いただろう。

森の中の細い道を抜けると、さほど大きくもない家が現れた。以前 男と家族が暮らしていた家である。

男は、家の中のことをざっと説明すると、「必ず戻る。」と二つを抱きしめ、出て行った。

しかし、男が再び二つの前に生きた姿を現すことはなかった。

「家からは出るな」男との約束を守り、1日を部屋の中で過ごしたが、困ることは何もなかった。

家は大きくはないが、二つだけでは十分な広さ、たくさんの食料とたくさんの本。夜は、大きさの違う同じ形の揺籠の中で眠った。

二つは、本の中に出てくる海の写真や、自分達とは形の違う生き物の図鑑。魔法の使える物語の絵本。それぞれのお気に入りを見つけ、想像を膨らませて、語りあった。いつか叶えたい夢も、二つの両手の指では足りないくらいたくさん出来た。

その夢の中でも二つの一番の夢は、男と二つによく似た二人。そして優しい瞳で微笑む女の写っている写真の美しい場所に行くことだった。

窓から見える空が爽やかな青から、高く薄い水色に変わり、そして窓を叩く風の音が冷たくなると 急に寒くなった。

二つは相変わらず部屋の中で生活し、夜は身体を寄せあって眠った。厳しい寒さのせいか、傷だらけの一つが体調が悪いが日増えた。それでも、明るい笑顔が もう一つを苦しくさせた。

男の置いていった薬を飲み 凌ぐ日々が増え、それでも 冬を越し 持ちこたえた。

春になり 窓から入る柔らかな日差しが、あまりにも暖かく二つを包むので、たまらなくなり ドアを開いた。

部屋を出ることがどんなに恐ろしい事かと 怯えて生活していたが、ドアの向こうに広がる景色は美しく、とても眩しかった。

傷だらけの一つも、調子が良さそうなので 二つで探検することにした。一つめは、図鑑を持ち出し木や木の実の名前を照らし合わせて遊んだ。傷だらけの一つは本で読んだ、魔法の呪文を唱えて空を飛ぼうとして失敗したが 、二つで初めて大笑いした。

森を抜けると 丘があり 、森の深い緑とは違う優しい緑色をしていた。いつかの駅で見つけたクローバーがたくさん咲いていた。

クローバーの絨毯に寝そべると、みずみずしく優し葉の香りと、花は濃厚な蜂蜜の匂いがした。

暖かい日差しと、優しい緑の香り、ゆっくり流れる雲の形を眺める二つに、穏やかなこの時間がずっと続いて いつまでも幸せでいてほしいと願わずにはいられなかった。

一つめが森の中で摘んでいた 小さな花とクローバーの花と葉を合わせて、おそろいのコサージュを作った。 お互いの手首に巻いてやる仕草は、とても美しく 神聖な儀式を見ているようであった。 

春は穏やかに過ぎ、体調の良くない傷だらけの一つには、厳しい夏の暑さがやってきた。

調子の良い日は、相変わらず二つで外に出かけた。日陰で横になり、風を感じていることの方が部屋に籠って寝ているより気分が良かった。

傍らでは、傷だらけの一つがお気に入りの物語を、もう一つが読み聞かせて過ごした。

季節がさらに巡り、過ごしやすい気候になっても 体調が良くなることはなく、外に出る程 体調の良い日は減り、揺籠から出ることさえ ままならな日が多くなった。

森の中の家に来て、2回目の冬。一つめは、とても怖かった。傷だらけの一つの体調が悪くなった季節。相変わらず笑顔を見せる姿をみるのは辛かったし、自分も明るく振る舞わなければならなかった。皮肉にも、失われそうな命を 失いたくない想いで、傷だらけの一つを愛してることを実感した。

一つめの看病のおかげか、なんとか命は繋いでいるが、もう起き上がることは出来ない。瞳の光は弱く、それでも物語をねだり、小さく微笑む。

そんな傷だらけの一つを見るのが苦しくなり、目を逸らす もう一つ。ふと窓の外を見ると、冬の終わりを感じる日差しに、久しぶりに ドアを開けた。

春の香りが部屋の中に吹き込み、一つめに春の記憶が蘇った。駅で話した、クローバーの花言葉と四葉のクローバーのジンクス。丘の上で作ったおそろいのコサージュ。楽しかったあの日。あの元気をくれる笑顔。思い出して、駆け出した。

丘の上のクローバーは、変わらず今年も咲いていた。去年とは違う意味と願いを込めて、どれでもいいわけではない。震える手でクローバーを探した。

間に合ってほしい。叶ってほしい。愛する一つのために自分ができることは、なんでもしたい。願いは…。

部屋に戻ると、傷だらけの一つは、眠っていた。目的のクローバーと花を集めるのに時間がかかったが、ささやかだけど 色鮮やかな花飾りが出来た。

眠っている枕元に花飾りを置くと、傷だらけの一つは目を覚まし、目に涙を浮かべながら、今できる最高の笑顔を見せてくれた。

手渡してやると、宝物だと言ってもう一つと花飾りを抱きしめた。

もう一つも、抱きしめ返し お互いの存在を確かめながら 眠った。窓にさす光で目を覚ました一つめが、目線を戻すと、幸せそうな顔で眠っているような傷だらけの一つ。力が尽きても離すことがなかった、宝物だと言ってくれた花飾り。添えられた小さな四葉のクローバー。

間に合ったのだろうか。幸せだったのだろうか。四葉のクローバーが小さすぎたから、叶わなかったかもしれない。もう一つは泣いた。男が駅で見せたような姿で。

残された一つは、どう過ごしていいのかわからなかった。傷だらけの一つは 動かない。時が止まったままの部屋で、自分と季節だけが呼吸している。

並べた揺籠の中で、思い出と少しのものだけを食べた。何回季節が変わっただろう。薄れていく記憶を物語を語り聞かせるように、呟きながら 終わりを待った。

…もう一つが 物語を誰かのために語ることは もうない。

時が止まったままの部屋も朽ち始め、割れた窓から吹き付ける風が 揺籠を揺らし続ける。

風に晒され、揺籠の中で形を変えて溶けてゆく愛したもの達を 、男は何も出来ずに見下ろすしかなかった。

神を冒涜した罰なのか。愛する家族の復讐なのか。身体を無くし、何も出来ないまま、ただ流れていく膨大な時間と、季節の変わる音だけが巡る。

揺籠とあの二つはもう朽ち果て、何度目の朝日なのかもわからなくなったある日。

窓辺に差した光に目を奪われ、導かれるようにあの丘への道を辿った。

森を抜けると 遮るものが無くなった丘の端で、暖かく心地よい春のそよ風が男の頬を撫でた。

丘を照らす光に目を凝らすと、春の風に揺れる たくさんのクローバー。そこに座って花飾りを作る二人と二つ。そして、変わらない優しい微笑みの最愛の人。こちらに気づくと みんなで手を振ってくれた。

男は 招かれるように春風に背中を押され、丘に向かって歩き出した。

これから ずっと いつまでも その場所で。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?