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古地図の年代

南虐を推理する際には当時の地図が非常に重要な資料になります。出来ればば南京戦と同じ年に測量された詳細な地図もしくは航空写真が入手できれば最高なのですが、どうもそういった物は存在していない様です。そこで他の年代に刊行された地図を参考にするのですが、発行年と測量された年代がズレれていると思われるものが幾つかあります。場合によっては測量された年代がいつ頃なのか?から判断しなくてなりません。私がそれを判定する目安にしているのは「新街口~漢中路~漢中門」ルートが地図に描かれているかという点です。
中華民国国民党は1927年に南京を占領した後、1930年頃から都市整備を始めています。その際に建設された施設や道路が数多くあり、それをランドマークとすることで地図が測量された年代を判定することができます。

■ 南京都市整備

https://zh.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%96%E9%83%BD%E8%AE%A1%E5%88%92

南虐を研究している方にはおなじみの新街口のロータリーは1931年頃に整備され、その後に漢中路、漢中門(1933年)が建設されます。ちなみにロータリー中央に立つ孫中山(孫文)の銅像は南京戦後に日本が設置したもので、南京戦前にはありませんでした。

1940年代の新街口のロータリー(ヘッダ・モリソン撮影)

以下にネットで拾った古地図の年代と評価をしてみます。

■ Nanjing Map [2万5千分の1] (1927年)

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Old_maps_of_Nanjing#/media/File:Nanjing_1927_AMS-WO.jpg

見やすく分かり易いので良く参考にする地図です。

初版1927年

枠外に1945年改訂とありますが

・新街口ー漢中路ー漢中門が描かれていない。
・南京都市整備(1931)以降に建設された施設が描かれていない。
・鉄道路線の拡張部分が描かれていない。
・城内の建物が少なすぎる。

等々から、初版の1927年から大きな加筆、改訂は行われていません。ですからこの地図は1927年の地図と見るべきでしょう。

■ 南京附近図 [1万分の1] (1934年)

Google検索

航空撮影に寄るものですが入手可能な地図の中では一番詳細で正確だと思われる地図です。

(画像を繋ぎ合わせたもの)

私がネットで拾ったデータは一部が欠落していました。よく見るとこの地図は3種類の異なるスキャン画像を寄せ集めたもので、同じ航空写真を元に作られた3種類の別版または改定版が存在する思います。

■ 南京市街近傍図 [2万5千分の1] (1937年)

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C11112010600

南京戦と同年に日本軍が作成した地図です。その為か南京戦の研究に良く用いられているようです。航空写真から起こしたものですが、地形の歪みが非常に大きくなっている部分があるので注意が必要です。

(画像を繋ぎ合わせたもの)

当時、中国軍は海外から航空機を購入しており、日中戦争当初は航空機戦で日本空軍はかなり撃墜されたと言われています。そういった状況ですから敵の本拠地である南京の上空を飛び回って呑気に航空撮影するなんてことは出来るはずもなく、数枚の少ない画像からこの地図を起こしたのだと思われます。そのため地形の歪みが半端ないです。

■ 最新南京地圖 [2万分の1] (1937年&1938年)

1937年版  https://lapis.nichibun.ac.jp/chizu/map_detail.php?id=002237808

1938年版  https://lapis.nichibun.ac.jp/chizu/map_detail.php?id=001308907

1937版は「新街口-漢中路-漢中門」が描かれていないので1931年より前に測量された古いデータを元にしていると思われます。

1938版では漢中門は描かれていませんが「新街口-漢中路」は描かれていますし、新城門とそれに繋がる道路も描かれていますので、改訂されているのが分かります。

これらの地図とよく似た地図は戦前、戦後に数多く作られています。恐らくすべて同じ地図を元に少しづつ手を加えて作られたものだと考えられます。

■ 南京市街道詳図 [2万分の1] (1948年)

戦後に発行された地図ですが、戦後の市街の変化はある程度反映されているようです。

■ 航空撮影による地形の変形

ここで紹介した地図は全て航空写真がベースになっているので大なり小なり地形の歪みが生じています。航空写真は中心からズレるほど歪みが大きくなるので真下しか正確に撮影することはできません。高高度から撮影すれば少ない撮影枚数で広い領域をカバーできますが、写真の端の方では何百メートルも位置がズレていたり、地形が極端に変形することがあります。正確さを優先するのであれば低高度で多くの枚数を撮影しなければなりません。一般的に縮尺の大きなものほど地形の歪みが大きくなる傾向があります。正確な地形や距離が考証にとって重要な意味を持つ場合は、その点を十分に考慮しなければなりません。