【第30講】新判例情報(457頁)
“新判例”というにはかなり時間が経ってしまいましたが、合併等の組織再編の際の株式買取請求手続に関する新たな最高裁の判例が令和5年10月に出ていますので、その情報をお知らせします。
合併等の組織再編に反対の株主が株式買取請求権を行使するためには、基本的には、まず、組織再編議案を審議する「株主総会に先立って」「会社・・・に対して」「合併等に反対する旨」を通知し、そのうえで株主総会で実際に組織再編議案に反対票を投じる必要があります(785条2項1号イ・797条2項1号イ・806条2項1号)。
ここで、皆さんもパッと思いつくであろう、「反対する旨」の会社に対する通知の方法としては、「私はこの合併に反対する」旨を記した書面を株主が作成してこれを会社に送付することだと思われますが、最決令和5年10月26日裁判所webサイト(民集77巻7号1860頁)は、会社側が作成して株主に対してその提出を勧誘した議決権の代理行使の委任状であって、当該合併議案に反対の議決権行使をすべき旨の記載があるものが会社に送付された場合も、株式買取請求の前提となる「反対する旨を・・・会社に対し通知し」たことになるとしました。
もっとも、この最決の判断内容は「反対通知は委任状の送付でも可能」という簡単な話ではなく、「委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案」した場合に反対通知があったと評価してよい場合がある、という話ですので、本決定の要旨がどこまでの一般的通用性を有するか(本件は公開会社でない会社の事案ですので、上場会社でも同じことが言えるのかどうか、等々)は、本件の事案を踏まえて慎重に検討する必要がありそうです。
事案をかいつまんで説明すると、次のようになります。
Y会社は、Z会社との吸収合併契約承認の件(「本件議案」)を決議事項とする臨時株主総会(「本件総会」)を開催することとし、Y会社の代表取締役Aは、同社の株主Xに対し、本件総会の招集通知を発するとともに、本件総会にX自身が出席しない場合には、上記招集通知に同封された委任状用紙(「本件委任状用紙」)に本件議案に対する賛否を記載するなどして委任状を作成し、これを返送するよう議決権の代理行使を勧誘した。
Xは、Y会社を宛先とする本件委任状用紙を用いて、委任状の代理人欄(Y会社から送付されてきた段階では空欄になっていた)にAの氏名を記載するとともに、本件賛否欄の「否」に〇印を付け、その欄外に「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができません(合併契約書を表示して下さい)」との付記(「本件付記」)をするなどして委任状(「本件委任状」)を作成し、これをY会社に対して返送した。
本件総会において本件合併契約を承認する旨の決議がされたところ、上記決議が行われるに当たり、AはXの代理人として本件議案に反対する旨の議決権行使をした。Xは、Y会社に対し、Xの有する全株式の買取を請求した。
原審は、このような状況ではXは反対する旨を通知したとはいえないとして、Xが求めていた株式買取請求権行使に伴う価格決定申立てを却下したのに対して、最高裁は、次のように述べて、破棄差戻しをしました。
まず、最高裁は、反対通知の趣旨について次のように述べます。
そのうえで、本件で問題となった委任状に関しては、次のように述べます。
では、本件において「当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案」した場合に、「吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができる」かについて、次のように述べます。
会社法制定以前は、反対通知は書面ですることが要求されていた(平成17年改正前商法408条ノ3第1項等参照)のですが、会社法によってそのような書面要件は外されましたので、組織再編議案に反対するつもりであるという株主の意向が会社に伝わるのであれば柔軟に反対通知があったものとして取り扱ってよい、という緩やかな解釈がとりやすくなったのではないかと考えられます(小柿徳武「本件判批」法学教室521号〔2024年〕123頁参照)。
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