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【第19講】新判例情報(284頁)

株券発行会社の株式の譲渡は、株券の引渡しが効力要件とされています(128条 1 項)が、この点に関して、最判令和6年4月19日裁判所Webは、この規定(会社法128条1項)は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であるとしたうえで、

「株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である」

最判令和6年4月19日裁判所Web

と判示しました。

もっとも、株券の発行前の株式の譲受けが当事者間で有効だといっても、株券発行会社については、株式の譲受人は当該株式に係る株券の交付を受けない限り、株券発行会社に対して株主として権利を行使することができません(128条2項参照)。そうすると、株式を譲り受けた者としては、株主として処遇してもらうために、まずは株券を入手する必要があります。
そうはいっても、譲受人が譲渡人から株券を引き渡してもらおうにも、そもそも譲渡人は株券を持っていない(だって、そもそも会社が株券を発行していない)のですから、譲受人は譲渡人からは株券を入手することはそもそも不可能であり、会社に対して「株主として処遇をしてくれ」と言えないという、“詰んで”しまった状態になりかねません。

そこで、このような株券発行前の株式の譲渡の場合には、民法に定めのある債権者代位(民法423条1項)という制度を使って、本来、譲渡人が会社に対して有している株券発行請求権を、譲受人が代わりに行使することが認められるということも、この最判令和6年4月19日は併せて判示しています。

「株券発行会社の株式の譲受人は、株券の発行前に株式を譲り受けたとしても、当該株式に係る株券の交付を受けない限り、株券発行会社に対して株主として権利を行使することができないから(会社法128条2項)、当該株式を譲り受けた目的を実現するため、譲渡人に対して当該株式に係る株券の交付を請求することができると解される。そうすると、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文(平成29年法律第44号による改正前のもの)により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当である。」

最判令和6年4月19日裁判所Web

ちなみに、債権者代位権というのは、BさんがCさんに対して有している請求権を、Bさんの債権者であるAさんが代わりに行使するというものですが、判例ではAさんがCさんに債権者代位権を行使した場合に、Aさんは、Cさんに対して(Cさんとしては本来Bさんに渡す義務を負っているはずの)目的物を自分(Aさん)に渡せと請求することができます。

したがって、今回問題となっている株券の文脈だと、C=会社、B=譲渡人、A=譲受人ということになり、譲渡人(B)から会社(C)に対して有する株券発行請求権を、譲渡人(B)に対して株券交付請求権を有している譲受人(A)が代位行使することで、譲受人(A)は会社(C)に対して直接自分(A)に株券を引き渡すように請求ができる、ということになります。譲受人はこのような形で株券を入手することで、あとは通常の株券発行会社において株券の交付によって株式が譲渡された場合と同様の手続を経る(具体的には、株券を会社に提示して名義書換えを請求する)ことで、譲受人は会社からも株主として処遇してもらえることになります。その趣旨も、最判令和6年4月19日では判示されています。

「株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができるというべきであり(大審院昭和9年(オ)第2498号同10年3月12日判決・民集14巻482頁、最高裁昭和28年(オ)第812号同29年9月24日第二小法廷判決・民集8巻9号1658頁参照)、株券発行会社が、これに応じて会社法216条所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになる。したがって、上記文書につき、株券発行会社に対する関係で株主である者に交付されていないことを理由に、株券としての効力を有しないと解することはできない。」

最判令和6年4月19日裁判所Web

ちなみに、この最判令和6年4月19日の事案を図示すると、タイトル画像のようなものになります。ややこしいですね。

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