叔母と観た映画


#映画にまつわる思い出

 叔母が離婚して我が家に帰ってきた。
 といっても、もう70年近く前の話。
 叔母は母親(私の祖母)と折り合いが悪く、口喧嘩したときなど
よく私を町へ連れ出した。
 その日も、何か諍いがあったのだろう。
 叔母は私の手を引いて町に出ると、一軒の映画館に飛び込んだ。
 その頃は、どこの田舎町にも、2,3軒の映画館はあったのである。
 画面は白黒の邦画だった。

〇 夜の海岸
  一台の車が停まる
男「泳ぎたいな」
女「私、水着持ってないわ」

〇 砂浜
 夜の海に向かって手を繋いで走る男女の後ろ姿
 女は全裸・・・

 小学低学年だった私は、のけぞりそうになった。
 横の席の叔母をそっと見ると、目が合った叔母は照れたように笑った。
 映画館を出るとき、
「あんまり内容知らんと入ったから・・・」
と、叔母は言い訳みたいに言った。

 その叔母も去年亡くなったけれど、あの時の映画の1シーンは
そのあと観たどんな映画より鮮明に、私の脳裏に焼き付いているのである。
  


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