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電車にいた女の子の話

みなさん電車でどんな風に過ごします?

電車の中での過ごし方は、複数のコマンドがあると思います。

▶︎携帯をいじる
▶︎本、漫画、雑誌、新聞を読む
▶︎勉強する
▶︎ボーッとする
▶︎寝る
▶︎人間観察
▶︎広告を眺める
▶︎パソコンカタカタ
▶︎メイクする
etc...

モンハンやスマブラと同じように、電車に乗っている人間の数ほどコマンドがありますよね。(?)

まあ圧倒的に▶︎携帯をいじる、か、▶︎寝るが多いと思うんですけど、この間私が電車に乗った時に目にした5歳くらいの女の子は▶︎ボーッとする、だった。

スヤスヤ眠る母親らしき人の隣で、
女の子は何か絵本を読むでもなく、真っ直ぐ、車窓を見ていたんですよ。振り子みたいに小さく横に揺れながら。
(電車の揺れじゃなくて、自分の筋肉で横揺れを起こしていた)

その様が、なんかとっっっっても可愛かった。
めちゃくちゃ愛おしかった。
Love so sweetが流れるかと思った。(いや流れた)
ウォウ、ウォッウォオ〜♪イェーイイェイイェ〜♪

彼女が何を見つめているのか、
何を考えているのか、
私は知りたくてしょうがなかった。
だって曇りなき眼で横揺れしてるんだもん。

でも母親が寝ている間に声をかけたら犯罪者への一途を辿るだけなので、想像を膨らませるしかなかった。

それを今日は記していきたい。
本書は妄想記、空想記である。

🐣🐣🐣

ケース1. 車窓の外側を眺めている

単純に秒速で変わる景色を楽しんでいる。
「なんであのおうちはゆっくりうごいているんだろう」と考えている。

彼女は錯覚というものを知らない。

なのでせいぜい「おつきさまがついてくる!」とキャッキャッしててほしい。可愛いから。

「えっ、確実に◯◯君私のこと好きやん」などという錯覚なんか知る必要ありません。どうかあなたの恋路に幸多からんことを。

ケース2. 車窓に映る自分を眺めている

「わたしかわいい……」とでも思っていてほしい。

昨今いたるところで繰り広げられている"自己愛"セール。
「自分を好きになりましょう」という本や広告、楽曲が目から耳から入ってくるけど、そもそも自分が嫌いだという概念のない人は何のことやらのはずなのでまんまとこのセールに知らず知らず翻弄されている大人たち(自虐)を横目に、自分を大いに愛していてほしい。

ケース3. 何も考えていない

十分にありえる

ケース4. 「悪い人が乗り込んできた時にそれを退治する自分」をシミュレーションしている

よく授業が暇な時に妄想しちゃうアレ。

男子特有かと思われるけど、女子も想像する奴は想像する。

ケース5. 別の精神世界へ行っている

「あーあ、まま、ねちゃったなあ。ご本もないし、どうしようかなあ」
電車の揺れで寝てしまった母を見て、口をとんがらせる5歳のユカ。
喋り相手も、やることもない車内に流れる時間は、5歳児にとっては永遠のように感じられた。

足元を見ると、母に履かせてもらったお気に入りのキャラクターの靴がある。
ピンクを基調として、マジックテープが靴紐の役割を遂げており、正面から見た時に靴の大部分を占めるそのマジックテープの表面には、小さい女の子たちが三度の飯より夢中になるキャラクターの絵柄があしらわれていた。側面にはハートやリボンのデザインが施されており、世の女児たちが一度は憧れる代物だ。

この子たちとなら、どこへでも行けるのだと、ユカは信じていた。

自分の靴を見ながら、パタパタと足を動かしていると、母が言葉とも取れない寝言を言い始めた。
「降……よ……」
ユカは母の方を見て、「なあに、まま。きこえない」と返事をした。その瞬間、「あっ……」とかすかな声で、ユカは自分の口を手で覆った。
ユカは、以前母から「寝言にお返事をしちゃいけないよ」と教えられたことを思い出していた。
もっとも、返事をしたらどうなってしまうのかは教えられていなかった。

ユカがまばたきをした瞬間、自分以外の車内にいた人間が忽然と姿を消した。

「え……?」

そばで寝ていたはずの母親も、跡形もなく消えており、ユカは恐怖のあまりしばらく口を手で覆っていた。

「迷い込んだね」

毛並みを感じさせない、つややかな白猫が金色の目玉をじとりとさせて、ユカの正面に座っていた。

白猫の向こう側、車窓の外側には、地球が脅かされるのではと思うほどの大きさの惑星が空に浮かび、クラゲが浮遊し、風が花びらを運んでいる。遠くには惑星の発光を反射させキラキラ光る透明な海が広がっていた。

「怖がることはない。ここは君の意識の内側の、もっともっと奥底にある世界だよ。理解するには時間がもう少し必要なようだけど、理解できる頃にはもう君は大人になりすぎているだろうね」

確かに白猫が喋っているはずだが、声が聞こえている間にも白猫の体はぴくりとも動いていない。ユカはまだ口を覆ったままだった。

車窓から、透明な海にぽたりと一滴だけ、青色のインクを落としたような少しだけ濃い青と、薄い青がグラデーションになっている羽を持つ蝶々が入ってきた。羽は光に透けていて、白猫の輪郭も見えるほどだった。ひらひらと舞っている。

「とうめいなちょうちょだぁ……!」

「綺麗だろう。君が綺麗だと感じるもの、いいと感じるもの。ここはそれらが一堂に会す場所だよ」

ユカは羽を忙しなく動かす蝶々を目で追う。手の存在を忘れ、あんぐりと開けられた口があらわになる。
白猫は喋り続けた。

「でも君らは月日が経つにつれ、この部屋の扉の外側にあれもこれもって色々なものを置いていく。どんどん積み重ね、道を塞ぎ、しまいには完全に埋もれちゃって、部屋がどこにあったのかわからなくなるらしい。ただでさえ奥底にある部屋なのに。とんだおバカさんだよ」

ガタン、と、空気を遮断するような大きな音ともに、辺りは一瞬にして真っ暗になった。
金色に光る灯りが二つ浮かんでいるだけで、他は何も見えなくなってしまった。

「で、どこにあったかわからなくなったことすら、忘れてしまう。次に思い出した時には、本当に必要な時に戻ってこれなかった自分を悔やむほど、途方もない時間が経ってしまっているんだ。簡単に忘れるくせに、実はずっと求めている」

ユカは二つの灯りをじっと見つめる。

「僕らはいるよ」

「いる?」

ガタン、と、また音がした。
ユカは音と同時に窓が震えていることに気づく。

束の間、急に日が差し、ユカは咄嗟に目を閉じた。ジーンと、光の残像と温度が眼球に伝わる。

光に慣れた頃、目をゆっくり開けると、白猫はいなくなっていて、代わりにおじさんが座っている。

車窓の向こう側は、色とりどりの雲も、クラゲも、大きすぎる惑星も、透明な海も、すべて消えていた。

「あれ……?」

元いた車内に戻っていた。

「まま……!」

すでに懐かしく感じる呼び名を呟く。
隣で寝ていたはずの母親が目を覚ましており、「降りるよ」とユカに優しく声かけをした。

ユカは透明なものが飛んでいるような気がして、ふっと振り返る。

「どうしたの?」

「あのね、ユカ、このおくつはいてたら、どこへでもいけちゃうんだよ! あとね、ねごとにおへんじをしたらね、きらきらたくさんの、ねこちゃんにあえるんだよ!」

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